「私とチャールズはあなたのお母様と結婚する前から恋人同士だったのよ。けれど、お互いに親から結婚相手を決められていたので、一緒になるのを諦めざるを得なかったの。先に結婚したのはチャールズの方だったわ。私はその1年後に結婚したの」
ダニエラは物語でも読むかのように、スラスラと自分たちの過去話を始めた。
「互いに想い人がいるのに、結婚しても当然うまくいくはずないでしょう? だから私たちは結婚後も秘密の逢瀬を重ねてきたの。でもまさかアンジェリーナさんが出産と同時に亡くなるなんて思いもしなかったわ」
その話にアンジェリカは目を見開く。
「え……? もしかしてお母様のことを御存知なのですか?」
「当然じゃない。だってチャールズの結婚相手なのだから」
得意げに笑みを浮かべるダニエラの話はまだ続く。
「そしてね……私はこの子を身籠ったのよ?」
ダニエラは傍らに座るローズマリーの肩を抱き寄せた。
その話にアンジェリカは耳を疑う。
「勿論、夫は自分の子供だと信じて疑っていなかったわ。でも私は分かるの。ローズマリーは間違いなく、チャールズとの間に出来た子供だってことがね。夫に真実を話すつもりも無かったし。結局、あの人は死ぬまで真相を知ることは無かったのよ」
「え? 死ぬまでって……?」
「夫はね、去年病死したのよ。私も娘も1年喪に服したわ。そして正式に夫の家とは縁を切って、この度チャールズと再婚したのよ」
ダニエラの話を、笑みを浮かべて聞いているローズマリー。その姿がアンジェリカには信じられなかった。
(私は未だに一度も会った事のない母のことを思うだけで寂しい気持ちが込み上げてくるのに……ローズマリーは違うのね)
するとローズマリーが笑顔で話しかけてきた。
「お姉様。私、ずっとお姉様とお会いしたいと思っていたの。会えて本当に嬉しいわ。これから姉妹としてよろしくお願いします」
「ずっと私に……?」
唯一の家族である父から冷たい仕打ちを受けていたアンジェリカにとって、その言葉はとても嬉しかった。そこでアンジェリカも笑顔で返す。
「ええ、私こそよろしくね。ローズマリー」
「私も新しい娘が出来て嬉しいわ。よろしくお願いね、アンジェリカ」
イザベラも声をかけてきた。
「ありがとうございます、お母様」
3人の間に良い空気が流れた時。
「よし。顔合わせも済んだことだし、アンジェリカ。お前はもう部屋に戻れ」
「はい、お父様」
本当はもう少し話をしたかったのだが、父親にそう言われては従うしかなかった。
アンジェリカは立ち上がると、会釈した。
「それでは失礼いたします」
「またね、お姉様」
「またね」
手を振るローズマリーとイザベラに見送られ、部屋を出て扉を閉める直前に父の言葉がきこえた。
「よし、それでは早速今夜は家族水入らず3人で夕食を食べよう」
(え……?)
アンジェリカの顔から血の気が引く。するとイザベラとローズマリーの楽しげな声が聞こえてきた。
「あら、それは素敵ね」
「はい、お父様」
—―パタン
扉を閉めたアンジェリカの目には涙が浮かんでいた。
—―家族水入らず3人で。
このセリフは、父が明らかに自分に対して当てつけで言っているのは容易に理解出来た。
(お父様は……やっぱり私を家族とは認めていなかったのね……)
アンジェリカの目に涙が浮かぶ。
「……っ」
こぼれ落ちそうになる涙を拭うと、アンジェリカはフラフラと部屋へ向かった。
愛しいセラヴィの姿を思い浮かべながら——