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3章12 現れた家族 1

—―17時半


 デートが終わり、2人を乗せた馬車がブライトン家に到着した。


「送ってくれてありがとう、セラヴィ。今日も楽しかったわ」


すると突然セラヴィはアンジェリカの手を引くと、強く抱きしめてきた。


「ど、どうしたの?」


「……帰したくない」


「ええっ!?」


耳元でポツリと囁かれ、途端にアンジェリカの顔が真っ赤になる。


「卒業まで、後半年か……長いな。早く結婚して一緒に暮らしたいよ」


切なげに訴えてくるセラヴィに、胸の鼓動が高まる。


「私もよ……早く、あなたと結婚したいわ」


2人はどちらともなく顔を近付け……別れのキスを交わした――




****



 屋敷に戻ると、フットマンが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、アンジェリカ様」


「ええ、ただいま」

「旦那様が、大切な話があるそうなので書斎においでください」


フットマンの言葉に、先程までの楽しい気持ちが一気に冷めていった。


「え? お父様が?」


「はい、そうです。急ぎで来るようにとのことでした」


「分かったわ。ではすぐに行くわ」


「はい、よろしくお願いいたします」


アンジェリカはフットマンに見送られ、父の書斎を目指した。


(お父様は滅多なことでは私を呼ばないのに。私、何かそそうをしてしまったのかしら)


けれど何一つ心当たりはなかった。今日のセラヴィとのデートだって門限を破ったわけでもない。

不安な気持ちを抱きながら、アンジェリカは書斎の前に辿り着いた。


緊張を解くために一度深く深呼吸すると、アンジェリカは扉をノックする。


—―コンコン


すると扉が開かれ、筆頭執事のルイスが姿を現した。


「アンジェリカ様、お待ちしておりました。どうぞ中へお入りください」


「はい。失礼致します……え?」


部屋に入った途端、アンジェリカは足を止めた。

何故なら2人の女性がソファに座り、チャールズと楽し気に話をしていたからである。

女性達は共に栗毛色の髪で、雰囲気が良く似ていた。

若い娘の方はアンジェリカと同年代に見える。


(あの人たちは誰なの……? それに、お父様が笑っているなんて……)

まるで信じられない物を見せられているようだった。アンジェリカは一度でも笑顔の父親と会話したことが無いのに、女性達は当然のように父と楽し気に会話をしているのだから。


するとアンジェリカの様子を見ていたヘクターが、チャールズに呼びかけた。


「お話し中、申し訳ございません。アンジェリカ様をお連れいたしました」


すると3人はようやくアンジェリカに気付いたようで、一斉にこちらを振り向く。


「来たのか、アンジェリカ」


途端にチャールズの顔から笑顔が消え、冷たい視線を向けられる。


「は、はい。お父様」


緊張しながら返事をすると、娘の方が嬉しそうに笑いかけてきた。


「まぁ、それではあの方が私のお姉様ね? 初めまして、お姉様。私はローズマリーです。よろしくお願いします」


「え?」


一瞬何のことか分からず、アンジェリカは言葉を失う。すると……。


「アンジェリカッ! 妹が挨拶しているのに、お前は何故無視をするのだ!」


突如としてチャールズに怒鳴りつけられた。


「も、申し訳ありません! 無視したわけではありません。お姉様と呼ばれて驚いてしまっただけです。お許しください」


アンジェリカは必死で謝罪の言葉を述べる。


「旦那様、どうか落ち着いて下さい。事情が何も分からないのに、いきなりお姉様と呼ばれてはアンジェリカ様が戸惑うのも無理はありません」


ビクビクしながら謝るアンジェリカを庇うようにルイスが口を挟むと、女性がチャールズに尋ねた。


「チャールズ。この娘に何も話していなかったの?」


「ああ。何も話してはいない。お前たちと会わせたときに話そうと思っていたからな」


アンジェリカの方を見ることも無く、チャールズは答えた。


「あら、そうなの……やっぱりあなたって人は……仕方のない人ね」


女性はアンジェリカをチラリとみると口元に笑みを浮かべる。


「お父様。だったら早く説明してあげて」


「そうだな。可愛い娘の願いだからな」


チャールズは顔をほころばせて、ローズマリーの言葉に頷くと、再び冷たい眼差しをアンジェリカに向けてきた。


「アンジェリカ、良く聞け。今日から彼女たちは、この屋敷で一緒に暮らすことになる。お前の義理の母親ダニエラと、異母妹のローズマリーだ。仲良くする様にな」


それは有無を言わさない強い物言いだった。


異母妹という言葉に驚いたが、それ以上に驚いたのは一緒に暮らすと言う言葉だった。


「え……? 今日から、この屋敷で……ですか?」


「何だ! その言い方は! 当主である私に逆らうつもりか!?」


「いえ! そんな逆らうなんて……」


ビクリと肩を震わせると、ダニエラがチャールズを止めた。


「あなた、落ち着いて下さい。突然押しかけて来た私たちをアンジェリカが良く思わない気持ちは分かるわ。誰だって、こんな話到底受け入れられないもの」


(え……? そんなこと言っていないのに……)


アンジェリカの顔が青ざめる。


「え? お姉様、そうなのですか?」


ローズマリーが悲しげな顔を向けた。


「アンジェリカッ! その話は本当か!?」


途端にチャールズの叱責が飛んできた。


「違います! そんな風には思っていません。た、ただ驚いているだけです。だって……異母妹だなんて……」


アンジェリカはそこで言葉を切る。

異母妹……つまり母親は違うが、父親は同じということなのだ。


(どういうことなの……異母妹だなんて……お父様、いつの間に……)


すっかりアンジェリカの頭は混乱していた。


「そう、つまり説明が欲しいっていうわけね? だったらこの私が教えてあげるわ」


ダニエラはニコリと笑って、アンジェリカを見つめた――


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