「この店なんかどうだ? アンジェリカに似合いそうなアクセサリーが売ってそうだ」
セラヴィがアクセサリーショップの前で足を止めた。その右手はしっかりアンジェリカの指を絡めるようにつないでいる。
前回の初デートから1週間が経過しており、今日も2人はデートの為に町まで出て来ていたのだ。
「あ、あのセラヴィ。先週沢山プレゼントを貰ったから、今日は大丈夫よ」
顔を赤らめながらセラヴィの申し出を断るアンジェリカ。
町中で、しかも指を絡ませる手繋ぎデートが恥ずかしくてならなかったのだ。
「何言ってるんだよ。先週は時間が無くてあまり買い物が出来なかったじゃないか。俺はもっと色々プレゼントをアンジェリカに贈りたいんだよ。その……いつも綺麗に着飾っていて貰いたいからな」
「でも、そんなに貰ってばかりでは悪いもの。買い物はもう十分よ」
ますますアンジェリカの顔が赤くなる。
「だったら、買い物以外なら他に何があるんだ?」
「そうね……公園に行くなんてどうかしら?」
少しだけ考え、アナを思い出した。婚約者と良く公園デートを楽しんでいるという話を聞いたことがあったのだ。
「え? 公園に行くのか?」
「ええ。2人で綺麗な景色を眺めなガラを公園を散策するとか……別にお金を使わなくても楽しめるデートってたくさんあると思うの」
自分で『デート』と言う言葉に恥ずかしさが込み上げてくる。
「そうか、公園デートか……うん、いいかもしれない。今すぐ行こう。確かこの近くに公園があったはずだ」
「ええ、行きましょう」
アンジェリカが頷くと、セラヴィの握りしめる手が強まった——
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2人が訪れたのは、ボートに乗ることが出来る池もある大きな公園だった。本日は休日と言うこともあり、賑わいをみせている。
手を繋ぎながら歩いていると、ドーナツを売っている屋台が見えてきた。
「あら、ドーナツ屋さんだわ」
「甘い匂いがすると思ったら、ドーナツ屋だったのか。そういえば、アンジェリカは甘いものが好きだったよな?」
「ええ、好きよ」
「よし、だったらあの屋台でドーナツを買って食べよう」
セラヴィの提案にアンジェリカは驚いた。
「え!? そ、外で食べるの? 駄目よ、そんなことしたら!」
「何でだ? 皆外で食べているじゃないか」
公園を見渡してみると、あちこちで何かを食べている人たちがいる。
「言われてみればそうだけど……でも、お父様にバレたら怒られてしまうわ」
父からは伯爵令嬢としての恥じない行動を取るようにと言われているアンジェリカは、外で食事をすることは、いけないことだと思っていたのだ。
「大丈夫だって、伯爵がここにいるはずないだろう? 絶対バレないって」
「……そうね。セラヴィの言う通りかもしれないわね。だったら私、ドーナツが食べたいわ」
「よし、なら早速買いに行こう」
「ええ」
こうして2人は手を繋ぎ、ドーナツを売る屋台へ向かった。
「いらっしゃいませ。ドーナツをお求めですか?」
屋台の店主は年若い男性で、2人を見ると笑顔で迎える。
「はい、そうです。アンジェリカ、どれがいい?」
「そうね……どれがいいかしら」
セラヴィに尋ねられ、アンジェリカはケースに並べられているドーナツをみつめていると店主が勧めてきた。
「こちらのドーナツがお勧めですよ。砂糖の代わりにハチミツで作られていて、若い女性に大変人気がある商品なのです」
「本当ですか? ならこれにします」
店主は笑顔で返事をすると、今度はセラヴィに尋ねた。
「ありがとうございます。お連れの方は何にいたしますか?」
「それじゃ俺はこのシナモンドーナツにしよう」
店主はそれぞれドーナツをペーパーに包んで渡し、セラヴィはお金を支払った。
「ありがとうございます。500カレンになりますね。ところでお2人は恋人同士なのですか?」
「ええっ!?」
突然の店主の質問にアンジェリカは目を丸くすると、セラヴィが素早く返事をした。
「そうです。俺たちは恋人同士です」
「セ、セラヴィ……」
臆することなく、堂々と人前で恋人宣言をするセラヴィにアンジェリカの胸はときめく。
「そうですか、こんなに素敵な女性が恋人なんて素敵ですね」
「ええ。誰かに取られはしないか毎日心配でしようがないですよ。それじゃ、行こう」
セラヴィはアンジェリカの肩を抱くと、足早に連れ去って行った――