――翌日
セラヴィヘの恋心を自覚し、卒業後に結婚の約束をしたアンジェリカは浮かれた気分で登校してきた。
「おはよう、アナ!」
教室に入ると、既に登校していたアナに元気よく声をかけるアンジェリカ。
2人は高等部の3年生になっても、同じクラスだったのだ。
「おはよう、アンジェリカ。今朝は随分元気がいいわね」
「フフフ、分かる? 実は、昨日とってもいいことがあったの」
「そうなの? 確か昨日は週末だからセラヴィとの顔合わせの日だったわよね?」
アンジェリカはアナが首を捻る様子を笑顔で見つめている。
「その様子だと、セラヴィと何かあったのね? 良いことでもあったの?」
「え、ええ……実は昨日、セラヴィと結婚の約束をしたの」
恥ずかしそうに頬を染めるアンジェリカ。
「え? でも元々2人は婚約者同士だったじゃない。それを今更……え? もしかして……」
「私ね、セラヴィのこと……好きになったみたいなの」
するとアナの目が見開かれる。
「そうだったの!? セラヴィには恋愛感情は持っていなかったはずなのに、いったいどうしちゃったの?」
「しーっ。アナ、声が大きいわ。他の人に聞こえちゃう」
「あ、ごめんなさい。つい興奮してしまったわ。それで昨日一体何があったのよ」
「あのね……」
アンジェリカは昨日のことをかいつまんで説明した。
セラヴィから服やアクセサリーを沢山プレゼントして貰えたこと。2人で刺繍の展覧会に行ったこと。帰りに喫茶店に入って、おしゃべりをしたこと……等など。けれど、初めてキスを交わしたことは内緒にした。やはりいくら親友とはいえ、キスのことは恥ずかしくて報告出来なかったのだ。全ての話を聞終えたアナは頷く。
「そうだったのね。それは、はっきり言ってデートね」
「ええ、セラヴィもデートだって言ってたわ」
するとアナはアンジェリカの手を両手で握りしめてきた。
「おめでとうアンジェリカ。私、ずっと心配していたのよ。だって2人は一度もデートすらしたことが無かったでしょう? それで将来結婚して上手くやっていけるのかなって思っていたのよ」
「アナは婚約者と上手くいっているものね?」
アナと婚約者はとても仲が良いことで学園でも有名だった。そんな2人をアンジェリカは密かに羨ましいと思っていたのだ
「ええ。おかげさまでね。アンジェリカは急展開ね。でも、ひょっとしてセラヴィは以前からアンジェリカともっと親しくなりたかったんじゃないかしら?」
「そ、そうかしら? だったら嬉しいけど……」
その時。
「あなたたち、さっきから話声が大きくてうるさいわよ!」
突然背後から批判的な言葉を浴びせられ、2人は驚いて振り向くと、明らかに不機嫌な顔をしたヴェロニカがいた。
彼女も高等部になっても、同じクラスメイトだったのだ。
「ごめんなさい、ヴェロニカさん」
「うるさくしてごめんなさい」
相手は侯爵令嬢ということもあり、アンジェリカとアナは素直に謝る。
「ふん! 婚約者の話で浮かれちゃって……こっちはあの時、見合いを一方的に断られたことでケチが付いてしまったって言うのに」
ブツブツ言いながら、ヴェロニカは去って行った。
「行ったわね……」
「びっくりしたわ」
ヴェロニカが去ると、アナは不満を口にした。
「全く、10年前に一方的にお見合い断られたからと言って、今も引きずるのはおかしいと思うわ。単に自分の性格に落ち度があるからじゃないかしら」
「アナ……相変わらず、はっきりものを言うのね?」
その発言に思わず苦笑する。
「それは言うわよ。でも、確かに言いすぎだったかも。どうやらヴェロニカ様のお見合いした相手は銀色の髪に金色の瞳の美しい方らしいわ。周囲では『冷血伯爵』なんて呼ばれているみたいだし。何でも噂によると、伯爵には忘れられない女性がいるそうなの。だから誰とのお見合いも断っているらしいわ」
「そうなの?」
(銀色に髪に、金色の瞳……)
アンジェリカは何故か昔自分が飼っていたシルバーを思い出すのだった――