セラヴィのように、本を持ってこなかったアンジェリカは手持無沙汰で暇を持て余していた。
(退屈だわ……セラヴィ様に断りを入れて、私も何か部屋から本を持ってこようかしら?)
けれど今日は初の顔合わせであり、大切な見合いの日でもあった。途中で退席すれば失礼にあたる。
セラヴィからは無理に仲良くなる必要は無いと言われたものの、やはり父に命じられたように仲良くなりたい。
(時間になるまで、待つしかないわね)
そこで余計な真似はせず、アンジェリカは時間が過ぎるのをじっと待つことに決めた——
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見合いが始まって、小一時間が経過しようとしていた。
セラヴィは余程本が好きなのか、脇目もふらずに一心不乱に読みふけっている。
途中でニアが2人の為にお茶とケーキを運んで来たが、それに気付くことも無く読書を続けていたのだ。
その様子にニアは呆れた様子を見せたものの、静かにその場を立ち去って行った。
アンジェリカは音を立てないようにお茶を飲み、ケーキを食べると再び静かに待つことに徹することにしたのだが……。
(どうしよう……眠くなってきたわ…)
目をこすったり、自分の手をつねってみたりと何とか眠気と闘うも、強烈な睡魔がアンジェリカを襲ってくる。
しかし、それは無理も無い話だった。
昼食もティータイムも終え、お腹は程よく満たされている。穏やかな昼下がりで暑くも寒くも無い穏やかな気候。
時折吹く風が木々を揺らし、ざわざわと鳴る木々の音はアンジェリカの眠気を増幅させる。
瞼を開けているのも容易では無かった。
(もう駄目だわ……眠くてたまらな……)
そこで、アンジェリカの意識は切れてしまった――
「……ったく! 見合いの席で眠ってしまうとはどういうことだ! とんだ恥をさらしてくれおって!」
遠くで父親の怒りに満ちた声が聞こえてくる。
「落ち着いて下さい、旦那様。ですが、お見合いはうまくいったようではありませんか」
(あれは……ヘレナの声……? お見合い……うまくいったの……?)
アンジェリカは夢うつつのまま、再び深い眠りについた——
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「う~ん……」
ゴロリと寝返りを打ったところで、突然アンジェリカの目が覚めた。
「え!?」
目を開けると、いつもの見慣れた天井が見える。
「ここ……私の部屋? え!? 一体いつの間に……?」
セラヴィとのお見合いの最中、どうしようも無い程の眠気に襲われたところまでは覚えている。けれどそこから先の記憶が全くなかった。
「今何時なのかしら…‥?」
ベッドサイドの時計を見ると、時刻は17時になろうとしている。
「う、嘘!?」
慌てて窓を見ると、空はオレンジ色に染まっている。
「どうしよう……お見合いの最中に眠ってしまったなんて。きっとお父様もセラヴィも怒っているに違いないわ! お見合いの話が無くなってしまえば、お父様に怒られてしまう。すぐに謝らないと」
アンジェリカはベッドから降りると、ブラシをあてて姿見の前で身支度を整えた。
父親に挨拶をするには、身なりを整えていないと怒られてしまうからだ。
「おかしなところは無いかしら……ヘレナかニアがいてくれれば見てもらえるのに」
けれど2人も仕事で忙しいし、呼びつけるのは気が引けた。何より、2人を待っている時間が惜しい。
「急がなくちゃ!」
部屋を出ると、アンジェリカは急ぎ足で父親の書斎へ向かった。
怒られるのを覚悟のうえで——