2人きりにされたアンジェリカは、セラヴィにどうすれば良いか分からなかった。けれど、父に認めてもらうには彼に気に入られなければならない。
そこで恐る恐るアンジェリカは声をかけることにした。
「あ、あの……セラヴィ様」
「別にセラヴィでいいよ」
返事がもらえたことで少し安心する。
「それでは私のこともアンジェリカと呼んで?」
「うん」
返事をしたセラヴィはガゼボの中に入ってくるとベンチに腰かけた。
「……」
アンジェリカは黙ってその様子を見ていると、セラヴィが首を傾げる。
「どうしたの? 座らないの?」
「あ、座るわ」
アンジェリカもベンチに座ると、セラヴィはポケットから本を取り出して読み始めたのだ。
その様子にアンジェリカは驚く。
(え? 本を読んでしまうの? 私たち……お見合いをするのでは無かったかしら?)
『せいぜい相手の令息に気に入られるように努めることだ』
ふと、父の言葉を思い出す。
(そうだったわ。私は彼に気に入られなければならないのだっけ。でも……そのためには話をしないと……)
読書中のセラヴィの邪魔をするのは気が引けたが、思い切って声をかけることにした。
「あの……セラヴィ」
「何?」
本を読んだまま、セラヴィは返事をする。
「折角なので、私と何かお話しない?」
「話? どんな?」
セラヴィはアンジェリカの方を見向きもしない。
「例えば……そうね。趣味とか……」
「見れば分かるだろう? 読書だよ」
「私も読書は好きよ。私たち、気が合いそうね」
必死でセラヴィに話しかける。すると……。
「アンジェリカ」
「はい!」
名前を呼ばれたので、アンジェリカは元気よく返事をした。
「君も読書が好きなら、分かるよね? 集中して本を読めないから話しかけないで貰えないかな?」
「あ……ご、ごめんなさい。だけど……」
指摘され、顔がカッと熱くなる。
「あのさ‥‥‥」
セラヴィは本から顔を上げると、アンジェリカの顔を初めて見つめた。
「親から何を言われているかは分からないけれど、別に無理に仲良くなろうと思わなくていいよ。だって、僕達が将来結婚するのはもう決まっていることなんだから。たとえ、本人同士が相手のことをどう思おうともね」
「え? それって……」
「つまり、僕が君にちっとも関心を持っていなくても親の命令に従わなくちゃならないんだから無理に仲良くなろうとする必要は無いだろうってことだよ」
「……」
その言葉に子供ながらも傷付くアンジェリカ。
「何だよ? そんな顔して……どうせ、君だって親の言いなりになって僕とお見合いすることになったんだよね?」
「それはそうなのだけど……でも、婚約者になるのなら仲良くなった方が楽しいでしょう?」
「別に楽しくなくたっていいよ。それより、いい加減静かにしてもらえないかな? 本の続きが読みたいんだけど」
「ごめんなさい」
そこまで言われてしまえば、もうアンジェリカは静かにするしかなかった。
(これ以上、話しかければ嫌われてしまうかもしれないもの……)
こうして、奇妙なお見合いの時間が始まった――