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1章 2 冷たい父

 へレナはチャールズの書斎を訪ねていた。


「お願いです。明後日の旦那様の誕生日を今年こそ、アンジェリカ様にお祝いさせて下さい」


「いいかげんにしろ! そんなくだらないことを言う為だけに、ここへ来たのか!? 見てのとおり俺は忙しい。さっさと出て行け!」


必死で頭を下げるヘレナを忌々し気に見つめるチャールズ。それでもヘレナは食い下がらない。


「そのようなことを言わず、お願いいたします。お祝いと言いましても、むずかしいことは要求いたしません。ただ、アンジェリカ様と一緒に食事をして頂けるだけで構いませんので」


「くどいぞ!」


その様子を傍で見ていた秘書のヘクター。


(さすがにこのまま黙って見ていることも出来ないな……ヘレナさんは引き下がるつもりは無いだろうし、このままではチャールズ様の苛立ちも募って仕事に影響が出そうだ。余計なお世話かもしれないが、仕方がない)


そこでヘクターは話に入ってきた。


「チャールズ様。差し出がましいですが、私からも申し上げます。アンジェリカ様とはもう5年も疎遠になっているではありませんか。そろそろお会いになって、お話をされてみてはいかがですか?」


「うるさい! ヘクター! お前は仕事上の秘書だろう!? 私生活については一切口を挟むな!」


「はい……申し訳ございません」


一喝され、すぐに謝罪するヘクター。


「大体、子供は男しか望んでいなかったのだ! それなのに、女子など産みおって……! 全く、どこまでもあの女は使えなかった」


その言葉にヘレナは黙っていなかった。


「旦那様! 何故そのような酷いことをおっしゃるのですか!? 仮にもアンジェリーナ様は旦那様の妻だった方ですよ!?」


「黙れ! あの女を妻などと言うな! 政略結婚でやむを得ず結婚しただけだ! これ以上、当主である私に意見するならクビにするぞ!」


「クビ……? そ、それだけはお許しください! 私がいなくなれば、アンジェリカ様のお世話をする者がいなくなってしまいます!」


クビという言葉に青ざめたヘレナは必死で謝罪する。


「なら、さっさと出ていけ! クビにされたくなければな!」


「はい……申し訳ございませんでした……」


ヘレナは謝罪の言葉を述べると、執務室を出て行った。



――パタン


扉を閉じると、ヘレナはため息をついた。


「やはり駄目だったわ……アンジェリカ様に何と伝えれば良いのかしら……あんなに旦那様の誕生日祝いを楽しみにしていたのに……」


ヘレナは重い足取りで、アンジェリカの元へ向かった――



「あ、お帰りなさい! ヘレナ!」


ヘレナが部屋に戻ってくると、アンジェリカが笑顔で駆け寄ってきた。

「アンジェリカ様、お利口にしていましたか?」


ヘレナはアンジェリカを抱き上げる。


「うん、あのね。ニアがお茶とクッキーを出してくれたの。とっても美味しかったわ」


その言葉に、後ろで控えていたニアが会釈する。


「そうですか、それは良かったですね。ところで、アンジェリカ様。お父様のお誕生日のことですが……」


ヘレナが重い口を開いたとき。


「お父様、お仕事が忙しくて無理なのでしょう?」


「え?」


「プレゼントだけ渡せれば大丈夫。お父様、喜んでくれるかしら?」


「ええ、勿論ですとも。あれ程素敵な絵なのですから、お喜びになるに違いありません」


「本当?」


「ええ、本当ですとも」


その言葉に、アンジェリカは笑みを浮かべるのだった――



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