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第13話

今や、控え室では、ローストビーフ、いや、肉を、口へ運ぶ事しか興味はなくなってしまったようだった。


ジョンも、リジーも、ここぞとばかりに厚切にされたローストビーフを口にして、満面の笑みを浮かべている。


カチャカチャと、ナイフとフォークのぶつかり合う音と、時折、マッシュポテトが入ったボールを取り合うジョンとリジーの言い争い以外は、実に、平和な時が流れてはいるが、レジーナは、使用人達の様子を伺いながらお茶を嗜むので精一杯だった。


結局、彼らは、何がしたかっだのだろう。


仕事確保の為に、身銭を切って、レジーナを故郷へ送り出し、ついでに、世の中へ、婚約者の醜聞を広めてくれた。


戸惑う、レジーナへ、依然として、レジーナ夫人と呼びかけ、肉の塊を勧めてくれる……。


「あの……」


どうも、居心地の悪さにたまりかね、レジーナは、ビートンへ声をかけた。


「お茶のおかわりですか?まあ、色々ありましたから、喉も乾きますでしょう」


何杯も、お茶だけを飲むべきではない。マナーから、ずれていると執事は言いたいのだろうとレジーナは思う。


先ほど見せた、何かしら、いたわるような気配は、ビートンからすでに消え失せていた。


「お茶はもう、いいわ、それより……部屋へ下がります」


レジーナの一言に、リジーがひっと、息を飲む。


「ああ、構いません。皆は、そのままで」


食事を続けて良いと言われて、リジーは、ほっとしている。


「フィッシュ&チップスを、まだ、食べてない……」


「ええ、だから、私のことは構わないで。部屋には、鍵が掛かっているのでしょ?鍵を頂戴」


レジーナに、独り言を聞かれたと、リジーは口元を手で押さえ、うつむいた。


「ああ、お嬢様が、構わねぇって言ってんだ。リジー、ジョンに食われちまう前に、魚のフライ、口に放りこんどけ」


ああ、なんで、たらが、手に入りにくいだ?と、マクレガーが、愚痴りつつ、ポテトでかさましされた、フィッシュ&チップス山盛りトレーをリジーの前に置いてやる。


「マクレガー、あなたの仕入方に問題があるのでは?」


ポテトの影に隠れる鱈のフライに、目をやりながら、ビートンは、マクレガーが仕入代金をけちったからではないかと、言いたげだった。


その側から、たまりかねたように、レジーナが言った。


「鍵を、渡して頂戴!皆の時間をこれ以上、奪ってもいけないわ!」


今だ刺のある言葉しか、使用人へかけられない主人に、マクレガーは、首を降った。ビートンは、変わらず、静かに上着の内側から、鍵束を取り出すと、レジーナの部屋の鍵を抜き取り、差し出しながら言った。


「お嬢様のものです。どうぞ、ご自由に」


「ありがとう」


レジーナは、ビートンの意味深な言葉の意味合いが理解できない。しかし、使用人達は、分かっているのか、そっぽを向いて肉を食べている。


レジーナにとって、その団結している具合も鼻についた。


使用人同士だから、それは、仕方ない。そう分かっていても、今は、普段、普通に行われていることですら素直に受け入れる事ができなかったのだ。


すべては、兄と、ディブの行いからによるものだが、その騒動を表沙汰にしようと、画策するビートンが、無性に腹立たしく、そして、なにやら、レジーナを思って、言い含む素振りが、苛立ちを増してくれた。


どうして、素直に、ハッキリ言わないのだろう。まあ、それが、執事、というべきものなのだけど。


なかば、諦めつつ、レジーナは、部屋を出た。


「馬鹿みたい、何度、部屋を退室すればいいのかしら」


結局、何も言い返す事なく、追い出される自身に、レジーナは涙が溢れそうになっていた。


ビートンに、バレてしまうのは、癪にさわる。ドレスを握りしめ、どうにか、堪えるが、思えば、これに、ハサミを入れて、ポンポン飾りを切り取ったりと、ビートンの罠のような仕掛けに乗ってしまった自分を、レジーナは恥じた。


そんなもの、怪しいと思えば、ビートンに、確かめさせればよかったのだ。事実、彼は、彼なりに動き、前もって情報を集めていた。そして、余計な情報も、広めていた。


してやられたと、ばかりに、悔しさを感じつつ、レジーナは、階段の一段一段を、しっかり、踏みしめ部屋へ向かったのだった。


「……ビートンよ、ありゃ、分かってねぇなぁ」


レジーナが、出て行った控え室では、マクレガーが、呟いている。


ほらよ、と、リジーへ、ライスプディングをよそってやりながら。


「まあ、しっかりされてますが、お嬢様育ちですからね。私達とは、住む世界が違いますから、どうしても、という所はあるでしょう」


「でも、俺でも分かるのに、なんで、お嬢様は、分かんないですかねー」


ジョンが、ポテトフライを手掴みで口へ放り込み、塩が欲しいと、呟く。


「まっ、明日の朝になったら、お嬢様も、お分かりになるでしょう」


ビートンは、とくに気に止めることもなく、淡々と答えた。


「あー、ビートンさん、結局、今日のパーツツィーって……」


「おお!そうだ!何があった!ジョン!表側は、騒がしかったし、あの心づけは、なんだ!!」


ディブと、コリンズの企みを見ていないマクレガーは、教えろと、せがんで来る。


「うーん、マクレガーさん、やつら、何がしたかったのか分からないんだけど、今日の主宰者とやらは、実は、コリンズだった、それも、かつらまでかぶって変装してさぁ。連れて来た客は、まさに、パフで、くだまいてる様な野郎ばかりだし」


「だから、言ったろ?結局、なんとか卿は、来れなくなって、ディブの野郎が、取り仕切るんじゃないかって」


結構いい線行ってたな、賭けときゃよかったか、ジョン?などと、マクレガーは、おどけているが、ビートンは、どこか、上の空だった。


「悔しいですねぇ、今回のパーティーの目的を暴けなくて」


「そりゃ、ビートン、お前が、ミドルトン卿を呼び寄せたからだろう?」


「ええ、まあ、そうなりますか。実態をお見せした方が早いと思いつつ、が、もしものために、ゴシップ紙に、情報を売っておいてよかったです」


「ですよねー、あのままだと、結局、ディブの口車にのせられて、卿は、丸め込まれていたはずだし……」


「そう、ジョン、あなたの言う通り。レジーナお嬢様のせいにするのが、男達にとっては、一番の逃げ道ですからね」


何はともあれ、皆に、起こっていることを見てもらえたのだから、それで、よしとしよう。とは、ビートンとマクレガーの弁で、ジョンとリジーは、お陰で肉が食べられたと、大喜びだった。

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