『……妖精界に乗り込むのは
「そう。それなら協力してもいい。
由良はなぜかあやめの提案を蹴り、自分のものを提示した。その意図はあやめにはわからない。もとより、催眠がかかった人間の考えることなどわかりようもない。
それでも、何か腹の内に不穏なものを隠していることは明らかだった。
『私達"過激派"は妖精界が滅べば良いです。
「確かにそうだが、本当に完全に滅ぼす気だったとはな」
『茶々を入れないでください、
しかし、それにも由良はひるまない。
「できるよ。鐘の怪人の記憶からチャンネルの場所はわかるし、存在の隠蔽なんて楽勝。【
『……
「だって私は支援型だもの。心を操るだけじゃどうにもならないときに、魔法による純粋な戦闘力が必要な時も考えてのことだよ」
『それなら、他の上位の魔法少女で良いはずです』
「嫌だよ。信頼できないし。それなら、私は連携の経験があるあやめちゃんがいいな」
もっともらしい意見だったが、何かあるのは明白だった。由良はあやめに微笑みかける。その笑顔には、どこか、影がある。
「ね? ついて来てくれるよね、あやめちゃん」
あやめは考える。何故か軌道修正をされてしまったが、由良がそこからさらに決定を覆すとは考えにくい。だから、妖精界に自分も乗り込む前提でどうするべきなのか、だ。
由良の催眠を解く方法はわからない。わからないが、由良が催眠にかかっていることを覚えていられる自分がどうにかしないといけない。
わざわざ妖精界で(
「……わかった。私も行くよ」
▽
「次にこの世界と妖精界を行き来できるタイミングは7日後だ。その時に起こること、やるべきことを説明する」
一応のまとまりを見せた会議を、
「まず、異常に気が付いた本部がこちらに怪人を仕掛けてくるだろう。一見神出鬼没な怪人だが、実は"玄関"と呼ばれる場所を通る必要がある」
そう言うとテーブルに世界地図を広げた。いくつかの地点には目立つ赤色で丸が記されている。
「その数……13か所。普段はそこから透明化などの魔法を使って目的地に移動するが、今回は即座に攻撃してくるだろう。この"玄関"に魔法少女を集中させ、防衛にあたる」
『透明になっている怪人も看破して対応しますが……必ず"玄関"は通ります。そこを叩く』
「
「は……はい!」
「一方、
「……」
「妖精界の座標は
「難関は2つ。各妖精に行動
『魔力のタネを渡すのなら私に名前を書いてもらう必要があります。……が、今回は魔力を共有し、魔法を許可するだけの"仮契約"。顔と名前さえ私が覚えれば、それが可能となります』
「わかった。後で優先度順に
『わかりました』
『後者の、怪人の実力についてですが。怪人や妖精は妖精界から切り離されない限り常にスナマ・ルクチャンネルを聴いています。寝ていようが、
「怪人自体は倒せなくても、防衛さえしていればいいってことですね」
『ええ。もちろん、【
「成功させるよ。あやめちゃんのためだからね」
由良が言う。それは確実に成功させる意気込みの表明であったし、自身の方針の宣言でもあった。
「芽衣ちゃんから聞いたよ。芽衣ちゃんのお母さんを守れなかったことが、ずっとあやめちゃんを傷つけてるんだよね」
「知って、いたの」
「『仕方のないことだった』、『最善は尽くしていた』、『あなたは悪くない』。……そんな言葉が、あやめちゃんを救えるわけでもないのも知ってる」
さらに、由良は続ける。
「過去はどうにもならないけれど。怪人を全て滅ぼせば、もうそんなことは絶対に起こらない。少なくとも、未来を憂うことはなくなるの」
「そ、それは」
「『忘れさせた』だとどうしても不安になっちゃうでしょ? 本当にそうなのか、また思い出すんじゃないか。また犠牲者が出るんじゃないかって。でも、【
「……!」
その発言は、あやめの図星を的確についていた。先ほどの提案の「なにも消さなくても、忘れさせるだけでいいのではないか」というのは真意ではない。ただ、あまりの規模の大きさと現象の恐ろしさで躊躇しただけなのだ。それほどの大きな責任を由良のみに背負わせる罪悪感もある。
しかし本音を言えば、怪人などできる限り滅ぼしてしまいたかった。自分の罪から目を背けたかった。
「私は感謝してるんだよ、あやめちゃん。転生した私、"私"でない私を受け入れて、友達になってくれて。だから今度は私の番」
それを見透かしてるかのように、由良は語る。あやめに語る。
「【
「……話を戻すが。今言った通り、魔法少女は怪人と拮抗さえしていればいい。やつらは今まで『ショーのため手加減をしている』という認識でいたが、それは我々も同じだ。一部の
「あ……」
どうやら、
『そして、怪人と魔法少女の魔力にはその扱い方に決定的な違いがあります。怪人は魔力を完全な
「……どういうことですか?」
『怪人は他者の魔力を感知できませんし、しようともしません。完全に理外の力として使っているため、魔力を法則の内側にとどめようとしている魔法少女を下に見る傾向にあります。しかし、怪人と魔法少女はスタンスが異なるのみでその実力は怪人が思っているより乖離はしていない、というのが私の見解です』
「えーと……」
『怪人は魔力を理解しようとしていない。だから魔法少女の実力も本質的には理解できていないのですよ、あやめさん。
「つまり、我々に勝ちの目が十分にあるということだ。何か質問は?」
「契約中の妖精はどうするの?」
質問をしたのは由良だ。
「切り離されている妖精はスナマ・ルクチャンネルを聴いてないよね? だから
「……そうだな」
「仮にすべてがうまくいったとして、あとから気が付いた妖精がさらに反逆する……とかは本当に無いと言い切れる?」
「
「それまでに、どれくらい被害が出ると思う? 私たちの反撃中に妨害される可能性は? ねえ、本当に何も考えてないの?」
「……お前と似たような能力を持つ魔法少女がいる。そいつに協力を頼んでいるのだ」
そこまで説明して、
「それがどういう魔法かは知らないけど。私なら、もっと万全にできる」
そしてその
「
「……詳しく話してくれ」
「ほら、魔法少女棟には妖精だけが通る魔力探知機があるでしょ? アレのすべてに同じ文を貼り付けておけばいい。後で私がその文字列そのものに『地球の人類は守るべきものである』という強力な意味を植え付けておけば、彼らは無意識に魔法少女に協力するようになる」
「併用を検討しよう。他に質問は?」
特に、誰からも声が上がらないことを確認した
「ならば今日は解散する。
「はい!」
人類による妖精界への反逆。それが始まろうとしていた。