『では、今度はこちらの番ですね』
由良が自分の内心を暴露しておいて、都合の悪い部分の記憶を消していた後。
『怪人を倒す、という目的は理解してもらえていると思いますが。倒すためにどのようなポイントが重要になるのか、そしてどこが難関かを理解してもらうために妖精界の歴史から説明します』
今度は、テレパシーなしで至極安全に語られた。妖精を感知できない芽衣のために、語りは
▽
この世界に人間がいるように、妖精界には2種類の知的種族が繁栄しています。
それが妖精と怪人です。それらは人間の男と女よりは遠い存在ですが、犬と狼よりは近い存在なのです。同じ親から、妖精と怪人両方が生まれることもあります。
この妖精界の技術は地球のそれとは異なった方向に進化しました。具体的には、「異界を観測する技術」に特化したのです。そして、それのおかげである異界に眠る膨大なエネルギー……「魔力」と呼ばれるものを発見したのです。
意外でしたか? 魔力とは異界の力。これは、我々妖精と怪人にとってもそうなのです。この魔力によって、妖精界の文明はさらなる発展を遂げました。各々が魔力を手にし、遺伝させ、自らの力として振るうことができるようになったのです。
そうして、栄華を極めた妖精界が目を付けた娯楽……それが、「異界人を見せものにする」というものです。地球の人間、特に少女の見た目は怪人にとって非常に好みのようでして、鐘の怪人が主催したショーに皆釘付けになりました。特に、何も知らない少女が怪人に勝利して喜ぶ姿に、ね。
さて、ここでは割愛しますが、諸々の事情で妖精は怪人よりも地位が低いです。"妖精界"と呼ばれているのに、皮肉なものですが。この立場の違いが、地球における妖精と怪人の役割に関係します。
よりリアリティのある、臨場感たっぷりなショーを。そう考えた鐘の怪人は、二つの策を講じていました。一つは、希望する怪人の
妖精は怪人に雇われているのです。今もなお、怪人に監視されているとは知らずにね。とはいえ、すすんで加担している妖精もいますが。
今、鐘の怪人と連絡が取れません。
ただ、怪人の指揮権が再編成されるまで。そして怪人が通れるほどのワームホールが開くまでは数日の猶予があります。叩くなら、今しかありません。
▽
「……そんな。全部が全部、あなたたちの自作自演だったの……?」
『はい。今まで騙して、大変申し訳ありません』
あやめも、芽衣も、
「怪人も、妖精も、魔法少女も。全部、全部……」
『そうなります』
「……私の」
芽衣が、声を震わせながらも問う。
「私の、お母さんが死んだのも……見せものだったってこと……?」
「……そうか、あなたは遺族だったか」
『なるべく、死傷者は出ないようにしています。関係者の死亡は魔法少女の勝利を損なう要因に──』
「……」
『難関はいくつかあります。私は妖精界の滅亡を目標にしていますが、広い世界なので純粋に膨大な制圧火力が必要です。また、下手に攻撃すると反撃として"本気の"怪人が地球を襲う可能性があります。さらにそのとき、行動
「滅亡って……同族なんでしょう? ショーをやめさせるとか、そういう方法にはならないんですか」
『地球の人間を悪用する妖精界に、価値がありましょうか』
初めて、
『人間は純粋に愛でるものであり、我々が干渉してはいけない存在なのです。それをまあ、やれショーだの参加型でいたぶるだの……反吐が出ます。斯様な妖精界など、一度滅んでしまえばいいのです』
『要するに、
『あなたがそれを言いますか、
なにやら
「お仲間というのは、私のことですか?」
『正確にはあなたではなく、あなたの妖精の
「ふーん……私の
『「往来で猫のものまねをする猫好き」でしょうか』
『おい!』
あやめの、
『話を戻しますが。"過激派"の妖精は他にもいます。本来は、その妖精が契約している中でも上位の魔法少女を妖精界に突撃させる予定でしたが、あまりにも不確定要素が多すぎた。行動
『しかし、さきほどの話を聞いて確信しました。さきほど思い出した記憶とも整合している。
「そうだね」
『護衛はつけますが……ほとんど単身で妖精界に乗り込み、スナマ・ルクチャンネルに【
本当に、妖精界は滅亡する。聞いていた魔法少女の面々が、ことごとく息をのむ。特に、その困難さを実感していた
『怪人が通れるほどのワームホールを地球と妖精界の間に通せるタイミングは限られています。これなら、妖精界が私たちの計画に感づき、怪人を大量に差し向けたとしても……魔法少女たちを防衛に回して備えることができる』
『そして、各妖精にかけられる行動の
続けたのは
『私の魔力なら、全ての魔法少女と追加契約できます。そもそもショーの本部とつながっておらず、魔力制御能力の無い私を抑えることなどどうやってもできません。魔法少女には、私の魔力を使って変身してもらいます』
「それほどまでに魔力があるのか」
『
『事故で魔力の弁が失われたとき、魔力が未だ内にあることを隠していました。それがバレたら、都合のいい魔力タンクにされることがわかっていたからです。その結果、放逐されましたが……追放先の世界と弟が目を付けた世界が一致しているとは、何たる偶然かと思いました』
今になって、
だが、もう詮無きことだ。鐘の怪人はすでに消え、自分だけが残っている。妖精界に未練はもうない。自分を必要としてくれた由良がいるこの世界こそが、私には必要なのだ。
「それで、私に協力しろと?」
『そうです』
だが、その由良が妖精界の破壊に協力してくれるかどうかは別問題であった。
今の彼女がどんな思いで聞いているのか、それは全くわからない。
『このままでは、この地球の人類は永遠に怪人の慰み物です。どうか、どうか協力してくれませんか』
「それを決めるのは私じゃないかな」
由良はそう言うと、隣にいたあやめを無理やり抱き寄せた。
「あやめちゃんは、どうしたいの? 私はあやめちゃんの決定に従うよ」
「わ、私は……」
自分で決めずにあくまであやめに委ねる。その主体性の無さこそが、催眠の影響と言えるものだった。
「鐘の怪人の記憶を盗ったからわかる。
『
「誑かしてるのはそっちでしょ、
過激派の
「協力すれば、もう芽衣のお母さんみたいな人は……出なくて済むんですよね」
『そうです』
「なら、もっと穏当な方法にできませんか。例えば、由良ちゃんの魔法で地球のことを思い出せなくするとか」
『……ふむ?』
なにも、全てを消し飛ばす必要はないのではないか。そうあやめは考えた。見たところ、由良の魔法はかなり自由度が高い。今言ったようなこともできるのではないか。
「由良ちゃんなら、できるよね」
「……確かにできるね。地球そのものを妖精界の認識から外せば、再発見もできなくなると思う」
「なら!」
「やっぱりダメ」
あやめを手放し、由良は立ち上がる。
「
『なんですか、それは』
「妖精界に乗り込むのは……私と、あやめちゃん。あと