話は、研修直後──
「では早速、このメモを解読しまショウ。『仮に、私達の探す魔法少女が存在する』と仮定シテネ」
「メモ……研修中、
「そうだ」
3人は机いっぱいに広げられた用紙をまじまじと見つめる。研修に参加していた魔法少女のプロフィールなどが書かれているのだろう、そう
「なんですか、これ。……暗号?」
各用紙の文章はいくつかのブロックに分かれていた。一番上は普通のプロフィールのようなものや、
「そうだ。一番上は普通の文章だが、その下は
「ええと、『ストーンカッター』に対応してるのが『セナーアキッチー』だから……確かにずれてますね」
つまるところ、一番上のブロックを様々な形で暗号化したものを下のブロックに書き写しているシステムであるらしかった。
「点字はわかりますが、その下の2つは?」
「下から2番目は私たちが決めたオリジナルの暗号だ。そして1番下は、書いたときに私がなんとなくで変換したものだ」
「なん……え?」
聞き取れてはいたが、しかし予想だにしない言葉であったため
「見たまえ。こいつが……私達の探している魔法少女だ」
彼女が
研修に参加した魔法少女14人のうちの、最後の1人。それについての情報が書かれていたはずなのに、ほとんどが抜け落ちてしまっている。
「そのまま書くのはダメ、暗号化した文も消えてしまうようデスネ。唯一残っているのは『なんとなく』で変換したもののみ、ト」
「明瞭な規則に従って変換した文は無条件で消されるようだな。つまり、0と1のみで管理される電子データも消えていると見ていいだろう」
「え、えと、その、つまり……」
だが、それでもなんとか食いついて状況を整理した。
「つまり
「そうだ。暗号文も消されるかもしれないと思って用意した、『暗号ですらない文』。私ですら意味を忘れたこの文を再解釈せねばならない」
それは答え合わせのしようがない作業だ。しかし、答えが確定しているような文は記録に残らず消え失せるときた。恐ろしく意地の悪い現象だった。
「まあ、他に情報が無いわけでもない」
「この
「なるほど。他にそういう魔法少女は……いませんね」
「だからまあ、居場所を探るなら彼女の周辺からアプローチするのが効果的だろうな」
もちろん仮にいるとするならだが、と
「さて、練習のためにもこの文ぐらいは解読できるようになっておきたいところだが……」
指し示すのは"ほぼ"白紙の一番下、詩の欄だ。月をテーマにしているように見えるが、これを解読できればその魔法少女についての一定の情報が得られるという。
「他の例からしておおまかな容姿や性格を描写しているはずだ。月ということは静かな子か……?」
「月は太陽の光を反射しているだけですから、引っ込み思案な性格とも考えられマスネ。もしくは、主役となる太陽のような子がいるのカモ」
議論しながらも、無理があると2人は感じていた。答えの決まらない連想ゲームに、答えを見出すかのごとき所業なのだ。調査用紙に詩の欄を入れたのは最終手段の意味合いが強く、本来は暗号や点字文が残ってくれることを期待していたのだ。なのに結果は無情で、残ったのはあまりにも頼りない非暗号文。こんなの、本当に読み解けるのか。
「
「【名推理】は手段を提示するだけですカラネ。その手段を達成できないことには、無駄に終わってしまいマス」
しかし、
「
「……そうなんデスカ?」
確認の意味を込めて
「確かにそうだった気はするが……よく覚えているな」
「
人選としては
「過去に『雲』は隠し事や不安を表すときによく使われていたので、ここの『叢雲来る』もそのような意味でしょう。後の『沈まぬ太陽』は欺瞞の表現なので、恐らくその人は何らかの嘘をついていると思われます」
「す……すごいデス!
「これぐらい、
彼女が次々と詩を解読する様子を眺めながら、
▽
「おじゃまします!」
「ああ、うむ、あがってくれたまえ」
そして後日。そんな彼女を自宅に招くのは甚だ不本意であった。が、彼女は
「ここでは、隠されたはずの過去のメモを探す……そういうことでしたね」
「ああ」
「私なら、他の魔法少女が下手に記録を見て記憶を消されることは避けるはずだ。リスクが管理できないからな。しかし家なら読むのは無関係な家族だけだ。誰かに見つかって記憶が消されても、もとよりそう関係ない魔法少女のことだから被害は最小限で済む。それに、もし家族がそうなれば発覚しやすいしな」
「なるほど」
「だから、残すなら
「あ~いらっしゃい
靴を脱ぎ、玄関に上がりながら説明をすると、
「お
彼女が母を呼ぶ時、なんか明らかにおかしいニュアンスが含まれているような気がしたが
「……して、よろしければ
「もちろん良いですよ~! さ、ほら上がってくださいな」
無視していたら、思ってもない方向に話が進んでいた。
「ど、どうしてそんな話になるんだ!」
「すみません、
要するに、
それはわかる。それはわかるが……
「ぐ、ぐうぅ~~……。なるべく、早く済ませるぞ」
「ええ、もちろんです!」
して、その選択は正解だった。
「まさか、7冊も見つかるとはな……今まで見つけられなかった自分が恨めしい」
「記憶が無ければこんなところにあるとは思いませんからね」
メモの冊子はあの手この手で隠されていた。過去の
「私だけでは絶対にたどり着けなかっただろう。……本当に、ありがとう」
「当然のことをしたまでです」
「もしこのような魔法少女がいるとするなら……だが、自身に関する情報を消す。例外もあるようだがその条件は不明。そして関わった怪人の大半が消えている……」
「……そんな衣装型、考えられるんでしょうか」
「わからない。わからない、が」
「
『私達とは明らかに異なる魔法。もしかしたらですが……我々の悲願の、最後の1ピースになるかもしれません』
「決まりだな。まず、
そうして、彼女らは邂逅する。