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第12話 ルール型 その2

 "ルール型"に分類される奇妙な怪人が提示してきたのは、謎のゲームだ。魔法少女側と怪人側、それぞれに支給された3枚のシールドを壊しあうゲーム。

 ゲームの仕様は以下の通りだ。

・3枚のシールドが壊れた方の負けで、壊しきった方の勝ち

・魔法少女側のシールドは私が操作し、あやめちゃんが怪人のシールドを破壊する

・シールドは想像通りに、自由自在に動かせる

・負けたらペナルティだが、内容は不明


「ゲーム……スタート!」

「【アジサイビーム】!」


 開始の宣言と同時に、怪人とあやめちゃんが互いに攻撃を実施する。

 怪人は過剰に戯画化されたミサイルを背後から飛来させ、あやめちゃんは数多の花束ブーケから熱線を放出する。


 てかミサイル多くない!? 10はあるよね!? 恐ろしく速いわけではないが、ノロマでもない絶妙な速度で追い立てられる。

 シールドが3枚もあるのが厄介だ。脳で直接動かせるとはいえ、3つのものを同時に動かすのは事前に想像していたよりも高い技術を要する。


「うおおおおおお……おっ!?」


 シールドを気合で動かして避けまくると。幸いなことに、ミサイルはこっちに向かって突っ込んでくるだけだ。曲がりくねった軌道を描くことはあっても、とどまったり引き返したりはしてこない。一度過ぎたミサイルは考えなくていいらしいのはありがたかった。

 また、シールドは比較的自由に動かせるが怪人側の方には行かせられない。シールドの見た目は完全に同じだし、混同を避けるためだろうか。


「怪人! 本体こっち狙うとかすんじゃねえぞ!」

「安心シテクダサイ! コレハゲーム! ペナルティ以外デ傷ツクコトハアリマセン!」

「本当だろうな……!」


 だからといってミサイルに当たろうとは思わないけどね!

 だが、まあ、そうだな。今のところルールに虚偽は無いし、思ったよりは真摯な怪人かもしれない。


『嬢ちゃん、意外と口悪ぃな……』

「それ蝸牛シェルが言うの……? いやいや、そんなこと言ってる場合じゃなくて!」


 あやめちゃんがそう言ってビームを飛ばし続けるが、怪人側のシールドは華麗に避け続ける。


「コノ道一筋20年! 簡単ニ崩セルトハ思ワナイコトデスネェ!」

「初心者狩りかよ」

「次弾装填! 発射発射ァ!」


 怪人はこちらの軽口には応えず、ミサイルの数を増やしてこっちのシールド目掛けて突っ込ませてくる。それらに合わせて、私はミサイルの軌道を予測。上下左右奥手前にシールドを動かし、ひたすら躱す躱す躱す。

 最初ので分かったが、ミサイルは一番近いシールドに向かうように少しずつ方向を変える傾向にある。微弱な追跡ホーミング機能とでもいうべきか。微弱なせいでミサイルの位置がばらつくのがかなり嫌だが。

 だから、あまりにも多いミサイルが1つのシールドに向かっている場合はあえて他のシールドを近づけることでミサイルを分散させることができる。


 それはそれとして、きついものはきつい! さっきも余裕なくてこっちに来たミサイルが私の体をすり抜けちゃったんだけど、本当に安全なんだね! 不本意ながら自分の体で実験しちゃったよ!

 あやめちゃん早く当ててくれえ!


「【アジサイビーム】! 【ビーム】!」


 花束ブーケからは何回も熱線が放たれるが、しかしこれらがシールドに当たることは決してない。たまに惜しくも掠る場合があるが、怪人は全く表情を浮かべず、焦っているかどうかもわからない。


「どうして当たらないの……!」

「イクラ速クテモ視線カラ方向ガマルワカリデスヨォ!」


 魔法に息切れという概念はないため、あやめちゃんのビームが尽きることはないだろう。むしろ問題はこっちの方で、私の集中が切れた時が一番まずい。


 三回目のミサイル。数は増えてないが……まだあやめちゃんが壊せていない以上、こっちもミスはしたくない。互いへの信頼が必要な、底意地の悪いゲームだ。

 だが、私はただの魔法少女じゃない。年齢だけ無駄に積み重ねたTS転生魔法少女おじさんである。緊張の扱い方は、少女よりは心得ているつもりだ。


 3枚のシールドを仮にA、B、Cと呼称する。Aを狙うミサイルは3発、Bは6発、Cは4発。

 まずはAを大きく左に、Cを右に動かしミサイルを引き寄せ予想外の挙動を減らす。つづいてBを最大限まで怪人側に寄せた後、少しずつ後退させることでBを狙うミサイルを1か所に固まらせる。AとCについても同じようなことをして避けやすくする。

 そうしてミサイルをそれぞれ固めた後にシールドを大きく動かして余裕をもって避ける。なんだ、攻略法がわかれば簡単じゃないか。


 振り向かずに呼びかける。彼女に、シールドを破壊してもらうために。


「あやめちゃん!」

「いくよ、蝸牛シェル! 【アジサイ……」

『ビーム】だァ!』


 十数個もの花束ブーケから放たれた光線に対し、怪人は無感情にシールドを動かす。視線を完全に把握しているのか、その動きに焦りは見られない。照準を見極めたと言わんばかりに最低限のみの移動をして……。


 そして、1枚のシールドはこれまでより数倍太い熱線に焼かれて消えた。


「ハ……?」

「やったぁ!」


 あやめちゃんはあえて照準を絞らず、広範囲を熱線が埋め尽くすように花束ブーケの向きを調整していたのだ。それが怪人の舐めプにぶっ刺さったようだ。

 怪人も理由を理解したようで、全身の液晶を輝かせながら笑うようなしぐさを取る。


「ナルホド、機転ハ利クヨウデスネ。デスガ1枚割レタダケ。ゲームハマダマダ続キマスヨォ!」

「いや、もう1枚割れたけど」

「エ?」

「だからほら、見えないの? もうあと1枚しかないよ」


 怪人に頭は無いが、しかし首に掛かっているヘッドホンでなんとなく首の向きは察することができる。おそるおそる辺りを見回したようで、しかしシールドが残り1枚しかないことに気付いたらしい。

 本当にあと1枚しかない。どうやってシールドを割ったというのか。


「ハ、ハアアアアアア!!?? 視線ハ見切ッタハズ!」

「へぇ。私の視線はわかっても、蝸牛シェルの視線はわからなかったみたいね」


 振り向くと、あやめちゃんの肩の上の蝸牛シェルがこっちに向かってウィンクしていた。これに対して声を上げたのは意外や意外、我らが妖精のホームであった。


『まさか、魔法を共有できるのですか……?』

『おうよ。真の絆を育んだ妖精と魔法少女にしかできない技術だぜ!』


 つまり。花束ブーケのうち一部はあやめちゃんではなく蝸牛シェルが操作し、ビームを撃っていたらしかった。それに気づかず怪人はもう1枚割ってしまった、と。

 次の瞬間、怪人は奇怪な悲鳴をあげながらうずくまった。


「グアアアアアアアア!」


 え、何怖い。よく見ると煙のようなものが怪人の肩あたりから出てるし。


「マサカ妖精ガ協力シテ魔法ヲ使ウトハ……!」


 『隙あり』と言って蝸牛シェルがビームを放つが、何故かそれは弾かれてしまう。ペナルティを受ける時間であって、攻撃は受け付けないのか。本当にゲームみたいだ。

 怪人はひとしきり苦しむと、すっと立ち上がりこちらに向き直る。明らかにさっきまでとは雰囲気が異なるその様相に、私もあやめちゃんも少し後ずさりをしてしまった。


『ブラザー、ピンチピンチ! そろそろ本気出すぜ俺たちも!』


 怪人の最後のシールドがピカピカ輝きながらそう叫ぶと、怪人の背後から再びミサイルが出現し始めた。以前の量が出尽くしても出現は止まらず、増え続け……奥の壁面全てを埋め尽くすほどのミサイルが出揃う。


「いや、これ、多すぎ……」

「モウ油断シマセン! 圧倒的物量ニ散レ!」


 10? 100? いや……300はある。文字通り、ミサイルが私のシールドにした。

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