日本の中心、京代都。その某区にあるとある魔法少女棟。
図書、食事、療養、カウンセリング……ここではあらゆるサービスが魔法少女のためだけに展開される。公共建造物という名目のために、そのごく一部は一般にも開放されている。しかし、ほとんどの施設は魔法少女専用のものである。
思春期の難しい年頃で、自らの身体を戦地に投じるのだ。多くの魔法少女は、同じ立場の少女らとその苦難を分かち合う必要があった。
だが、それだけではない。魔法少女棟では、日夜怪人への研究と対策が彼女ら自身の手によって独自に行われていた。魔法のことを人間の中で一番よくわかっているのは、魔法少女ら自身である。どういう怪人がいたか、どういう能力を持っていてどういう魔法が有効だったか……そういった現地の情報は彼女らにとって欠かせないものだった。
そういった会議や議論にはもちろん全員が参加できる。しかしそれとは別に、一部の
【
もう、会議室は目と鼻の先だ。魔法少女【
「どうぞ」
「は、はい! 失礼します!」
明瞭なる声が許可を示し、それに従い彼女はドアを開ける。
壮観だった。ランキングで見たことがあるような上位の魔法少女が多く見受けられた。全国レベル……はさすがに少ないが、地区レベルで非常に有名な魔法少女はほとんど知っている。なんどもテレビに出ているタレント的魔法少女や、動画サイトで一定の人気を博している配信者的魔法少女もいた。常日頃から親しくしておりつい先日も救援に向かった交通三姉妹の姿も見えて、
そして中央、その最奥に座っているのは怪人撃墜数、第10位。【
【
多くの魔法少女がいるということは、新人にもかかわらず遅刻をしてしまったのではないか……そのような不安は、他ならぬ
「あまりにも多くて驚いたかい? それはね、君がこの会議に招待されたと聞いて、皆が祝おうと早く集まってくれたからさ。心配せずとも、君は遅刻なんてしてないよ」
「おめでとー!」
「おめでとうございます、
「いやー私はさ! もうそろそろだって前から言ってたんだって!」
「君の活躍は知っている。招かれるのは、時間の問題でしかなかった」
驚いた。会議はもっと、厳格に冷酷に進行するものだと思い込んでいたからだ。いや普段の会議はそんなことはないが、「上位勢の会議」と聞いてなんとなく
「君の席は……そうだな、
「ここですよ、
長身の穏やかそうな女性が手を振ってくる。当然ながら魔法少女らは変身はしてないのだが、魔法を扱う同志としてなんとなく
「では、全員集まったことだし早めに始めよう。第52回、都東部代表会議を始める。主宰兼司会はこの私、
「よろしくお願いします」
「最初の報告は
「続けるぞ? 最初の報告は匿名の魔法少女についてだ」
「匿名……?」
小さく疑問の声を上げたのは
別に魔法少女は生涯現役、死ぬまで拘束されるシステムではない。本人の希望によっていつでも辞められるシステムだ。合わないと思ったら辞めるのが本人のためであり、社会のためである。冷たいことを言えば、無理に続けて死亡事故が起こった方が大きな問題になるのだから。
閑話休題。そういった匿名の魔法少女に関する報告とは何だろう、と
「そう、匿名の魔法少女だ。ここ最近、八島区周辺では不明な『怪人討伐事件』が相次いでいてね。誰も、名乗りを上げないのだよ」
「君たちも知っての通り、我々魔法少女には妖精……正確には『魔法契約主体』がついており、我々の怪人討伐業務を全面的にサポートしてくれている。もし怪人が討伐された場合、誰が倒したか、いつ倒したかなどの状況が妖精内で共有されるはずなんだ」
そこで
「でも、八島区周辺の怪人の一部についてはそのような情報すら上がってこない。匿名希望じゃない、本当に匿名……いや、不明な魔法少女がいる」
「質問がある」
手を上げたのは【
「
「魔法少女以外の要因による無力化の可能性が残っている。例えば……自滅」
確かに、魔法少女が倒すから共有されるのであって、それ以外の原因で怪人が討伐されたら記録には残らないのではないか。そもそも、怪人が無力化されたら何らかの方法でその情報は拡散されるのではないか。
「他にも、異常な怪人の場合も考えられる。怪人が何を目的としているか、未だによくわかっていない。仲間割れをしたり、『怪人を滅する怪人』がいても否定はできない。……そのような可能性は?」
「無い」
違和感のようなものを
「八島区周辺の怪人討伐事件。あれは、魔法少女によるものだ」
「それは……そうだな。魔法少女のはずだ。申し訳ない、混乱していたようだ」
「構わないよ、
何か、何か気持ち悪いはずなのに、それがなんだろうと探ろうとすると思考が霧散する。妙な感覚だった。なんだろう、なんだろう。それを求めて思索をめぐらすうちに、とうとう
「では説明を続ける。この奇妙な事件について、私は自らの妖精……
パチン、と
『例外的な事項ですが、不明な魔法少女、ひいては妖精が隠れているのは我々にとっても不利益です。
不思議な声色だった。ほとんどの場合、妖精は自身の魔法少女としか話さない。他の妖精の声を聴くのはどこか新鮮だった。だが、
そして、それは的中する。
「調査の結果、私たちはこの『怪人討伐事件』について
室内に少しのどよめきが現れる。
「はい!」
「
「なんでですか!」
明朗快活な発言は中学生くらいの少女によるものだった。そして彼女は、この場にいるほぼすべての魔法少女の意見を代弁してくれた。少々、おおざっぱだが。
「それは言えない。が、調査を続けて正体を暴く方がリスクが高いと判断した。再三言うが、それがなぜかは説明できない」
「そのリスクとやらに抵触するからですか!?」
「それも言えない。君たちも、この事件について触れまわったり、独自に調査するなんてことはしないでくれ。危険だ」
まあ、それは無いと思うがね。という呟きを
「もちろんここまで言われたからには誰も迂闊な真似はしないと思います! でも、今の
「ああ……そうだな。すまない、あまり良くない言い方をした」
ちゃんづけって……と
そんな
「この報告を会議でしたのは、今日で3回目だ。しかし皆、この事件については綺麗さっぱり忘れていた。政府にも2回報告をしたが……この件についてのみ、未だ返事が無い」
意味が分からなかった。自分は初参加だからいいとしても、周りを、周りを見ても誰も何もわかっていない様子だった。
しかし、
「議事録にも残らなかった。
誰も、何も言えなかった。誰かが生唾を飲む音すら聞こえる。
「多数決だ。次の会議でも、私はこの情報を共有すべきか? 『共有すべき』と思った者は手を挙げてくれ」
満場一致で、
「決まりだな。次の議題は──」