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第106話 メガネ奪還


「はい、お待たせ」


 岩田いわた先生は正面の席に戻ってきた。


 岩田先生は、メガネくんの魂の眼鏡をかけてきたかと思いきや……違った。

 岩田先生は空の牛乳瓶を、テーブルの上に置いたのだった。


「あれ? メガネくんの魂は?」


 俺が問うと、


「何言ってるの城ヶ崎じょうがさきくん。牛乳瓶の中に入ってるじゃないの」


 岩田先生は言った。


(牛乳瓶の……中……?)


 良く見てみると……岩田先生が持ってきた牛乳瓶の中には……。 

 牛乳瓶の底のように分厚い眼鏡が入っていたのだった。


(え、ええええええええええええええええええええええええ?)


 どーなってんのこれええええええええええええええええええええ?


 入口の広さ的に絶対中に入らないよねこれ?

 ボトルシップみたいに眼鏡が入ってんだけど。

 え、中で生成された?


「なるほど、これをハンマーで思いっきり叩けば早乙女さおとめくんの眼鏡を取り戻せますね」


 トアリは冷静に言った。


 ハンマーで思いっきり叩いたら下手すると中身の眼鏡もついでに砕けるだろーが。レンズとガラスの区別つかなくなる。


「こちらがユウポンでーす。私もユウポンでーす。二人合わせてポンポンコンビでーす」


 いいから岩田先生。今そーいうのいいから。


「しょうがない……。ちょっとずつ衝撃を与えて牛乳瓶を割って、中身を取り出すしかねえな……」


 俺が言うと、岩田先生は「あら」と声を出した。


「城ヶ崎くん、もしかしてユウポンさんを『お持ち帰り』希望なの?」


 変な言い方しないでくれます?


「……メガネくんに返しにいくだけですよ……」


「うーん、あなたが言うなら特別にどうにかするわ」


「ホントですか?」


「別途料金がかかるけど」


 何でだよ。何で教師が生徒の魂売ろうとしてんだよ。


「城ヶ崎くん、ここが正念場よ。お金を取るか、友達の魂を取るか……。その選択で、あなたの人間性が出るわ」


 やかましいわ。


「……因みに……いくらですか?」


 俺が恐る恐る聞くと、


「マイナス百円ってところね」


 マイナス百円って何?


「えっと、岩田先生? 言ってる意味が解らないんですけど?」


「だからマイナス百円よ。このメガネくんの魂を持って帰りたければ、お店から百円受け取らなければならないわ」


 なにその不用品回収代みたいなシステム? なんで厄介者扱いされてんの?

 オプション料金と合わせてプラマイゼロじゃねーか。


 ま、まあいい……。

 これでホントに……長かったメガネくんの魂奪還劇が終わる……。


「分かりました。じゃあ持って帰るので、会計お願いします」


「ありがとうございます、ご主人様☆」


 こうして俺たちは、無事……メガネくんの魂を取り戻したのだった。


「疲れた……」


 店を出た瞬間、ドッとした疲れが俺を襲った。


 もうすぐ夕暮れ時か……。

 ケッコー時間かかったな……。


「良かったじゃないですか。無事、早乙女くんの魂を取り戻せましたね」


 そう言う金色の防護服を身にまとったトアリは、メガネくんの魂が入った牛乳瓶を両手で持っている。


 金色の防護服が、落ち始めた日の光を反射して眩しい。


「まあな……。牛乳瓶はどっか安全なとこで慎重に割るとして……。とりあえず一件落着だな……」


「ええ。割るのは学校の裏庭にしませんか? 近くにガラスの捨て場もありますし」


「よし、決まりだな」


 俺たちは学校に向かって歩き出す。


「しっかし、まさかトアリを誘うメッセージを考えてただけで、ここまで面倒事に巻き込まれるなんてな……」


 疲れからなのか、安堵からなのか……。

 俺はつい、本音を零してしまっていた。


「ほう。どこに誘おうとしたんですか?」


「え? あ、いや……」


 ワンテンポ遅れて、俺は本音を漏らしていたことに気づいた。


「別に……、ゴールデンウィーク……暇だからトアリをどっかに誘おうとしただけだっつの……」


「ふーん」


「何だよ?」


「別に」


 トアリの声は笑っていた。

 しばらく沈黙。


「……なあトアリ……。ゴールデンウィーク中……駅前で文房具買いに行かないか?」


 メッセージの時とは違って、自然と伝えることが出来ていた。


「トアリが忙しいんなら良いけど。人が多い汚染区域には行きたくないかもだし」


 何で俺は、断られる理由を勝手に作っているのだろう……。

 その時は理由を見いだせなかった。


「しょうがないですねえ」


 やんわりとトアリは言った。


「丁度、消しゴムが無くなりそうだったんですよ。それに城ヶ崎くんと一緒なら、汚染された所にも行けますし」


 クスッと、防護服の中で笑ったのが聞こえた。

 それが、俺が勝手に作っていたトアリとの壁を崩してくれた。


「よし、じゃあ、明日か明後日。予定が合ったら行こうぜ」


「ええ。午前中にしましょう。その短時間なら防護服ナシでも行けそうです」


「何だよ大丈夫か?」


「大丈夫ですよ。帰ったら衣類は全て洗濯して、シャワーを浴びて汚染された身を清めます。そうすれば元通りになります」


「ふーん」


「それに」


「……それに?」


「いざというときは城ヶ崎くんが守ってくれますし」


 その意味を聞き出そうとしたら……。

 トアリはメガネくんの魂が入った牛乳瓶をブンブン振り回しながら走り出した。


「待て待て待て! それメガネくんの魂! 丁重に扱ええええええええええええええええええ!」


 夕日を反射する黄金の防護服を追いかけるという、人類初の偉業を成し遂げた。


 それは、ゴールデンウィーク初日のことだった。


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