マリアさん『さあ、敗者はとっととこのお店から出ていってください』
間もなく、金剛力士像と、清キラの制服を着た加藤が奥の部屋から出てきた。二人は俺に気づくと、
「申し訳ないでやんす
悔しそうに言うと、金剛力士像はドタドタとメイド喫茶から出ていった。
「流石はメイドを極めし者だったわ」加藤は言った。「相手の隙を突くのが上手かった。まさか私たちに聞こえないほど小さな声でUNOを宣言するなんて」
それズルっていうんだけど。
「私が大声でUNOを宣言したばかりに!」
いやそれがルールだから。今回に関してはオマエが正しいと思うけど。
「城ヶ崎くん、あとは頼んだわよ。大丈夫、もうすぐトアリさんが変装して忍びこんでくれるから。メガネくんの魂を奪還できるはず」
ふふ、と笑ってから、加藤はメイド喫茶を出ていったのだった。
……え、アイツら何しにきたの? UNOしにきた?
早くも魔王軍の戦力半減したんだけど。メガネくんの魂のアリカ微塵も掴めてないんだけど。
「ほっほっほ! 大したことなかったですね!」
と、ご満悦な様子でマリアさんが奥の部屋から出てきた。
「皆さ~ん☆ 邪の者は退けたぞい☆ 引き続き、楽しんでいってくださいね~」
マリアさんが大声で言うと、他の男性客が「は~い」とデレデレに返事をした。
「流石マリアさんね」岩田先生は言った。「ところで城ヶ崎くん、私とUNOしない? 今なら八千円で出来るキャンペーン中よ」
なんでUNOの方がポッキーゲームより高いんですか?
「今日、あと八千円以上売り上げを出せば私のランキングも上がるのよね」
いや知りませんし。生徒からぼったくってまで上がるランキングに価値を見出す教師はどうかと思いますが。
「遅くなりました!」
と、メイド喫茶に何者かが入ってきた。
ギシュリという音も聞こえた……。
ま、まさか……。
「
そう声を荒げたのは、間違いなくトアリだった。
防護服を着たトアリだった。
しかし、しかし……。
いつも着ている白い防護服ではなく……。
ピカピカの、金色の防護服を着ていた。
黄金の防護服は、店内の照明を反射してキラキラ輝いている。
(え、ええええええええええええええええええええええええ?)
変装はあああああああああああああああああああああああああ?
まんま
てか眩しっ。見てるだけでキラキラ眩しいんだけどぉ。
「な、なんですって? この店のナンバーワンの私より輝いているう?」
マリアさんは驚いた様子で言った。
いや確かに輝いているけども。ピカッピカだけども。輝き方の方向性違くね?
「はっ! いけないいけない! どんなに輝いていてもお客様! 妬んだりしてはいけない! いつも通り接客するのよマリア!」
いや向こうの輝き方は物理的なものですが。太陽が眩しいとかそんな感じ。
「おかえりなさいませ、ご主人様! 今日はどうなさいますか?」
キュルルン! とマリアさんは付け足す。
流石プロ。黄金の防護服着てる奴にも普通に接客するとは。
「ふふ。私はご主人様ではありません」トアリは静かに言った。「人間タイプG(ゴールド)です」
人間タイプG(ゴールド)って何だああああああああああああああああ。
あああああああああああああああああああああ思い出したわ!
アレか、課外授業ん時に俺が辿りついた人間タイプか。
いやでも俺は人間タイプG(ゴールド)じゃなくて人間タイプG(ゴキブリ)だから違うか。
って誰がゴキブリだバカヤロウ☆
「に、人間タイプG(ゴールド)? そんなの聞いたことないですよご主人様!」
そりゃあね。
「だって、だってあそこに」
マリアさんは俺を指さしながら、
「人間タイプG(ゴキブリ)が居るじゃないですか!」
誰がゴキブリだ。
何でマリアさんが俺のことゴキブリってこと知ってんだよ、おかしいだろ。
いやゴキブリじゃないけども。
「同じ人間タイプGが二人も存在するワケがございません! よってあなたはご主人様です!」
マリアさんの指摘に、トアリは「ふっふっふ……」と笑う。
「気づいてないようですね。私はあそこに居る人間タイプG(ゴキブリ)がイギリス流忍法【分身の術】で分身した、もう一つの本体です」
そうだとしたらオマエもゴキブリってことになるけど良いの?
「そして更に【変化の術】で金色の人間になったのです。つまり私はゴキブリではありません」
どういう理屈だよ。
「向こうの本体はゴキブリですが(笑)」
誰がゴキブリだ。メッセージしてた時のトキメキを返せ。
「くうう! 悔しいですが認めざるを得ません! あなたはご主人様です! この攻防は私の負けです!」
今ので納得すんのおかしいだろ。脳バグってんのか?
「改めまして、おかえりなさいませご主人様! 今日はどうなさいますか? キュルルン☆」
マリアさん切り替え早っ。ナンバーワンは伊達じゃないな。
「私は本体の元に行きたいと思います」
なんでこっちに来るんだよ。メガネくんの魂探してくんない?
「かしこまりました! では三番テーブルへどうぞ☆」
マリアさんの案内で、トアリは俺と岩田先生が座るテーブルに来た。