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第85話 魔王VS勇者➂


「じゃあ早速、我にエクレアを奢ってくれんかのう?」


 何でだよ。

 何で初めて会ったオマエに奢らなきゃいけねーんだよ。


「出来ぬのなら勝負じゃ!」


 勇者は半身になって構えた。


「あ、ちょ、待って、足の裏痛ぁい……」


 言うと、勇者は座り込んだ。そして足の裏を確認する。

 ローラースケート脱いだ時に素足になってたからね。なんか踏んづけた?


「……やべ、ちょっと切れてるかも……」


 と、勇者はガチトーンで呟いた。


「石踏んじゃったかな~……」


 素になったら喋り方フツーの女子だなコイツ。


「あのー、大丈夫か?」


 俺が問うと、勇者はムッとした。


「だ、大丈夫じゃ! おのれえええええ! 流石は清キラの魔王! 難関高校だけに『足切り』を唱えるとは!」


 うまくねーし、清キラは足切り制度無いぞ?

 もしかして受験して落ちた奴か?


「くそう! 今のでHPがゴッソリ持っていかれたのじゃ!」


 足の裏を切っただけで? どんだけHP少ないの?


「こんな時にMPさえ! MPさえあれば上級魔法を唱えて魔王なんて一撃じゃったのに! 肝心のMPが空っぽじゃ!」


 空っぽなのはオマエの脳みそ。


「仕方ない! 仲間の魔法使いを呼ぶとするわい!」


 止めといた方が良いよ。

 魔法使い呼んだら来るから。

 アイツが来るから。


『魔法使いですってええええええええええええええええええええ?』


 ほらああああああああああああああああああああああ。

 魔法使いボコボコにしたがってる加藤が入ってきたじゃん。


『今から行くわ!』


 ヤバいヤバいヤバい。

 魔法使い絶許の生徒会副会長が来るって。


 今すぐ帰った方が良いよ。

 魔法使い来たら血祭りが始まるから。


「はあ……はあ……。お待たせ、皆!」


 いつの間にか、息を切らした加藤が俺の隣まで来ていたのだった。


(え、ええええええええええええええええええええ?)


 速ああああああああああああああああああああああ。

 ついさっきまで放送室に居たよね?


 この一瞬で良く来れたな。

 レーザービームかテメーは?


「な、なんじゃウヌは!」


 勇者は座ったまま、加藤に問うた。


「生徒会副会長の加藤律子りつこよ! さあ勇者さん! 魔法使いを出しなさい!」


「せ、生徒会副会長じゃとお? そんなやかましくて理性の無さそうな奴が――」


 何かを言いかけたところで、加藤がしゃがんで勇者の肩を掴んだ。


「御託は良いからさっさと魔法使いを呼びなさーーーーーーーい!」


 ガクガクガクと、加藤は勇者を激しく揺する。

 止めたげてええ。

 足の裏を切って瀕死状態だから勇者。


「魔法使いをボコらないと! 魔法使いをボコらないと今日のタスクをクリアできないのよ!」


 何でそんな物騒なタスクあんの?


「やーめーるーのーじゃー……」


 加藤に脳をシェイクされて、勇者は虫の息だ。流石に可哀想だと思ったのか、加藤は勇者の肩から手を離した。


「ふん! 勇者のクセに手応え無いわね! まあいいわ! 勇者をシバいたからタスククリアしたことにするから!」


 余韻に浸ること無く、加藤はさっさと校舎の方に去っていった。

 スゲーな。

 さすが魔王の右腕(右隣りの席だけに)。

 彗星の如く現れて余裕で勇者シバいたよ。 


「くそう! 魔王どころか手下にヤられるとは完敗じゃ!」


 言うと、勇者はヨロけながら立ち上がった。


「キミの瞳に~♪」


 勇者また歌いだしたんだけど。

 マジで歌ウマいんだけど。

 やっぱ吟遊詩人だろ。


「ラララ~♪」


 歌いながら、勇者はローラースケートを履いた。


「我は勇者ではない! アイドルを目指す研修生なのじゃ!」


 え、そうなの?

 だから歌ウマいのね。

 てか何でそんな奴が魔王討伐に来たの?


「真の勇者は他に居るのじゃ! 我に勝ったからといって喜ぶでないぞ!」


 叫ぶように言うと、勇者はローラースケートで華麗に去っていった。


(え、ええええええええええええええええええ?)


 おまえローラースケート超上手いじゃねーか。

 さっきまで下手なフリしてた?


「我は呑み込みが早いからの! ローラースケートなんぞ数秒履けばプロレベルになるのじゃ!」


 遠くから勇者の声が響き渡ってくる。


「因みに我の名前は加賀かが玲奈れいななのじゃ~!」


 ここで、勇者の声は完全に聞こえなくなった。


城ヶ崎じょうがさきくん、私たちの勝利ですね!」


 トアリは言った。


「流石は城ヶ崎の兄貴! 圧勝でやんす!」


 金剛力士像が続いた。

 え、俺何もしてないんですけど。


『皆さん! 極悪非道六神獣及び魔王が勇者を追い払ってくれました!』


 校内放送が入った。間もなく校舎から『魔王! 魔王!』のコールが。


(……………………………なにこれ?)


 何か良く分かんねーけど……。

 足かせになっていた『魔王』という異名が、今はプラスになっていることは分かった。

 そう感じた一日だった。


 あとあの勇者……加賀玲奈と名乗った研修生は、すぐアイドルに昇格するだろう。



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