「じゃあ早速、我にエクレアを奢ってくれんかのう?」
何でだよ。
何で初めて会ったオマエに奢らなきゃいけねーんだよ。
「出来ぬのなら勝負じゃ!」
勇者は半身になって構えた。
「あ、ちょ、待って、足の裏痛ぁい……」
言うと、勇者は座り込んだ。そして足の裏を確認する。
ローラースケート脱いだ時に素足になってたからね。なんか踏んづけた?
「……やべ、ちょっと切れてるかも……」
と、勇者はガチトーンで呟いた。
「石踏んじゃったかな~……」
素になったら喋り方フツーの女子だなコイツ。
「あのー、大丈夫か?」
俺が問うと、勇者はムッとした。
「だ、大丈夫じゃ! おのれえええええ! 流石は清キラの魔王! 難関高校だけに『足切り』を唱えるとは!」
うまくねーし、清キラは足切り制度無いぞ?
もしかして受験して落ちた奴か?
「くそう! 今のでHPがゴッソリ持っていかれたのじゃ!」
足の裏を切っただけで? どんだけHP少ないの?
「こんな時にMPさえ! MPさえあれば上級魔法を唱えて魔王なんて一撃じゃったのに! 肝心のMPが空っぽじゃ!」
空っぽなのはオマエの脳みそ。
「仕方ない! 仲間の魔法使いを呼ぶとするわい!」
止めといた方が良いよ。
魔法使い呼んだら来るから。
アイツが来るから。
『魔法使いですってええええええええええええええええええええ?』
ほらああああああああああああああああああああああ。
魔法使いボコボコにしたがってる加藤が入ってきたじゃん。
『今から行くわ!』
ヤバいヤバいヤバい。
魔法使い絶許の生徒会副会長が来るって。
今すぐ帰った方が良いよ。
魔法使い来たら血祭りが始まるから。
「はあ……はあ……。お待たせ、皆!」
いつの間にか、息を切らした加藤が俺の隣まで来ていたのだった。
(え、ええええええええええええええええええええ?)
速ああああああああああああああああああああああ。
ついさっきまで放送室に居たよね?
この一瞬で良く来れたな。
レーザービームかテメーは?
「な、なんじゃウヌは!」
勇者は座ったまま、加藤に問うた。
「生徒会副会長の加藤
「せ、生徒会副会長じゃとお? そんなやかましくて理性の無さそうな奴が――」
何かを言いかけたところで、加藤がしゃがんで勇者の肩を掴んだ。
「御託は良いからさっさと魔法使いを呼びなさーーーーーーーい!」
ガクガクガクと、加藤は勇者を激しく揺する。
止めたげてええ。
足の裏を切って瀕死状態だから勇者。
「魔法使いをボコらないと! 魔法使いをボコらないと今日のタスクをクリアできないのよ!」
何でそんな物騒なタスクあんの?
「やーめーるーのーじゃー……」
加藤に脳をシェイクされて、勇者は虫の息だ。流石に可哀想だと思ったのか、加藤は勇者の肩から手を離した。
「ふん! 勇者のクセに手応え無いわね! まあいいわ! 勇者をシバいたからタスククリアしたことにするから!」
余韻に浸ること無く、加藤はさっさと校舎の方に去っていった。
スゲーな。
さすが魔王の右腕(右隣りの席だけに)。
彗星の如く現れて余裕で勇者シバいたよ。
「くそう! 魔王どころか手下にヤられるとは完敗じゃ!」
言うと、勇者はヨロけながら立ち上がった。
「キミの瞳に~♪」
勇者また歌いだしたんだけど。
マジで歌ウマいんだけど。
やっぱ吟遊詩人だろ。
「ラララ~♪」
歌いながら、勇者はローラースケートを履いた。
「我は勇者ではない! アイドルを目指す研修生なのじゃ!」
え、そうなの?
だから歌ウマいのね。
てか何でそんな奴が魔王討伐に来たの?
「真の勇者は他に居るのじゃ! 我に勝ったからといって喜ぶでないぞ!」
叫ぶように言うと、勇者はローラースケートで華麗に去っていった。
(え、ええええええええええええええええええ?)
おまえローラースケート超上手いじゃねーか。
さっきまで下手なフリしてた?
「我は呑み込みが早いからの! ローラースケートなんぞ数秒履けばプロレベルになるのじゃ!」
遠くから勇者の声が響き渡ってくる。
「因みに我の名前は
ここで、勇者の声は完全に聞こえなくなった。
「
トアリは言った。
「流石は城ヶ崎の兄貴! 圧勝でやんす!」
金剛力士像が続いた。
え、俺何もしてないんですけど。
『皆さん! 極悪非道六神獣及び魔王が勇者を追い払ってくれました!』
校内放送が入った。間もなく校舎から『魔王! 魔王!』のコールが。
(……………………………なにこれ?)
何か良く分かんねーけど……。
足かせになっていた『魔王』という異名が、今はプラスになっていることは分かった。
そう感じた一日だった。
あとあの勇者……加賀玲奈と名乗った研修生は、すぐアイドルに昇格するだろう。