俺、トアリ、金剛力士像の三人で、校門の前に現れた勇者に会いに行った。
遠くから見て、勇者は男……だと思っていた。しかし女子だった。見た感じ、俺と同年代くらいか。
近所の高校生だろう。
ピンクのタンクトップに、下は青デニムのショートパンツという超薄着。
ヨガの先生みたいな格好だ。
ショートカットで、額には赤い鉢巻を巻いている。
そこいらには、まずいないだろうと言えるほどの可愛らしさがあった。
でもその明らかに変質者っぽい残念な薄着が、可愛らしさを打ち消していた。
(……めんどくせえ……)
マジかよ。今からコイツの処理するのかよ俺が。
どーやって絡めばいいんだよ。
どっからツッコめばいいんだよ。
『皆さんご安心を! 極悪非道六神獣及び魔王が何とかしてくれます!』
嫌だよもう帰りてえよ。
(……ん?)
勇者の足元がおぼつかないなと思ったら……。
勇者はローラースケートを履いていた。ローラースケートを上手く使いこなせておらず、常に足元を動かしてフラフラしている。
「あのー……」
俺が声をかけると、
「ついに現れおったな! 魔王ども!」
ショートカットの女子……勇者は叫んだ。キャラを立てるためか、変な言葉遣いだ。
「魔王よ! 今日こそウヌの命日だ! あっ、ちょっ、やべっ! 足元が安定せぬ!」
ローラースケートだしね。てか何でそんな下手なのに履いてんの? もしかしてバカ?
「凄まじいわい! これが魔王の攻撃かい!」
何もしてねえよ。酸素取り込んで微量の二酸化炭素吐き出すくらいしかしてねえよ。
「もうだめだ! あかん!」
勇者は転んだ。いてて、と言いながら、勇者は立ち上がろうとする。
「くそう! 流石は魔王! やるではないか! 我を転ばすとは! そんな高レベルの魔法を使えるとはな!」
だから何もしてねえよ。勝手に転んだだけだろ。
「くそう! まさか高等魔法の『スリップ』をかけられるとは!」
高等魔法って何だ。転んだのはそっちの低級頭脳のせいだろ。
「……引くわあ……」トアリは呟いた。
ヤベーよトアリにドン引きされてるよ。
こんな人類初めて見たよ。トアリがドン引きするとこも何気に初めて見たんだけど。
「
金剛力士像の方はノリノリだ。
ちょっと止めてくんない、肉塊とか物騒なこと言わないで。
「キミの瞳に~♪」
立ち上がろうとしながら、ショートカットの女子……勇者は歌いだした。
(えええ……)
急に歌いだしたんだけど。
意外と美声なんだけど。
しかもメッチャ歌上手いんだけど。
何なのコイツ。
え、超恐いんですけど。
「ラララ~♪」
美声で歌いつつ、勇者はローラースケートを脱ぎ始めた。
(……脱ぐのかよ……)
さては色々めんどくなったな。
キャラ設定を守るとか出来ないの?
「はぁ……。帰ろうかな……」
トアリは防護服の中で、ため息交じりに言った。
そりゃそうだよ。俺も帰りてえよ。完全にアブねー奴だもん。
「さあこれからが本番だわいな!」
キュッとした綺麗な素足で大地を踏みしめて、勇者は立ち上がった。
「ふふふ。勇者と聞きつけて、我が男だと思っていたようだな、ウヌらは」
勇者は腕を組んだ。
勇者じゃなくて今んとこ吟遊詩人だよね。
てか何で勇者なのにウヌとか我とか魔王側の言葉遣いしてんの?
「ところがどっこい! 我は女勇者だったワケだ! ルックスBってやつだわいな!」
ルックスBって何?
もしかしてポリコレに配慮してる?
「なるほど! ルックスBですね!」トアリが言った。
なんかスゲー食いついてきたんだけどぉ。
急にどうした?
さっきドン引きしてたのに。もう帰ろうとしてたのに。
えっ、なんか餌でも見つけた?
「ほほう。その防護服……ウヌは魔王の手下ぞな?」
何で初見でフルアーマー(トアリ)のこと手下だと思ったの?
見た目からしてトアリのが魔王だろ。
「その通りです」トアリは言った。「私はルックスGの魔王の手下です」
ルックスGって何だ。
G……。
…………あああああああああああああああああああああああ!
分かったわ。
テメーさてはルックスBからルックスGの流れ言いたくなって食いついたろ。
聞いた瞬間ウズウズしただろ。
マジで分かりやすいなオマエ。
「る、ルックスGじゃとお? そんなの聞いたことないぞお!」
そりゃあね。
「ど、どんな奴だわいな?」
「それはゴキ――ふふふっ!」トアリは途中で噴き出した。
笑っちゃってんじゃねーか。
テメー自分が発したネタくらい最後まで言い切れよ。
今日ずっとそんな感じだぞ。マジで反省しろ。
つーか何?
何で俺をイジることに関してはそうイキイキすんの?
「な、なるほど! ルックスGは素早さ・回避力・飛翔力・黒光り力が高いということじゃな?」
誰がゴキブリだ。今ので良く瞬時にゴキブリに辿りついたなオマエ。てか黒光り力って何? 戦闘の何処で影響するステータス?
「黒光りにさらされると、魔法防御力が下がるからのう! 厄介な魔王じゃ!」
黒光りにそんな効果あったの?
「黒光りを見ると精神的にもヤられるのじゃ! さすが魔王じゃ!」
それGに対しての拒絶反応ってだけだろ。