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第83話 魔王vs勇者①


 俺、トアリ、金剛力士像の三人で、校門の前に現れた勇者に会いに行った。


 遠くから見て、勇者は男……だと思っていた。しかし女子だった。見た感じ、俺と同年代くらいか。


 近所の高校生だろう。


 ピンクのタンクトップに、下は青デニムのショートパンツという超薄着。


 ヨガの先生みたいな格好だ。

 ショートカットで、額には赤い鉢巻を巻いている。


 そこいらには、まずいないだろうと言えるほどの可愛らしさがあった。

 でもその明らかに変質者っぽい残念な薄着が、可愛らしさを打ち消していた。


(……めんどくせえ……)


 マジかよ。今からコイツの処理するのかよ俺が。

 どーやって絡めばいいんだよ。

 どっからツッコめばいいんだよ。


『皆さんご安心を! 極悪非道六神獣及び魔王が何とかしてくれます!』


 嫌だよもう帰りてえよ。


(……ん?)


 勇者の足元がおぼつかないなと思ったら……。

 勇者はローラースケートを履いていた。ローラースケートを上手く使いこなせておらず、常に足元を動かしてフラフラしている。


「あのー……」


 俺が声をかけると、


「ついに現れおったな! 魔王ども!」


 ショートカットの女子……勇者は叫んだ。キャラを立てるためか、変な言葉遣いだ。


「魔王よ! 今日こそウヌの命日だ! あっ、ちょっ、やべっ! 足元が安定せぬ!」


 ローラースケートだしね。てか何でそんな下手なのに履いてんの? もしかしてバカ?


「凄まじいわい! これが魔王の攻撃かい!」


 何もしてねえよ。酸素取り込んで微量の二酸化炭素吐き出すくらいしかしてねえよ。


「もうだめだ! あかん!」


 勇者は転んだ。いてて、と言いながら、勇者は立ち上がろうとする。


「くそう! 流石は魔王! やるではないか! 我を転ばすとは! そんな高レベルの魔法を使えるとはな!」


 だから何もしてねえよ。勝手に転んだだけだろ。


「くそう! まさか高等魔法の『スリップ』をかけられるとは!」


 高等魔法って何だ。転んだのはそっちの低級頭脳のせいだろ。


「……引くわあ……」トアリは呟いた。


 ヤベーよトアリにドン引きされてるよ。

 こんな人類初めて見たよ。トアリがドン引きするとこも何気に初めて見たんだけど。


城ヶ崎じょうがさきの兄貴! 今ならチャンスでげす! 肉塊にしようでやんす!」


 金剛力士像の方はノリノリだ。

 ちょっと止めてくんない、肉塊とか物騒なこと言わないで。


「キミの瞳に~♪」


 立ち上がろうとしながら、ショートカットの女子……勇者は歌いだした。


(えええ……)


 急に歌いだしたんだけど。

 意外と美声なんだけど。


 しかもメッチャ歌上手いんだけど。

 何なのコイツ。

 え、超恐いんですけど。


「ラララ~♪」


 美声で歌いつつ、勇者はローラースケートを脱ぎ始めた。


(……脱ぐのかよ……)


 さては色々めんどくなったな。

 キャラ設定を守るとか出来ないの?


「はぁ……。帰ろうかな……」


 トアリは防護服の中で、ため息交じりに言った。

 そりゃそうだよ。俺も帰りてえよ。完全にアブねー奴だもん。


「さあこれからが本番だわいな!」


 キュッとした綺麗な素足で大地を踏みしめて、勇者は立ち上がった。


「ふふふ。勇者と聞きつけて、我が男だと思っていたようだな、ウヌらは」


 勇者は腕を組んだ。


 勇者じゃなくて今んとこ吟遊詩人だよね。

 てか何で勇者なのにウヌとか我とか魔王側の言葉遣いしてんの?


「ところがどっこい! 我は女勇者だったワケだ! ルックスBってやつだわいな!」


 ルックスBって何?

 もしかしてポリコレに配慮してる?


「なるほど! ルックスBですね!」トアリが言った。


 なんかスゲー食いついてきたんだけどぉ。

 急にどうした?


 さっきドン引きしてたのに。もう帰ろうとしてたのに。

 えっ、なんか餌でも見つけた?


「ほほう。その防護服……ウヌは魔王の手下ぞな?」


 何で初見でフルアーマー(トアリ)のこと手下だと思ったの?

 見た目からしてトアリのが魔王だろ。


「その通りです」トアリは言った。「私はルックスGの魔王の手下です」


 ルックスGって何だ。

 G……。


 …………あああああああああああああああああああああああ!


 分かったわ。

 テメーさてはルックスBからルックスGの流れ言いたくなって食いついたろ。


 聞いた瞬間ウズウズしただろ。

 マジで分かりやすいなオマエ。


「る、ルックスGじゃとお? そんなの聞いたことないぞお!」


 そりゃあね。


「ど、どんな奴だわいな?」


「それはゴキ――ふふふっ!」トアリは途中で噴き出した。


 笑っちゃってんじゃねーか。

 テメー自分が発したネタくらい最後まで言い切れよ。

 今日ずっとそんな感じだぞ。マジで反省しろ。


 つーか何?

 何で俺をイジることに関してはそうイキイキすんの?


「な、なるほど! ルックスGは素早さ・回避力・飛翔力・黒光り力が高いということじゃな?」


 誰がゴキブリだ。今ので良く瞬時にゴキブリに辿りついたなオマエ。てか黒光り力って何? 戦闘の何処で影響するステータス?


「黒光りにさらされると、魔法防御力が下がるからのう! 厄介な魔王じゃ!」


 黒光りにそんな効果あったの?


「黒光りを見ると精神的にもヤられるのじゃ! さすが魔王じゃ!」


 それGに対しての拒絶反応ってだけだろ。


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