トアリや
そう身構えていたが……。
その最中に俺はウトウトして、眠りについてしまっていた。
日頃の疲れが出てしまったんだと思う。
「はっ……!」
俺は目を見開いた。それとほぼ同時に
『京都~。京都~』
新幹線が京都に到着。
(え? え? え?)
もしかして寝ている間に体に何かダメージでも……とヒヤリとしたが……。
自分の身には何も起こっていなかった。
隣の席では、トアリが新幹線を降りる準備をしている。
(ま、マジか……)
特に何事もなく京都に着いていた。
(き、奇跡だっ……!)
絶対に誰かが邪魔しにくると思ってたのに……。
奇跡以外の何物でも無い。一時間半、ゆっくり休めるなんて。
「ああ、奇跡だっ……! 俺は今、確かに奇跡をつかみ取ったんだっ……!」
俺は晴れやかな気持ちで京都の大地を踏んだ。
「やれやれ、大げさですね、
「るせえ。俺にとっては奇跡なんだよ。毎秒毎秒誰かさんに邪魔されてたからな」
「へえ。それは大変ですね」
……なに他人事のように言ってんの?
ああ分かって言ってるのかな?
主にオマエのこと言ってるってこと、分かってるよね? 分かってくれてるよね?
「そんな人が居たら言って下さいね、私が助けてあげますから」
ああ分かってねえなこれ。
「ホント、
おめーもだバカヤロウ。
「はいはい静かに!」
俺たちはバスで京都の旅館に行き、それぞれの部屋へ入ることに。
「そういや岩田先生、俺、部屋割り知らないんですけど」
旅館の玄関にて。次々と各自の部屋に入っていくクラスメートを横目に、俺は言った。
「ああゴメンね。実は昨日の五時限目に決めたのよ」
俺たちが作戦会議していた時だ。
「これが部屋割りよ」
俺は、部屋割りの書かれたプリントを受け取った。
「……は?」
と、俺はつい、声を漏らしてしまった。
『
ちょっとどういうことこれ。
「あの岩田先生、流石に女子と二人ってのは……」
「そうですそうです! 何で私が『G部屋』なんですか! 私はGではありません!」
そこおおおぉ?
「私も納得がいきません!」加藤が叫ぶ。「私もGってことにして、この部屋に泊まらせて下さい!」
オマエはそれでいいのか? てか何でそこまでしてこの部屋に泊まりたがるの?
「はいはい、いいから加藤さんは自分の部屋に行く!」
「え? でも……あっ……」
岩田先生に強く背中を押され、加藤はその流れに逆らえずに自分の部屋に行くのであった。
「それでなんだけど、二人きりにしたのには理由があるのよ」
「理由、ですか?」
俺の問いに「ええ」と岩田先生は頷いた。
「まずはね、予めこの部屋を特別に除菌しておいてもらったのよ」
「除菌?」
「ええ。鞘師さんが泊まれるよう、城ヶ崎くんに習ってね」
「俺に習って?」俺は己を指差す。
「ええ。鞘師さんに聞いたわ。あなた教室を綺麗にするために色々やってくれたらしいじゃない。それをそのまま真似させてもらったの。旅館の人に無理言ってね」
「え?」
「鞘師さん、あれぐらい除菌された部屋なら安心して泊まれるって言ってくれたの」
「……トアリが?」
俺はトアリの顔を見た。トアリはすぐさまギシュリと顔を逸らす。
「それを聞いた以上、担任として動かないわけにはいかないでしょ? 個人的にも全員参加してほしかったし。だから先日、急いで旅館の人に頼んだの。それでめでたく綺麗な環境ができて、鞘師さんが来たのよ?」
「マジ、ですか?」
ええ、と岩田先生は微笑んだ。
「鞘師さんが来られたのは、あなたの頑張りのお陰もあるのよ? 少しは誇ってもいいんだから。ねっ? 鞘師さん?」
「べ、別に……。そんなこと……」
ふふっと岩田先生は笑う。
「ゴメンね鞘師さん。絶対に言わないって約束だったけど、城ヶ崎くんの頑張りを知って、担任として言うべきだと判断させてもらったわ。城ヶ崎くんのお陰で、鞘師さんが課外授業に行く決意を固めたこと」
「そ、それは……後で言うつもりでしたし……」
「あらそう?」
「はい……。でも二人きりの部屋というのは初めて知りました……」
「ああ、そこよね。クラスの中で唯一、人に一番近いぐらい除染された彼なら大丈夫らからオッケーかと思ったのだけれども」
岩田先生? サラッと暴言吐いてますけど違いますよね? それトアリの言葉をそのまま言っただけですよね?
「大丈夫。流石に寝るときは、城ヶ崎くんには他の所に行ってもらうから。ああでもいくらなんでも男子と二人の部屋は嫌だったかしら?」
「いえ、大丈夫です……」
「ホントに?」
「はい、G用スプレー持ってきてますし」
結局それか。
「城ヶ崎くん」岩田先生は耳打ちしてきた。「今の、照れ隠しだと思うわ」
「……はあ……そうですかね……」
「あなたも鈍いわねえ~」
ため息混じりにそう言うと、岩田先生は「じゃあね」と立ち去っていった。