一方の、本物の極悪非道六神獣及び魔王はというと、もう膝どころか髪の毛の先まで震わせるほど怯えていた。
どうしよう……。大丈夫ですよ、とか言って金髪オールバックをフォローしたいところだけど……。
自分を血祭りにあげようとしてる教頭とボクは仲間だって確実に思ってるだろうし……。声かけたら余計に驚かせちゃうよねこれ。
「き、キミは……!」
ボクが判断に迷っていると、誰かが金髪オールバックにそう声をかけた。
ボクと同じ清キラの生徒だった。とりわけ特徴のない男子だった。
「あ、お、おまえ……」
と、金髪オールバックは恐怖に支配された表情を和らげていった。
「も、もしかして……フジヨシくん……か?」
金髪オールバックが言うと、清キラの……フジヨシと呼ばれた平凡な男子はゆっくりと頷いた。
(え、ええええええええええええええ?)
こんなところでフジヨシくんと再会?
しかもフジヨシくん清キラ高生だったんだ?
「久しぶりだね」フジヨシくんは静かに口を開いた。「金髪オールバックくん」
金髪オールバックくんって何?
え、もしかしてそういう名前なの?
さては作者サボったな。
「フジヨシ、おまえ、清キラに行ったのか……」
「あ、うん……」フジヨシくんは気まずそう。「金髪オールバックくんは勉強苦手だから、そういうところ行くとボクのこと嫌いになるんじゃないかって……」
「バッキャロウ! んなわけあるか!」
「き、金髪オールバックくん……!」
「むしろ祝いたいぐらいだぜ! そうか……清キラに入れたのか……良かったな……。これで人生安泰だな!」
「……うん……ありがとう金髪オールバックくん……」
そこそこ良い話なのにテキトーな名前のせいで感動が薄まってるんだけど気のせいですか?
「ボクが休みの日に配られたプリントを、金髪オールバックくんが届けてくれたお陰だよ」
「へっ、よせよ。友達として当たり前のことしただけだって」
「うん、でもありがとう……」
ここで二人は微笑みを交わした。
「あ、そういえば気を付けてね、金髪オールバックくん。清キラにも極悪非道六神獣及び魔王が居るから」
「ご、極悪非道六神獣及び魔王?」
「うん、キミとは別の、ね。だからボクたちの車両には行かない方が良いよ」
「そーいやさっき、変なジジイが探してたな」
いやそれキミのこと探してるんだよ。
あ、そうか、彼らはあの人が清キラの教頭ってこと知らないんだった。
なんか話が奇跡的にごちゃごちゃになっててめんどいな。
金髪オールバック→自分が本物の極悪非道六神獣及び魔王と自覚しているが、教頭が追っているのは自分じゃない極悪非道六神獣及び魔王のことだと思ってる。
教頭→本物の極悪非道六神獣及び魔王……つまり金髪オールバックを探してる。清キラの
ややこしっ!
整理したら超ややこしいことになってた。
なんかスゲー三角関係出来てんじゃん。
どう終着すんのこれ?
「心配すんなフジヨシくん! もしその極悪非道六神獣及び魔王に何かされたら俺に言ってくれ!」
「だ、大丈夫なの? 金髪オールバックくんって喧嘩とかしたことないし……」
「例えヤられることが分かっていても、友達を守るためなら俺は動くぜ」
「き、金髪オールバックくんっ……!」
だから名前なんとかしろって。作者今からでも遅くないから名前テコ入れしてくんない? 全然話が入ってこないから。
「なあフジヨシくん。清キラってどんな学校なんだ?」
「あ、それがね金髪オールバックくん。授業は――」
と、金髪オールバックとフジヨシくんはダベりながら前の車両に歩いていった。
(……一体どうなるんだろう……)
まあ、とりあえず二人の極悪非道六神獣及び魔王が衝突することは無かったから、今のところは良しとすればいいのかな……。
「……あれ? 城ヶ崎くん?」
ボクが清キラの車両に戻ると、
「そっとしておいてください
鞘師さんは、ヒッソリとボクに言った。
「こう見えてクラス委員長として陰で色々頑張ってくれてるんです」
「あ、そうなんだ……」
ボクも鞘師さんに合わせて声をヒッソリとさせた。
「その疲れが出て寝てしまったのでしょう」
フフッと、防護服の中で鞘師さんが確かに笑った。とても穏やかに。
(そっか……。鞘師さんが言ってた友達っていうのは……)
ボクはここで、確信していた。
鞘師さんと城ヶ崎くんの関係性と……。
二人の『本当の』人間性を……。
そのことを知って、ボクは思わず笑みを零してしまっていた。
「……じゃあ鞘師さん、ボクは自分の席に戻るよ」
「ええ。ではまた」
……また……か。
うん、また、機会ができたら話そう。
この二人と。
(うん……また……)
鞘師さんも、とても良い人だと思いました。
本物の極悪非道六神獣及び魔王のことは良く分からないけど……。
(良く分からないけど……)
もし『本物』が居るとしたら……。
それは人の心だと思いました。
そんな日でした。