どうも、メガネです。
あ、もう説明は必要ないですよね。
はい、メガネです。
ボクはこれから
失礼な発言をして皆を突き放す鞘師さんだけど……。
何か理由があってそうしてるんだと思います。
(うーん、どうやって話しかけようかな……)
いつもは白い防護服を着ている鞘師さんだけど……。今日は何故か眩しいほど真っ赤な防護服を着ている。そんな鞘師さんの隣には、
城ヶ崎くんは、なんだか凄く恐い顔をしながら、視線だけ動かして辺りをキョロキョロしている。何かを警戒するように。
「ちょっと前の車両確認してくる……」
と、城ヶ崎くんは席を立って、前の車両へ歩いていった。
(どうしたんだろう……)
何か用事でもあるのかな……。
ともあれ、城ヶ崎くんの席が空いたことで、鞘師さんと話す機会がやってきた。
「あ、あのー、ちょっとここ座って良い?」
ボクは恐る恐る鞘師さんに言った。鞘師さんは微動だにせず、新幹線の窓から外の景色を眺め続ける。
「あの~、鞘師さん?」
もう一度呼びかけると、鞘師さんはギシュリと防護服を鳴らして顔をこちらに向けた。
そして、
「汚染度の高いメガネが来た……」
ボソッと呟いたのだった。
(え、ええええええええええええええええ?)
初手から失礼な発言浴びせられたんだけど。早くも挫けそうなんですけど。
「ああ失礼……。今のは冗談です」鞘師さんは言った。「メガネ掛け機の間違いでした」
余計失礼なことになってるけど?
防護服の視界が悪くてメガネしか見えてないだけだよね? そーだよね?
「何か用ですか?」鞘師さんは素っ気なく言う。
「あ、えっと、ちょっと鞘師さんと話したいなーって思って」
「ほう。あぁ、あなたは
あ、あれえええええええええええええええ?
思ったよりマトモなんだけど。
ボクのフルネーム認知してるんだけど。
ホントに防護服の視界が悪くて見えてないだけだったよ。
「いつまでそこで突っ立ってるんですか? 新幹線揺れるから座らないと危ないですよ」
しかも優しいんだけど。
「えっと、じゃあ失礼します」
ボクは鞘師さんの隣に座った。
「にしても城ヶ崎くん、余計なことをしに行ったようですね」
鞘師さんはやれやれといった雰囲気で言った。防護服の中では呆れた表情をしているに違いない。
「メガネくん……あっ、間違えた、早乙女くん」
メガネです。
あ、間違えた、早乙女で合ってた。
あまりにもメガネって言われすぎて自分を見失ってたよ。
だって一番ボクのことメガネって呼びそうな人に限って本名で呼ぶんだもん。
「まずお礼をします」
「お礼?」
「はい。私と席を交代してくれたじゃないですか。かなり強引になってすみませんね」
メッチャ優しいんだけどおおおおおおおおおおおおお。
なんか涙がメガネを突き抜けそう……。
「あ、ううん、気にしないでよ鞘師さん」
「そうですか。ずっと気になっていたので。お礼を言える機会が出来て良かったです」
良い人だ……。
「そういえば早乙女くん、私とお話ししたいと言っていましたが?」
「あ、うん……。ていうかその……今日は何でそんな赤い防護服を着てるの?」
ほう、と鞘師さんは声を出した。
「その変化に気づくとは、流石ですね早乙女くん」
いや誰でも気づくと思うけど。そのピッカピカな赤い防護服見て気づかないなんて人居ないと思うけど。
「この赤い防護服には特殊な効果がありまして」
「と、特殊な効果?」
「ええ。通常の三倍、素早く動けるだけでなく、一万二千枚の特殊装甲を備えています。それだけでなく心の壁(ATフィールド)を展開できます」
……彼女は一体なにを言っているんだろう。
「と、とにかく凄いってことかな?」
「ええ。まあ言ってしまうと、いつもの防護服を赤くしただけなんですが」
じゃあ色が違うだけだよね? え、さっきの説明は何だったの?
「あの、ところで鞘師さんは、何で他の人を引き離すようなことを言うのかなー……なんて……」
ボクは慎重に聞いていた。
「色々あるのですよ。でも最近できた友達が、もしかしたら私のそういったところを治してくれるのかもしれませんね」
「へ、へえ……」
最近できた友達、か。
誰のことだろう……。
とにかくその友達のお陰で、鞘師さんは変わりつつあるのだろうか。
そういえば今のところボクに対して毒づくことしてないし……。
対応も優しかったし……。
その友達のお陰なのかな?
モトモトそういう人だったり?
「心境が変化してるってことですよ、私も。他に聞きたいことありますか?」
「あ、ううん……。ありがとう、話してくれて……」
「そんなのクラスメートだから当然じゃないですか。お話ししただけで礼を言われる筋合いはありません」
……なんか思ったよりホントにマトモな人だ……。
元からなのか、心境変化のお陰なのか……。
「ところで早乙女くん。一つお願い事があるのですが」
「あ、うん。何?」
「城ヶ崎くんを連れ戻してくれませんか?」
「城ヶ崎くんを? あ、そういえばさっき恐い顔してどっか行ったね」
「はい。探して連れ戻してください。あれ以上、汚染度が高くなってしまわれては困ります」
「えっと、とにかく城ヶ崎くんを連れ戻せば良いんだね?」
「はい。お願いします」
ボクは立ち上がり、城ヶ崎くんが消えていった前の車両に向かった。