目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第35話 実在するらしいです。


「はいはい皆さん! クラスごとに並んで下さい!」


 加藤がメガホンを使って指示を出した。俺とトアリは自分のクラスメートたちを男女一列ずつに並べ、その先頭に立った。


「おいおい」


「なにあれ?」


鞘師さやしトアリだよな?」


「赤くね?」


「やべえよ」


「あの極悪非道六神獣及び魔王の城ヶ崎じょうがさき俊介しゅんすけも居るぞ」


「てか何だあの赤?」


「あの赤はもうすぐ学校を支配する狼煙らしいぜ」


「えー?」


「マジかよ?」


「噂では極悪非道六神獣及び魔王の城ヶ崎俊介が、ついに教員にも手を出したとか」


「げえ」


「マジ?」


「逆らわない方が良さそう――」


 等と、他のクラスの生徒は勿論、俺のクラスメートたちもこちらに注目してヒソヒソしている。


(えええええええええ?)


 噂が更にこじれて凄いことになってんだけど。学校を牛耳ってる魔王になってんだけど。


「いとをかし」


 おまえはホントお気楽だな。


「さあみんな、静かに。出席取るわよ?」


 と、岩田いわた先生が出席名簿を手に、クラスの列の前に来た。そして速やかに出席確認した。


「うん、全員来ているわね。じゃあ早速、新幹線に乗るからついてきなさい。クラス委員長の城ヶ崎くんと鞘師さんに続いてね」


 俺はケッコー期待していた。

 きよキラ高生だ! と指さされるのを。


 でも新幹線までの道のりで、エリートだのと指さされることはなかった。

 何故なら先頭の、俺の隣の……赤い防護服を着たトアリが一際目立ったから。


「えええ?」


「何だアレ?」


「何かのコスプレ?」


「え、でも清キラの人たち……だよね?」


「どういうこと?」


「知らねーけど撮っとこうぜ」


 トアリが着る防護服の珍しさに、スマホで写真を撮ろうとしていた者が多数居たが、


「写真は撮らないで下さい! プライバシーの侵害で訴えますよ!」


 と、加藤がメガホンで注意してくれた。その力強さに押されて、周りの人たちはすぐにスマホをしまい始めた。


(なんだ、結構良い奴じゃん、加藤って)


 俺がそう思ったのも束の間。


「訴えられるだけならまだしも、極悪非道六神獣及び魔王の城ヶ崎俊介に何されるか分かったもんじゃありませんよ!」


 おい止めろマジで。


「ちょっとキミいいぃ!」


 と、駅の係員がクラスの列にかけつけてきた。

 無理も無い、初見で赤い防護服姿は怪しまれても。

 まあ説明すれば分かってくれ――、


「極悪非道六神獣及び魔王ってのはホントかね!」


 そっちいいいいいいいいいい?


「ええ! この人がその極悪非道六神獣及び魔王の城ヶ崎俊介です!」


 加藤が俺を力強く指差すと、係員がこちらに向かってきた。


「キミ! あの極悪非道六神獣及び魔王なのかね?」


 あの極悪非道六神獣及び魔王なのかねってどういうこと? 

 実在すんの?


「ち、違いますよ!」俺は必死に叫ぶ。


「そうですよ」


 と、トアリが言ってくれた。


「学校の通り名みたいなもので、彼は極悪非道六神獣及び魔王ではありません。極悪非道六神獣及び魔王であることは確かですが、極悪非道六神獣及び魔王ではありません」


 ちょっとそれ結局肯定してるってことにならね?


「そうか、ならば良し」


 係員納得したぁ。


「失礼した」


 係員速やかに帰ったぁ。


「さっ、みんな」岩田先生は言った。「新幹線に乗るわよ」


 そして何事も無かったかのようにいつの間にか新幹線の改札口まで来てたぁ。


「ちょっと! 極悪非道六神獣及び魔王は最後に通って下さい!」


 更に生徒会副会長お墨付きで極悪非道六神獣及び魔王継続かいいいい。


「いとをかし」


 最後に深紅のダメ押し来たぁ。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?