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第31話 美少女の正体


「はぁ……流石に三回は疲れたな……」


 続いてバスルームから出て、タオルで全身を拭いてから手を洗い、用意された下着と灰色の寝間着を着てから手を洗い、ドライヤーで髪の毛を乾かしてからまた更に手を洗った。


「な、なるみちゃーん!」


「はーい、入るよー!」


 なるみちゃんが入ってきた。俺の姿を見るや否や、なるみちゃんはクスッと笑った。


城ヶ崎じょうがさきさん、すっごく疲れたって顔してる。それに湯気が出てて面白ーい」


 そこ笑うとこなんだ。もしかして見かけによらずS?


「あとお父さんと同じ寝間着姿がツボかも」


「へ? これお父さんのなの?」


「うん。下着もそうだよ」


「へ、へえ……。なんかリアクションに困るな……」


 ふふふっと、なるみちゃんは笑う。


「じゃあ城ヶ崎さん、このスリッパを履いてほしいんだけど、その前に……」


 なるみちゃんは除菌ウェットシートを取り出した。


「これで足の裏を拭いてから履いて。その後――」


「手を洗う、だな?」


「うん、お願いね」


 何となく分かってきた。俺は指示通りに実行。


「オッケ。お次は?」


「もう大丈夫。今から作戦会議する部屋に案内するから、ついてきて。途中、くれぐれも壁を触ったりしちゃ駄目だよ? そしたらまた手を洗わなきゃいけないから」


 頷き、俺はなるみちゃんの後をついて二階に上がった。そこの一室に俺は案内された。


「じゃあスリッパ脱いで中に入って待っててね。この部屋の物は触ったりしても大丈夫だから。でも咳とか、くしゃみしたら駄目だからね」


「ああ、分かった」


 またねー、と、なるみちゃんは部屋の扉を閉めた。


「誰の部屋なんだろうな……」


 ベッド、折り畳み式の机、本棚、テレビ等、必要最低限のものはあるから、普段誰かが使っている部屋であることは分かる。


 何だろう、女子独特の、良い匂いが染み渡っている。


「なるみちゃんの部屋、かな……」


 そう思ったのは、トアリの部屋とは思いにくい要素があったからだ。

 それは、部屋の清潔度。普通の部屋のそれと同レベルだった。


 テレビの上や机のパソコンにうっすらと埃がかかっている。漫画本やゲーム機、ゲームソフト、女物の服までも床に散らばっているし、あの超潔癖症女子が暮している部屋とは到底思えない。


「や、やっぱりなるみちゃんの部屋、だよな……」


 そう考えると、ちょっと緊張する。部屋でどう待機すればいいのだろう。


 あんなに可愛い女子の部屋で適当に座るのは、何だかイケナイことをする気がしてならないし……。あまり部屋をジロジロ見るのも気が引ける……。


「まずいな……やれることがない……」


 スマホは預けてあるし、勝手にテレビを観るのも悪い気がするし……。


 ていうか女子の部屋に来たの初めてだから、何をしていればいいのか分からない……。


「うう……」


 なるべく視界をぼんやりとさせて、俺は部屋で立っていた。しばらくすると、扉が静かに開かれた。


 入ってきたのは、全く面識の無いショートカットの女子だった。


 一言に、メチャクチャ可愛かった。


 アイドルのように、周りの空間が煌めいて見えるほどだった。

 千年に一人どころじゃない。

 万年に一人と言っても過言ではなかった。


 女子はスラッとしていて、スタイルも良かった。ノースリーブノーブラ姿で、俺は目のやりどころに困っていた。


 そんな俺をよそに、女子は何も言わずに部屋の扉を閉めて、無言で机の前にあぐらをかいた。女子のハーフパンツが内に引っ張られて、綺麗な太ももが露わになる。


「……えっ……と……」


 俺が視線をキョロキョロさせていると、女子は「はあ……」とため息を吐いた。


「なに不審者のように立ってるんですか?」


 聞き覚えのある声だった。とてもクリアになった、聞き覚えのある女子の声……。


 まさか……。


「いいからその辺にテキトーに座って下さいよ。気が散るってか、目が汚染されます」


 この声、失礼な言動。


「いつまでも飛翔するジーみたいに立ってないで、座って下さいよ、城ヶ崎くん」


 人をG呼ばわりし、俺のことを『くん』付けで呼ぶ女子って……。


「にしても、課外授業、明日かぁ……。鬱&鬱&ゴキブリだなあ……」


 課外授業を鬱と言う女子って……。


「え、えええええええええええええええええええええええええええええ?」


 俺は叫んだ。


「えええええええええええええええええええええええ? てか、ええええええええええええええええええええええええ?」


 女子の正体を知り、あり得ないほど叫んだ。


「ちょっと五月蠅いですよ。そこの対峙するG」


「いやいやいやいや! そりゃそうなるって! もうGにツッコム余裕とかねえから! つーか何? マジ? おまえマジで鞘師さやしトアリ?」


「当たり前じゃないですかー。私は私であり、私であるって紹介したはずですが?」


「いやフルアーマーバージョンではしたけども! そのバージョンでは初だろ!」


「あー、そういやそうでしたっけ?」


「そうなの! いいからその服装なんとかなんない? 目のやりどころに困るから!」


 トアリはあぐらをかいた状態で「ええー?」とめんどくさそうに目を細めた。


「嫌ですよ。折角汚染度ゼロの部屋で落ち着けてるのに」


「い、いいから着てくれって! ノーブラだろそれ……」


「あー、まあそうですけど……。はぁ……なるほど……。城ヶ崎くんも発情するGってこと忘れてました……」


「うん、そうだね! この際それでいいからちゃんとした服着ようか!」


「はいはい……」


 トアリはその辺に散らばっていたピンクのTシャツを羽織った。


「これでどうです?」


「あ、ああ……大丈夫……」


 俺はトアリの向かい側に座った。


 折り畳み式の机を挟んだ向かい側に、鞘師トアリが座っている。


 だが今のトアリはいつもと違う。防護服を着ていないトアリ。モノッ凄く可愛らしい女子に変貌したトアリ。


「はあー……」


 俺は人生最大のため息を吐いた。


「何ですか? 今のため息は?」


「いやだってさあ、まさかトアリがねえ……。これで中身も完璧だったらな……」


「完璧じゃないですか、中身」


 防護服の中身はな。


「防護服の中身の中身の話してんの、俺は」


「防護服の中身の中身――」


 アッと、トアリは気付いたようだ。


「ちょっと! 失礼じゃないですか!」


 だからオマエにそれを言う権利は無いからな?


「私だって誰彼構わずGって呼んだりしませんよ! 城ヶ崎くんがGであることが悪いんですからね!」


 Gじゃねっつの。


「悪いけどGとはゴキブリのことではなく、生物的にゴキブリと酷似しているがゆえにゴキブリと全く同じである人間のことを指してるだけです!」


「それ結局ゴキブリってことだよね!」


「ええ! そうですが!」


 何でさっきからオマエの方がキレ気味になってんだ馬鹿たれ。怒りたいのはこっちなんだけど。


「トアリ、おまえやっぱホンット防護服状態と変わらないな……」


「城ヶ崎くんも変わりませんよねー。Gであること以外」


 いい加減Gから離れようか。食傷気味なんだよこっちは。


「ま、まあいい……。このままその方向の話しても堂々巡りするだけだ……」


 俺は何とか羽ばたくGの話を切り上げた。


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