学校から徒歩五分ほどの場所にある、二階建ての一軒家に着いた。玄関に備え付けられたインターホンの横には、
「まず、
なるみちゃんは玄関の扉を開けて、家の中に入っていった。
「なあトアリ、準備って何だ?」
「汚染された使徒が侵入してもこの世の全てが爆ぜないように、なるみが準備してくれてるんです」
……まるで意味が分からないのですが。
「城ヶ崎くんにはまず、あのセントラルドグマを突破してもらいます」
ただの玄関の扉なんですが。
「決して、あの内側を触らぬようお願いします。もし触ると……地球が爆ぜます」
絶対に爆ぜないと思うのですが。
「まず、靴を脱いで下さい」
「は? ここで?」
「ええ、お願いします」
俺は渋々、靴を脱いだ。
「脱いだ靴も、鞄もスマホや財布等の貴重品も――」
いいつつ、トアリは大きなビニール袋を取り出した。
「この中に入れて下さい」
「……まさかゴミに出すんじゃねーだろうな」
「安心して下さい。価値はゴミ同然ですが、捨てるようなことはしません」
サラッと失礼なことを言うな。
「お姉ちゃん準備できたよー」
と、なるみちゃんが玄関の扉から顔を覗かせた。
「オッケー。じゃあ城ヶ崎くんを入れるから」
「うん、分かった」
なるみちゃんは引っ込んだ。
「では、今から私がセントラルドグマを開けるので」
玄関の扉ね、はいはい。
「内側は絶対に触らないで下さいね! 絶対ですよ!」
分かっとるわしつけえな。こういうことだけには必死だなホント。
「入ったらまず、靴下を脱いで下さい。そこで注意するポイントは、靴下を脱いで素足になった後のことです」
「……何だよ?」
「素足になったその足を、地面に着ける前に、廊下に敷かれたタオルの上に着けるようにして下さい。勿論、両足ともです」
めんどくせえな。
「まあいいや……。やりゃあいいんだろ? 仰せの通りに」
「では……」
トアリは扉を開けた。俺は内側に触れぬよう入った。そして玄関の中で、独りになった。
「あー、なるほど……」
玄関は普通だった。しかし廊下には、色とりどりのバスタオルが敷かれており、それがどこかの部屋に繋がる道を作っている。
「これを辿ればいいの? なるみちゃん!」
俺は家の奥に向かって声を張った。
「うん! くれぐれも指示通りにね!」
なるみちゃんの声が遠くの部屋から聞こえてきた。
「脱いだ靴下は、玄関にあるゴミ箱の中に捨て――入れてね!」
今なんか凄いこと言おうとしてなかった? 気のせいだよねなるみちゃん信じてるよ。
「わ、分かった!」
俺は靴下を右足から脱いで、裸足になった右足をタオルに着地。そして右足だけを軸に立って、左足の靴下を脱いで両足タオルの上に着地。次いで近くのゴミ箱に靴下を捨て――入れた。
「なるみちゃん、脱いだよ!」
「じゃあそのままタオルの上を歩いてね! 絶対に床に足を触れたら駄目だからね!」
「あ、ああ!」
俺はタオルの道を辿って奥に進んだ。辿り着いた部屋の前には、なるみちゃんが立っていた。
「ここって……」
「うん、バスルーム」なるみちゃんは笑顔で言った。
「えっと、風呂にでも入ればいいのか?」
「お風呂じゃなくて、シャワーを浴びてほしいんだ。でもその前に、手を洗ってね」
「あ、ああ……」
俺はバスルームの前の洗面所で手を洗った。
「指先、手首までちゃんと、ね?」
「あ、分かった……」
なるみちゃんに細かく指示されながら、俺は手を洗い直した。
「うん、お疲れ様。次はシャワーなんだけど、注意することがいくつかあるんだ」
「な、なにかな?」
俺は恐る恐る訊いた。
「まず、制服とか下着を脱いで裸になるでしょ?」
「あ、ああ……」
「その時、制服や下着に手を触れるでしょ? その時、また手が汚染されるじゃん?」
「……あー、何となく分かったわ……」
「ふふっ。だから順序は、まず制服と下着を脱ぐ。その脱いだ制服と下着を、そこの洗濯機の中に入れる」
「ふんふん……」
俺は頭に入れながら何度も頷く。
「そしてまた手を洗ってから、バスルームに入って。くれぐれも手を洗う前に入らないようにお願いね」
「よし、分かった」
「あと……」
まだあんの?
「体はちゃんと耳の裏とか足の間や裏とか細部まで洗って。勿論、顔も髪の毛もきちんと。着替えはこっちで用意したものを使ってね、城ヶ崎さん」
「あ、ああ……分かった」
「まあ城ヶ崎さんは初めてだから、いつものシャワーを三回浴びる感じでお願い」
「つまり三回、体とか顔とか髪の毛を洗う、と」
「うん。バスルームから出てタオルで体を拭いた後は、また手を洗ってから下着とか着てね。そして服を着た後も手を洗ってからドライヤーで髪の毛を乾かして、その後また手を洗ってから、地球上に存在するいかなる物質には一切手を触れずに、大声で私を呼んで」
一苦労だな。
「分かった……やってみる……」
「うん、お願いね。じゃあ私は失礼するから」
なるみちゃんは扉を閉めて出ていった。
「いっちょやるか……」
俺は指示通り、服を脱いで洗濯機に放ってから手を洗い、バスルームに入った。
そして体の細部、顔、髪の毛を洗っては流しを計三回。
終えた時はふやけそうになっていた。