「え、あの、何が起こって?」
「なーに、ただの襲撃ですよ」
ただの襲撃って何ですか?
「銅像から顔を出さないでくださいね。頭を撃ち抜かれますから」
ちょっとさっきから話についていけないのですが?
「なかなか腕の良いスナイパーを雇ったようだ」
言うと、教頭は『考える人』の銅像に付いた赤いボタンを押した。するとそこがパカッと開き、中からサブマシンガンが出てきた。
「え? え? え?」
何が何やら解らないボクを尻目に、教頭はガシャガシャ鳴らして、サブマシンガンに銃弾を装填する。
その途中、タタタタタタ! と銃声? が鳴って、『考える人』の銅像がどんどん削られていった。
「え? え? え? これ、え?」
もしかして、本物の銃で撃たれてます?
「メガネくん、もうすぐこの銅像は終わりです。ワタシが『良い』と言ったら向こうの銅像に走って下さい!」
教頭が視線で差した方向には、二ノ宮金次郎の銅像が。
「あの、えっと」
「簡潔に言います! 今ワタシたちはスナイパーに狙われています! もちろん、本物の銃で!」
ここで銃声は鳴りやんだ。その機を見計らってか、教頭がしゃがんだ状態で銅像の陰から出た。そして屋上に向かってタタタタ! とサブマシンガンで撃つ。
(え、えええええええええ? てか、ええええええええ?)
なんかもう……情報量が多すぎてついていけないのですが。
「くっ、なかなかやりますな!」
教頭はゴロンと転がって銅像の後ろに戻って、サブマシンガンに銃弾を装填する。
その隙に、再び屋上からタタタタタ! と銃が撃たれて『考える人』が削られていく。
(ヤバいヤバいヤバい!)
もう考える人が考えられないほど削られてるって!
『皆さん。
いやそんな場合じゃないよね?
銃弾に気を付ける時だよね?
何でみんな気づいてないっぽいの?
え、もしかしてボクたちだけ別次元に居ます?
「他の皆のことならご心配なく!」教頭は素早く言った。「ワタシが編み出した『サイレントマインド』の効果によって気づきませんし、相手にもワタシたちだけしか見えません!」
なにそのゲームのスキルみたいなやつ。
これってそういう作品でしたっけ?
「今ですメガネくん!」
銃声が止んだのを見計らって、ボクと教頭は走って二宮金次郎の後ろに隠れに行った。向こう側の『考える人』の銅像は、撃たれすぎてもう足の断片しか残っていない。
「許せません! よくもお気に入りの『考える人』の頭を撃ち抜いて考えさせないようにしましたね!」
うまくねーし、怒るとこ違くね?
「どうやら今年も『
なにそのピンポイントな組織?
「確かに、ワタシを倒せば課外授業を壊滅に向かわせることは容易い!」
しかし! と教頭は続ける。
「生徒たちのために、ワタシは戦いますよ! 何せ課外授業は、学校で友達が居ない生徒のために作られた大切な行事! そう! 孤立する生徒を作らないための、大切なものなのです!」
タタタタ! と屋上から銃撃が。今度は二宮金次郎が削られていく。
「くそう! 例えこの命が無くなっても、二宮金次郎だけはやらせはせん! やらせはせんぞ!」
いや向こうの狙いはアナタですよね? 良いんですかそれで?
「今だあああああああああああ!」
教頭は叫ぶと、ゴロッと転がって銅像の陰から出た。すぐさま屋上に向かってタタタタタタタタ! とサブマシンガンを撃つ。
「ぐっ……!」
と、屋上から短い男の悲鳴が聞こえてきた。どうやら教頭の弾が当たったらしい。
ここで、バララララ! とヘリコプターのプロペラ音が。
「ふふっ、敵わないと思って退却ですか」
教頭は不敵に言った。ヘリコプターからは梯子が伸び出て、そこに迷彩柄の服を着た男が掴まってヘリの中に入っていった。
ヘリコプターは旋回し、学校から離れようとする。
「考える人の恨み、晴らさずして逃がすものかああああ!」
教頭は、今度は二ノ宮金次郎の銅像に付いた赤いボタンを押した。パカッと開いた先から出てきたのは、ロケットランチャーだった。
「え? え? え?」
色んな感情に縛られて動けないボクをよそに、教頭はロケランを肩に担いで照準を定める。
「行っけええええええええええええええええええええええ!」
叫びつつ、教頭はロケランの引き金をカチッと引いた。
ドオン! とロケランが発射された。弾は綺麗な直線を描きながら、ヘリコプターに直撃。
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
ヘリコプターは、空中で木っ端みじんになり、小さな破片がバラバラと落ちた。校舎や地面が揺れるほどの衝撃が走る。
(え、えええええええええええええええ? てか、ええええええええええええ?)
ちょ、いや、えっと、え、ええええ?
もう何が起こってんの?
『皆さん、極悪非道六神獣の城ヶ崎くんには気をつけましょう』
何で何事も無かったかのように校内放送?
みんな普通にそのへん歩いたり談笑したりしてるんですけど。
え、これが教頭のサイレント何チャラの効果?
「ふふふ。まあ、今ので倒せたとは思いませんよ」
いや木っ端みじんになってませんでした?
「彼らを甘く見てはいけません。あれはデコイ。ヘリコプターには誰も乗っていなかったのでしょう。ヘリをオトリにして逃げるとは、なかなかやりおる」
教頭はロケランを銅像の中に戻した。
「え、あの、その……」
「心配無用ですメガネくん。もう今年の課外授業は破滅に向かいません」
いや他に聞きたいこと山ほどあるんですが?
「悲しい者たちよ。彼らは昔、課外授業にトラウマがあって、こういうことをするのです。もし、彼らがワタシたちの学校で課外授業を受けることが出来ていたら……」
教頭は首を横に振ることで、先の言葉を飲んだ。
「こんなことを言っても仕方ありませんね……。ではワタシはこれにて失礼」
悲しげに言うと、教頭は静かに去っていった。
なんだか良く分からないけど……、
(良く分からないけど……)
この学校は、教頭先生が居れば大丈夫。
そう感じた日でした。
あ、因みにボクのお昼ご飯は教頭のふところに封印されたままです。