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第25話 状況終了!(sideM)


「え、あの、何が起こって?」


「なーに、ただの襲撃ですよ」


 ただの襲撃って何ですか?


「銅像から顔を出さないでくださいね。頭を撃ち抜かれますから」


 ちょっとさっきから話についていけないのですが?


「なかなか腕の良いスナイパーを雇ったようだ」


 言うと、教頭は『考える人』の銅像に付いた赤いボタンを押した。するとそこがパカッと開き、中からサブマシンガンが出てきた。


「え? え? え?」


 何が何やら解らないボクを尻目に、教頭はガシャガシャ鳴らして、サブマシンガンに銃弾を装填する。


 その途中、タタタタタタ! と銃声? が鳴って、『考える人』の銅像がどんどん削られていった。


「え? え? え? これ、え?」


 もしかして、本物の銃で撃たれてます?


「メガネくん、もうすぐこの銅像は終わりです。ワタシが『良い』と言ったら向こうの銅像に走って下さい!」


 教頭が視線で差した方向には、二ノ宮金次郎の銅像が。


「あの、えっと」


「簡潔に言います! 今ワタシたちはスナイパーに狙われています! もちろん、本物の銃で!」


 ここで銃声は鳴りやんだ。その機を見計らってか、教頭がしゃがんだ状態で銅像の陰から出た。そして屋上に向かってタタタタ! とサブマシンガンで撃つ。


(え、えええええええええ? てか、ええええええええ?)


 なんかもう……情報量が多すぎてついていけないのですが。


「くっ、なかなかやりますな!」


 教頭はゴロンと転がって銅像の後ろに戻って、サブマシンガンに銃弾を装填する。

 その隙に、再び屋上からタタタタタ! と銃が撃たれて『考える人』が削られていく。


(ヤバいヤバいヤバい!)


 もう考える人が考えられないほど削られてるって!


『皆さん。極悪ごくあく非道ひどう六神ろくしんじゅう城ヶ崎じょうがさきにはご注意を!』


 いやそんな場合じゃないよね?

 銃弾に気を付ける時だよね?


 何でみんな気づいてないっぽいの?

 え、もしかしてボクたちだけ別次元に居ます?


「他の皆のことならご心配なく!」教頭は素早く言った。「ワタシが編み出した『サイレントマインド』の効果によって気づきませんし、相手にもワタシたちだけしか見えません!」


 なにそのゲームのスキルみたいなやつ。

 これってそういう作品でしたっけ?


「今ですメガネくん!」


 銃声が止んだのを見計らって、ボクと教頭は走って二宮金次郎の後ろに隠れに行った。向こう側の『考える人』の銅像は、撃たれすぎてもう足の断片しか残っていない。


「許せません! よくもお気に入りの『考える人』の頭を撃ち抜いて考えさせないようにしましたね!」


うまくねーし、怒るとこ違くね?


「どうやら今年も『きよキラの課外授業撲滅委員会』が動き出しているようですね!」


 なにそのピンポイントな組織?


「確かに、ワタシを倒せば課外授業を壊滅に向かわせることは容易い!」


 しかし! と教頭は続ける。


「生徒たちのために、ワタシは戦いますよ! 何せ課外授業は、学校で友達が居ない生徒のために作られた大切な行事! そう! 孤立する生徒を作らないための、大切なものなのです!」


 タタタタ! と屋上から銃撃が。今度は二宮金次郎が削られていく。


「くそう! 例えこの命が無くなっても、二宮金次郎だけはやらせはせん! やらせはせんぞ!」


 いや向こうの狙いはアナタですよね? 良いんですかそれで?


「今だあああああああああああ!」


 教頭は叫ぶと、ゴロッと転がって銅像の陰から出た。すぐさま屋上に向かってタタタタタタタタ! とサブマシンガンを撃つ。


「ぐっ……!」


 と、屋上から短い男の悲鳴が聞こえてきた。どうやら教頭の弾が当たったらしい。

 ここで、バララララ! とヘリコプターのプロペラ音が。


「ふふっ、敵わないと思って退却ですか」


 教頭は不敵に言った。ヘリコプターからは梯子が伸び出て、そこに迷彩柄の服を着た男が掴まってヘリの中に入っていった。


 ヘリコプターは旋回し、学校から離れようとする。


「考える人の恨み、晴らさずして逃がすものかああああ!」


 教頭は、今度は二ノ宮金次郎の銅像に付いた赤いボタンを押した。パカッと開いた先から出てきたのは、ロケットランチャーだった。


「え? え? え?」


 色んな感情に縛られて動けないボクをよそに、教頭はロケランを肩に担いで照準を定める。


「行っけええええええええええええええええええええええ!」


 叫びつつ、教頭はロケランの引き金をカチッと引いた。

 ドオン! とロケランが発射された。弾は綺麗な直線を描きながら、ヘリコプターに直撃。


 ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 ヘリコプターは、空中で木っ端みじんになり、小さな破片がバラバラと落ちた。校舎や地面が揺れるほどの衝撃が走る。


(え、えええええええええええええええ? てか、ええええええええええええ?)


 ちょ、いや、えっと、え、ええええ?

 もう何が起こってんの?


『皆さん、極悪非道六神獣の城ヶ崎くんには気をつけましょう』


 何で何事も無かったかのように校内放送?

 みんな普通にそのへん歩いたり談笑したりしてるんですけど。

 え、これが教頭のサイレント何チャラの効果?


「ふふふ。まあ、今ので倒せたとは思いませんよ」


 いや木っ端みじんになってませんでした?


「彼らを甘く見てはいけません。あれはデコイ。ヘリコプターには誰も乗っていなかったのでしょう。ヘリをオトリにして逃げるとは、なかなかやりおる」


 教頭はロケランを銅像の中に戻した。


「え、あの、その……」


「心配無用ですメガネくん。もう今年の課外授業は破滅に向かいません」


 いや他に聞きたいこと山ほどあるんですが?


「悲しい者たちよ。彼らは昔、課外授業にトラウマがあって、こういうことをするのです。もし、彼らがワタシたちの学校で課外授業を受けることが出来ていたら……」


 教頭は首を横に振ることで、先の言葉を飲んだ。


「こんなことを言っても仕方ありませんね……。ではワタシはこれにて失礼」


 悲しげに言うと、教頭は静かに去っていった。

 なんだか良く分からないけど……、


(良く分からないけど……)


 この学校は、教頭先生が居れば大丈夫。

 そう感じた日でした。


 あ、因みにボクのお昼ご飯は教頭のふところに封印されたままです。



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