流石は全国トップクラスの進学校といったところだろうか。
教師の教え方が一流で無駄がなく、高校レベルの知識がすんなりと頭に入ってくる。
(凄いな、やっぱ……)
授業のレベルについていけていないクラスメートの姿が見られない。皆、心地よく授業を受けていることが手に取るように分かる。それほど完成度の高い授業内容だった。
「ふむ。今日はここまでにしておきましょう。残りの十五分を自習にしようと思いますが、それも芸が無いと思うので、大学レベルの問題を出してみます。勿論、今回の授業で習った公式を使えば解けなくもありませんが、それはかなり難しいですよ? まあ一種のオリエンテーションとして挑んでみて下さい」
数学教師は問題を板書した。それはとても長く、俺には到底解けそうにないものだった。
「誰か解る人、居ますか?」
挙手する者は居ない。数学教師は「ふむ」と声を出した。
「恥じることはありませんよ。それが普通です。でも挑戦してみることは大事ですから、ランダムに当ててみます。では……加藤
「はい!」
加藤は元気良く立ち上がった。
「何事にも挑戦です。加藤さん。解いてみてはどうでしょう?」
加藤は腕を組み、問題と睨み合った。
しばらくすると、大きく息を吸ってから、
「解りません!」
力強いな。
「というわけで先生、
どういうわけだよ。
「ぷぷっ」
隣で密かに笑ってんじゃねーよクソバカフルアーマー系女子。
数学教師は言う。「じゃあ城ヶ崎くん、解きたまえ」
じゃあって何だ。
「いいから解きなさい城ヶ崎くん! 私は解けないの!」
だからって何で俺に解かせるんだよ。
ていうかさっきから出てくるおまえのその力強さは何なの? 解けて力強くなるんならまだしも。
「あっ、先生! 私、お手洗い行ってきます!」
もう何処にでも行け。
「分かりました。では加藤さん、行ってもいいですよ」
「ありがとうございます!」
一礼し、加藤は教室から出ていった。
「では城ヶ崎くん、解きたまえ」
結局かよ。
「はぁ……」俺は気怠く立ち上がった。「解りません……」
「あぁ城ヶ崎くん、そういうのいいから」
は?
「いいから解きなさい」
いや解りませんっつったよね?
「今ならテレフォンが許されていますよ?」
テレフォンってなに?
「テレフォンとは、答えを知っていそうな相手に電話をかけられるチャンスのこと。一般常識ですよ?」
初耳なんですが。
「さあ城ヶ崎くん、どうします? テレフォン使いますか?」
「……じゃあテレフォン使います……」
俺は渋々言った。すると数学教師はえらく真面目な顔をして、
「授業中に何を言っとるんだキミは? テレフォンなんて認められるわけがなかろう」
数秒前貴様に指示されたことを渋々実行してやったまでだバカ野郎。
「なーんて、ジョークだよ城ヶ崎くん。キミの緊張を解すための、ね」
こちとら貴様の体を物理的に
「まあ城ヶ崎くんは良からぬ噂が流れていて、まだお友達も居ないと聞きますから、テレフォンは無理ですかね」
るせえわ。
「私が、ある生徒の電話番号を教えてあげます」
教師はスマホを取り出し、ポチポチ操作した。
「はーい、今、城ヶ崎くんのスマホに電話番号を書いたメール送信しましたから」
何で俺のメルアド知ってんだキモいな。
「さあ、そこに記された番号に電話するのです」
「……はいはい……」
仕方なく、俺は電話をかけた。一体、誰の電話番号なのだろうか。
「あの、もしもし? 城ヶ崎俊介だけど、さっきの問題でテレフォン使って……」
『ちょっと! 私がトイレ行ってること知って電話かけてくるなんてセクハラよ!』
おまえかいいいいいいいいいいい。
『生徒会副会長として、あなたを処罰します!』
ブチッと通話は切れた。そして間もなく、
『生徒会副会長の加藤律子です!』
校内放送が入った。まさかと、俺に嫌な予感が走る。
『このたびは城ヶ崎
やっぱな! やっぱな!
「あんのクソバカ副会長があああああ!」
俺は教室から出て、放送室に走った。が、もう遅かった。
『城ヶ崎俊介という男は、詳しい内容は伏せますが酷い行いをしました! 極悪非道な行為でした! そんな城ヶ崎俊介に皆さん注意して下さい!』
俺は、
「いとをかし」
極悪非道城ヶ崎が爆誕した瞬間、鞘師はえらく上機嫌でそう言ったという。