教室に入ると、俺はまず朝のHRで配るプリントを自席に置いて、本日授業がある教科の教師に連絡事項を聞きに回った。
全てを聞き終えた時には、もうほとんどの生徒たちが学校に来ている時間帯だった。
「えーっと、HRでプリント配って、数学の連絡事項と――」
ぶつくさ言いながら廊下を歩いていると、俺に沢山の視線が……。
立ち止まり、周りを見渡すと、すれ違っていく人や廊下に居る人の全てが俺に視線を当ててヒソヒソしている。
(……げ……)
まさか……俺の良くない噂が広まっているとかじゃ――、
「キミが
背後から女子に強い口調で言われた。振り向いてみると、そこには全く面識の無い女子が腕を組んで立っていた。
気の強そうな女子だった。俺を真っ直ぐに睨む彼女は『生徒会』と黒字で書かれた緑色の腕章を左腕に付けている。
「ええと、何か?」
女子は何も答えず、ずかずかと詰め寄ってきた。
「な、何だよ?」
吐息がかかるほど顔を近づけてくる女子に、俺は後退りする。女子は至近距離でキッと睨み付けてから、身を退いた。
「なるほどね」
言うと女子は、こちらに注目を集める生徒たちを強い眼差しで見渡した。
「ちょっと! 見世物じゃないわよ! 皆さん、それぞれの教室に戻りなさい!」
女子は廊下でざわめく生徒たちに向かって叫んだ。すると生徒たちは池に石を放り投げられた魚のように散らばり去っていった。廊下は一瞬で、静かになった。
「で? キミが城ヶ崎俊介で合ってるわよね?」
「ああ……そうだけど……」
「私は生徒会副会長の
……なんかまためんどくせーの来たな。
「ええと、よく分かんないけど、頑張れ。じゃあな」
「待ちなさい!」
反転して教室に向かおうとした俺の首根っこを、加藤律子は引っ張った。
首が締まり「ぐえ」と声を出す俺。
「なっ!」ゴホッゴホッと俺は咳き込む。「なにすんだよいきなり!」
「いいから私が『良い』と言うまで大人しくしていなさい!」
ちょっと何なのコイツ。
いきなり現れて人の息の根止めようとしたり。
誰かに通じるもんがあるんだけど気のせい?