「はあ……」
午前授業だったのに、その密度に俺は疲れ果てていた。
あの後も大変だった。
くしゃみなんてしようものならもう大変、除菌スプレーを振りまきながら教室からマッハで逃げ出す始末。
クラス委員長として、俺は事あるごとにフォロー(というかツッコミ)を入れたり鞘師を教室に連れ戻したりで、精根尽き果てていた。その度にクラスメートからの俺の評価はダダ下がりになっていった。
「はあ……」
席を替わってくれたら友達作りに協力してくれる、と鞘師は約束してくれたけど、あの調子じゃ無理だ。高校デビューどころか友達を作ることもままならない。
『ギシュ、ギシュ、ギシュ』
帰り道を進む度に、後ろから例の音が聞こえてくる。
『ギシュ、ギシュ、ギシュ』
奴だ。奴が背後に居る。
不意をつくため、俺は勢いよく後ろに振り向いた。すると背後に居たフルアーマー系女子、鞘師がビクッと後退りした。
「……なにしてんだ?」
鞘師は「ふっふっふっ」と笑って、
「やりますね。私の気配に気付くとは」
「気配ってか防護服の煩わしい音が鳴ってんだよ」
「まさか
人の話を聞け。
「ふふふ。ともあれ、今日はここまでにしておきましょう」
「何がだよ? てか何で学校からここまで付けて来たんだ?」
「そうですね……。その答えはあなた自身の中にあるのかもしれません」
いや防護服の中に居るおまえの中にあるからさっさと教えろ。
「では失礼」
鞘師はギシュリと疾走した。すれ違い様、鞘師は俺の背中を軽く叩いて消えていった。
「……何がやりたかったんだ、アイツ……」
俺は鞘師が背中を叩いた意味を、後に知ることになるのだが……。
それはちょっと先の話のことだった。