「何度も言うようだけど、おまえみたいに失礼な奴と替わるつもりはないからな」
はぁ……と
「……分かりました。じゃあこうしましょう。一つだけあなたのためになることをしますから、席替わって下さい。これで手を打ちませんか?」
「はあ? 俺のためになることって……」
一度、冷静になって考えてみた。
超潔癖症で超失礼なフルアーマー系女子、鞘師トアリにできること。
(……)
なにも無くね?
「……あれ? おっかしいなー。俺の脳内をいくら検索しても何も引っかからないんだけど。おまえが俺のためにできそうなこと」
「ちょっと! 失礼じゃないですか!」
それをおまえが言うか。
「私にだってやれることありますよ! 例えば課外授業を破滅に向かわせることとかね!」
いや俺にとってはマイナスでしかないんだけど。その課外授業で友達作らなきゃ高校生活が友達皆無のつまらない方向に向かう。
高校デビューリア充生活の可能性が消える。
「私が色々全力で工作すれば課外授業は無くなります! 校長先生の血を見ることになりますが!」
おい止めて差し上げろ。
「課外授業破滅のために、あとはあの教頭さえ! あの教頭さえ手中に収めれば!」
教頭まさかのキーパーソン?
「あなたが協力してくれれば円滑に課外授業崩壊プラン『教頭制圧』が成ります。さっ、これで手を打ちましょう」
「そんな恐ろしげな計画に手を貸すわけねーだろ!」
俺は激しくツッコンだ。
「俺は課外授業に行かなきゃダメなの! そこで友達作らなきゃ勉強以外にやることを見出せなくなるの! 高校デビューできなくなるの!」
あー、と鞘師は憐れむような声を出した。
「確かに友達居なそうですよね、君」
あなたに言われたくないんだけど。
「いかにも高校デビューしたいって感じの、その素朴さ。いとをかし」
るせえ。
「んー、なるほど。どうやらまずは、友達を献上すれば協力してくれそうですね」
献上って。
「でもなあ。私が紹介できそうなのって、妹ぐらいしか居ないし……」
「……妹ねえ……。鞘師の妹って……」
何だか漆黒のフルアーマーが目に浮かんだ。
「あー、いいよいいよ別に。余計ややこしくなりそうだし」
「じゃあ何でも言うことを聞くので席替わって下さい」
それを受けて、俺は長考した末、
「分かった。まず課外授業破滅は置いといて、席替えの話は呑んでやる」
「え? ホントに?」
鞘師は露骨に嬉しそうな声を出した。
「ただし約束は守ってもらう。席替わったら一つだけ俺のために何でもしてくれるんだろ?」
「卑猥なことでなければ」
俺は思いっきり鼻で笑ってやった。
「ああ大丈夫。鞘師にはまったく興味無いから」
鞘師も防護服の中で鼻で笑う。
「ですよねー。私も汚物には興味ありません(汚物=あなた)」
こういう時だけ言葉のフィルター訳すんかいぃぃ。
「……ま、まあいい……。とりあえず、まずは俺に友達ができるようなアシスタントみたいなのをしてくれ。自然に頼むぞ? あくまで自然に、な」
「おやすいご用です」
鞘師は防護服をギシュギシュ鳴らしながら、親指を立てた。
「では早速、校内放送を使って『誰か
「ちょっと待ったちょっと待った!」
ギシュリと走りだした鞘師を、俺は引き止めた。
「自然にっつっただろ! どんだけ化学物質で汚染されたエリアに羽ばたこうとしてんだ!」
「大丈夫ですよー。防護服着てますし」
「それ大丈夫なのは鞘師だけだよね! 俺にとって自然で無害な感じてやってほしいの! 汚れ無き大草原の海原に進んでほしいの! もー! 頼むよマジで!」
鞘師は防護服を鳴らしながら、やれやれといったポーズをとった。
「しょうがないですね。分かりました。まっ、どうせ無駄でしょうが」
ちょっとそれどういう意味?
「にしても、あなた如きが友達作り&高校デビューを目論むとは……」
言うと、鞘師は俺の全身を下から上へ順に見てから、
「いとをかし」
やかましいわ。