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第六十七話 聖剣の気配

 お父さまとの楽しい朝の散歩の後は、少しお昼寝をして昼食です。

 子どもっぽいですが、競争して食べる食事は楽しいので食が進みます。

 夕食後、お父さまはお母さまの卵を探しに屋敷を後にしました。

 正確な場所が分かるまでは、私の屋敷に滞在するそうです。

 予想通りの場所に卵があった場合にも、私の屋敷に滞在するらしいです。

 しばらくの間は、お父さまと過ごすことになります。

 私としては、一緒に暮らすならアーロさまのほうがよいですが。

 それを言ってしまうとお父さまの機嫌が悪くなりそうなので黙っています。

 でも今の私には、それよりも気になることがあるのです。

「ねぇ、モゼル。アーロさまからの手紙は来ていないわよね?」

「はい、お嬢さま」

 就寝前の支度を手伝ってもらいながらモゼルに聞くと、メイドは笑いながら答えました。

「お嬢さま。手紙のお返事は、そんなに早くは参りませんよ」

「んん~ん。でもぉ~……」

「ふふふ。お嬢さまだって、手紙の文面でお悩みになったでしょう? アーロさまだって同じですよ」

 モゼルはクスクス笑っています。

 言われてみればその通り、なのですが。

「そうかしら? そうかもね……でも、お返事が待ち遠しいの」

「気持ちは分かりますわ、お嬢さま」

 モゼルはコクコク頷きながら、私をベッドへと誘導します。

「心配は無用です。今日のところはゆっくりとお休みください」

「ん……そうするわ」

 モゼルは微笑みながら念入りに上掛けを私へとかけると、部屋の灯りを絞って出ていきました。

 窓の外には満天の星。

 心には不安や期待が騒めいていますが、空を眺めていると不思議と落ち着いてきます。

 夜空に見守られながら、私は静かな眠りに落ちていきました。

 翌朝も、その翌朝も、お父さまと競うように朝食を摂り、散歩にいくことで時間は過ぎていきました。

 手紙って、要らないと思ているものほど早く届いて、待っているとなかなか届かないものですよね。

 それは分かっていますが、それにしても返事が遅いと思うのです。

「ねぇ、モゼル。今日もアーロさまから返事はなかったわね。アーロさまへ送ったお手紙が、届いていなかったのではないかしら?」

「大丈夫ですよ、お嬢さま。お手紙はキチンと届いていますから」

「それともここへ来る途中に、青い小鳥が食べられてしまったとか」

「それもありません。大丈夫ですよ」

 モゼルはクスクス笑っていますが、私としては気持ちが落ち着きません。

 お父さまは昨夜もお母さまの卵を探しに出掛けました。

 今夜もきっとそうすることでしょう。

 愛する人の為に何かすることがあるというのはいいですね。

 待っているだけだと……不安になります。

 お昼寝から起きた私は、ボーッと室内を見回しました。

 この部屋、こんなに広かったかしら?

 見慣れているはずのものに違和感を感じたり。

 お父さまがお母さまについて話すのを、少し寂しい気持ちで見つめていたり。

 心と現状がチグハグです。

 お父さまがお母さまのことを愛されていると分かるのは、子どもとして嬉しいことです。

 それがただ『楽しい、嬉しい』と感じられないのは何故でしょうか。

 私は何を寂しがっているのでしょうか。

 ちょっと意味が分かりませんね。

 私は寝ぼけているのかもしれません。

 しっかり目覚めようとベッドから下りようとした瞬間。

「……えっ⁉」

 私は不意にドーンとお腹に響くような強い衝撃を感じて、窓の側へと駆け寄りました。

 この気配は――――

「聖剣?」

 遠くに見える険しい山の頂付近から、青い光が真っすぐに天へ向かって伸びています。

「え? なぜ?」

 意味が分かりません。

 あれは聖剣の放つ光です。

 なぜ聖剣が、あんなところで光っているのでしょうか。

「え? もしかして……アーロさま?」

 私は1つの可能性を感じて、身支度を軽く整えると部屋の扉へと向かいます。

 開けようとした瞬間、外から開けられた扉の向こうにモゼルの姿がありました。

 私とモゼルは視線を合わせて無言のまま頷き合うと、そのまま屋上を目指して駆けだしたのでした。


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