翌朝。
今日も良い天気です。
手紙を鳥に託すには、良い日です。
私は朝食前に、アーロさまへ手紙を書きました。
白い便せんに青いインクで書いた手紙に何度も、何度も目を通します。
文字はアーロさまの住む王国の字と同じものを使用しました。
人間の使う文字は、聖獣の使う文字よりは簡易なものですから、習得するのは難しくありません。
何度も見直している間にインクは乾きました。
それを薔薇柄のエンボスが効いた白い封筒の中に入れた私は、封印のための柄で少し迷いました。
いつも使っているのは我が家の家紋なので少々堅苦しい。
だからといって、他の柄があるわけでもありません。
まぁるく赤蝋で封をするのも可愛いし、蝋を使わずハートマークでも書くのも可愛いですね。
私は散々迷った挙句、いつも通り家紋を使って赤蝋の封印をしました。
堅苦しいですが、美しさとは少々の堅苦しさを伴うものです。
私は手紙を持ってベランダへと出ました。
ビューイと口笛を吹けば、手紙を運ぶ代わりに守護を約束している鳥がやってきます。
頭が2つある鷲は、今日も元気なようです。
「この手紙を、アーロさまのところへ運んでね。あ、直接でなくていいの。王国の手前で青い鳥に渡してちょうだい。そのほうが目立たずに届けられるから。くれぐれも青い鳥は食べないようにね」
私が2つある口元へと手紙を差し出せば、鷲は器用に咥えました。
ロック鳥ほどは目立ちませんが、頭が2つある鷲も珍しいですからね。
王国の人々を驚させるのもよくありませんし、第一、手紙を運ぶ鷲は可愛くないです。
青い小鳥が赤い蝋で封印された薔薇柄のエンボスが効いた白い封筒を咥えて飛ぶさまは、想像するだけでも可愛くて美しいですからね。
乙女が恋する殿方へ出す手紙は、見た目の印象も大切です。
私は双頭の鷲が飛んでいくのを見送りながら、アーロさまからはどう見えるのか想像してみます。
喜んでくれるでしょうか?
内容は、お父さまの訪問と封印を見てくれると言っていること、解除すればアーロさまの寿命が延びるであろうこと、などを書きました。
細かいことは実際に会ってみないことには分からないので、お迎えに上がることも書きました。
私が飛べば一瞬で屋敷に来られますからね。
アーロさまも暇ではないと思うので、日時は予定を伺ってから決めることにしました。
青い空の向こうへと消えていく鷲の姿を目で追っていると、後ろからお父さまの声が響きました。
「おはよう、セラフィーナ。早起きだね」
「おはようございます、お父さま」
振り返って軽く礼をとる私に、お父さまは笑顔を向けました。
「朝食を一緒にと思ってね」
「いいですね」
了解する前から決まっていたように、私の返事と共にメイドたちが部屋へと朝食を運び込み始めました。
アガマも入ってきて、忙しく支度が整っていきます。
椅子やテーブルが並べられ、その上に料理も次から次へと運ばれて並んでいきます。
「朝食は大事だからね」
お父さまはそう言って笑っていますが、昨日の夕食よりも多く見えます。
夕食の時には次から次へと作りたての料理が出てきましたが、朝食は1回ならべば大体終わりだからでしょうか。
料理長お得意の卵を1ダース使ったオムレツに、カゴに盛られた焼き立てのパン。
今朝のスープはコーンスープのようにドロッとしていますが、色合いが違っていて深い緑色です。
お父さまも野菜は苦手なのかもしれません。
サラダの代わりにたっぷりのフルーツが並んでいます。
「お父さまも、朝は紅茶でよいのですか?」
私は椅子に腰を下ろすと、屋敷の主としてお父さまの好みを聞いてみました。
「わたしはコーヒーをミルクたっぷりで」
お父さまも向かいの椅子に座り、笑顔で答えます。
「承知いたしました」
アガマが扉の向こうに控えているメイドに目配せすると、すぐに熱々のコーヒーが運ばれてきました。
いつもながらに隙の無いオペレーションです。
キュオスティが魔族軍を率いて襲撃したときも見事に対応していましたから、日頃の業務が訓練みたいなものかもしれません。
「昨夜はよくお休みになれましたか?」
私は屋敷の主として、お客さまであるお父さまに聞きました。
いつまでも子ども扱いされるのは御免です。
いいとこを見せておかないと、アーロさまへの対応に響きますから頑張ります。
「ん。まぁまぁ……というところかな」
そう言いながらも、お父さまの顔色は優れません。
「何かございました?」
私は心配になって聞きました。
「いや。あの客室を、わたしの前に使っていた者の臭いが気になってな……」
お父さま。それはアーロさまに対する嫌味ですか?
心配して損しました。
ですが、嫌味をまともに受け止める者もいます。
「清掃に何か問題が⁉」
アガマが青くなっています。
ドラゴンの嗅覚は敏感ですから、本当に臭かったのかもしれませんね。
「いやいや、そういうわけでは……」
今度はお父さまが、慌ててフォローに入りました。
ふん。アーロさまを悪く言おうとするから罰が下ったのよ。
私はお父さまとアガマがアタフタしているのを眺めながら、オムレツの最後の一切れを口の中に放り込みました。