お父さまは、私の中に懐かしいものを見るような視線を向けて口を開きました。
「本当にお前は、お前の母に似ている」
「それは知っています」
何度もお父さまやお兄さま方から聞かされましたし、姿絵も見ました。
私にそっくりなお母さま。
既に亡くなったと聞いても寂しくなかったのは、お父さまとお兄さま方がいたからというだけではなく、自分の中にお母さまの姿を見ていたからかもしれません。
「お母さまが蘇るのならば、私もお母さまに会えるというわけですか?」
「もちろん!」
力強く答えたお父さまですが、次の瞬間には眉毛がフニョンと下がって、情けない表情になってしまいました。
「ただな。魔力量が多くて前世の記憶を持っていても、機嫌よく産まれるとは限らなくてな……」
「何か、あるのですか?」
恐る恐る聞いた私の質問に、お父さまは真顔で答えます。
「彼女は1人で産まれたと知ったら、拗ねてブチ切れる」
「は?」
ブチ切れる?
え?
お母さまは
「セラフィーナ、お前の母は苛烈だからな? きちんとお迎えにいかないとキレまくる。山の1つや2つは吹き飛ばすし、地形なんて簡単に変わってしまう。それにアレは命の扱いが雑だ。放っておけば、動物はもちろん、人間たちも巻き添えになる」
「それは聞き捨てなりませんわ」
お母さまとは会ったことがありませんから、性格など分かりません。
ですがお父さまの話から察するに、なかなか大胆なタイプのような気がします。
「寝起きの悪いタイプだから、なおさら迎えに行かないと何をするか分からない」
お父さまは溜息を吐いています。
「大地から生まれるとおっしゃいましたが、場所は分かっているのですか?」
「いや、分からない。だから気配を追って探さなきゃならんのだ」
「まぁ!」
びっくりです。
この広い世界で、どこに生まれるか分からないお母さまを、お父さまは探しているのですか。
「お父さま、凄いですね」
「まぁな。愛だよ、愛」
ちょっと得意げなお父さまは、意外とロマンチストだったようです。
でもムカつくから蹴っていいですか?
怒られるから蹴りませんけど。
そんなことよりも私には気になることがあります。
「お父さま。私も死んだら卵になって大地から産まれるのですか?」
「ああ。そうなるはずだ」
ドラゴンの寿命が長いとは聞いていましたが、どことも分からない場所で卵から蘇るのなら厄介ですね。
「記憶もキチンと持って、ですか?」
「ああ。お前は魔力量が多いから、当然そうなるだろう。ん? どうした? 暗い顔をして」
「だってアーロさまは人間です。人間では、お父さまがお母さまを探すようには、私を探せないではありませんか」
自分でも分かるほど拗ねた声が出てしまって、情けなくて笑ってしまいます。
私は死んだら大地と一体化して、場所を選ぶことができずに卵として産まれるのなら。
卵から孵った私は1人で大地に立たなければならないかもしれません。
それはちょっと寂しいことかもしれないと思ったのです。
「だが、そのアーロとやらは、ただの人間ではないのだろう?」
私は頷きました。
「おそらく。私にはよくわかりませんが、体内に封印があるのは分かっています」
「なら封印を解けば、ただの人間にはない能力が開花することもあるだろう。寿命が延びたり、魔法が使えたり、他の特殊な能力があるかもしれない。だからあまり心配するな」
「それはそうですけど……」
お父さまがフッと優しく笑いました。
「お前が死んだら、わたし達の誰かが迎えに行くさ。1人寂しく産まれるとか、考えなくていい。必ずしもパートナーが迎えに行くというわけでもないし。わたしの場合は、お前の母さまが暴れないように監視しないといけないから行くだけだよ」
お父さまがおどけて肩をすくめて見せました。
「私は寝起きの良い方ですから、暴れたりはしないとは思いますが……」
でも目覚めたときにアーロさまがいなかったら寂しいと思ってしまったのです。
アーロさまが先に亡くなっているかも、などということも考えたくありません。
ああ、いけません。
ただでさえ聖獣と人間で悩みが多いのに。
不安が増えてしまいました。
「そんな心配そうな顔をしないでおくれ、わたしが、その人間を見てやるから。必要なら封印も解いてあげるよ。お前が、もし生まれ変わる時が来たら、そのアーロとやらを一緒に連れて行ってもいいし」
「はい、ありがとうございます。お父さま」
頼もしいです。
お父さまが来てくれてよかったです。
「まずはアーロとやらに会って……お前も一緒に、母さまを迎えに行くか?」
「いいのですか⁉」
私は嬉々として言いました。
「ああ、いいとも」
お父さまはニコニコしています。
「ありがとうございます、ご一緒したいです」
初めて会うお母さまは、どのような方なのでしょうか。
楽しみです。
「そうか。それは良かった」
お父さまがほっとしたように溜息を吐きました。
「お父さま。お母さまの卵がある場所は、全く分かっていないのですか?」
「ん~。実は、あたりをつけている場所があってな」
お父さまは、ちょっと言い出しにくそうにモゾモゾしています。
「まぁ、そうですの? それはどこですか?」
「ん、あのあたり……」
お父さまは北を指さしました。
「……え?」
その方向は、帝国側ですね。
悪い予感がします。
「どうも帝国の領地内のどこからしくて……だから、しばらくの間、泊めてもらっていいか?」
「……いいですけど」
お父さまが宿泊されるのはよいですが、帝国の領土内となると厄介です。
アーロさまの住む王国も面倒な所ですが、帝国はもっと面倒な上に残酷な国なのです。
揉め事にならなければいいのですが。
「夜闇に紛れて探せば目立たないと思うが。よろしく頼むよ」
「承知いたしました」
私とお父さまの間での話し合いが終わったのを見計らったようにモゼルが声をかけてきました。
「旦那さま。客室の準備は整っておりますが、いかがいたしましょうか?」
食事はとっくに終わっていて、わたしたちは食後のハーブティーを飲んでいます。
話に夢中で、気付けば随分と遅い時間になっていたようです。
「そうだな。そろそろ明日に備えて寝るか」
「はい、承知しました。一階下のお部屋をご用意しました」
お父さまが席を立とうと椅子を引くと、モゼルが説明します。
一階下にある客室というと、アーロさまが使った部屋ですね。
立ち上がりかけた体勢のまま止まったお父さまが、こちらを見て渋い表情を浮かべています。
私は何も言っていないのに変ですね。