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第六十三話 お父さまの訪問 3

 私の前では、お父さまが美しい所作でステーキを平らげていきます。

 私も負けじと美しい所作でサクサクとステーキを食べ進めていきます。

「それで最近は、どんな感じだったのだ? セラフィーナ」

「いつも通り、退屈な生活でしたけれど、散歩の途中でアーロさまを拾ってからだいぶ刺激的になって……」

 私はお父さまへ、食事の合間を縫うようにして近況を話しました。

 そして牛が三頭ほど私とお父さまの胃袋に消えた頃、今日あったことまでを話し終えました。

「というわけで。今日はとても忙しかったのですよ、お父さま」

「そうか。大変だったな」

 肝心なときに留守で役に立たなかったお父さまに涼しい顔をして労われても、ちっとも嬉しくありません。

 私は少し意地悪な気持ちになりました。

「ところでお父さま。緊急連絡を入れたのにいらっしゃらなかったのは何故ですか? 連絡がとれなければ、緊急通信用の魔道具の意味がないではありませんか」

 私は少し怖い顔を作って言いました。

 むろん、お父さまには効果はありませんけれど。

 私は可愛いと美しい担当のドラゴンですから、百戦錬磨のお父さまにとっては子犬がキャンキャン吠えている程度に見えるでしょう。

 そう考えるとよりムカつきますね。

「私が下手に動くと魔族と聖獣の全面戦争になると思って耐えましたのに」

「あー、あのキュオスティとかいう小僧が新しい魔王になったらしいな?」

 どうやらお父さまの所に情報は入っていたようです。

「知っていたのでしたら、私に警告を送るとか、何か色々と事前に出来たことがあるのではないですか?」

「いやぁ、あの小僧があんな真似をするとは思わず。そもそも婚約の申し込みとか断っていたからな? なぜお前と一緒になれると思っていたのか分からん」

 お父さまが黒くて太い眉をしかめて、心の底から理解できないといった表情を浮かべています。

 私は溜息を吐きました。

「だってキュオスティはバカですから。私を食事と間違えるくらいのバカなのですから、何考えてるかなんて理解しようとしても無理です。大方、お父さまへ婚約の申し込みを送ったらそれで成立、くらいに考えていたのでしょう」

「あっ……」

 お父さまは、ようやく合点がいったようです。

「魔族なんて、思い込みの激しい者ばかりですからね。受け入れられること以外、脳が受け付けないのですよ、きっと」

 それなりに賢そうに見えたパグリア前魔王ですら、職を投げうって行方不明になった娘を探すし、人間と戦争起こしそうになるし。

 賢く立ち回るとか、考えないのですよ、魔族は。

 なまじ力が強いですからね。

 全ては力で解決すればいいと思っているのですよ。

 もうちょっと考えたらいいのになぁ、と思いますが。

 種族の特徴だから仕方ないです。

「それよりもお父さま。聖獣を率いるお父さまがいるべき場所にいないでチョロチョロしていたら困るではありませんか」

「ん。用があってな。あとのことはサンドロに任せてきた」

「ああ、お兄さまに」

 サンドロは一番上の兄です。

「でも大切な連絡を入れたのに、返事がありませんでしたよ?」

「サンドロは、ああ見えて慎重だからな。わたしに確認してから、とでも思ったのだろう」

 お父さまは頷きながら言いました。

「あぁ、サンドロお兄さまは、そういうところがありますね」

 私は同意して頷きました。

 長兄は大柄な黒いドラゴンです。

 見た目の勇壮さに比べて神経質なので、自分で決断できなかったのかもしれません。

「でしたら、余計にチョロチョロと出歩いていてはダメなのではありませんか、お父さま?」

「いや、だってほら。わたしは、お前の母さまの卵を探さないといけなくて……」

「は⁉」

 お母さまの卵?

 何のことでしょうか。

「いゃあ、母さまと父さまは思い切り愛し合っているからな。そのせいで母さまは、長男のサンドロに次男のルカ、三男 のバルドと百年おきくらいに卵を産んで。さらにお前が産まれた」

 デレながら話すお父さまは、ちょっと気持ち悪いです。

「それは知っていますけれど……私を産んだ後、お母さまは亡くなったのでしょう?」

「ああ、そうだ。魔力量の多い女性だから大丈夫だと思ったのだが……お前を産んだ所で、力尽きてしまったのだ」

 お父さまは寂しそうな表情を浮かべて遠い目をしています。

 亡くなったら戻って来ない。

 生き物とは、そういうものなのではないでしょうか。

 お父さまは何かを思い出したようで、軽く拳を作った左手で、右手の平をポンと叩きました。

「お前には、まだ幼いからと話していなかったか。セラフィーナ。魔力の強いドラゴンは、死んだとしても蘇るのだ」

「えっ? そうなのですか?」

 蘇る?

 リサイクルシステムですか?

 魔族みたいな感じのシステムが聖獣にもあるなんて初耳です。

「魔力量の多いドラゴンは、死ぬと大地と一体化する。そして時間をかけて再生し、卵として大地から生まれるのだ」

「そうなのですか⁉」

 私はびっくりして目を見張りました。

 蘇るというのにも驚きますが、今まで知らなかったことにびっくりです。

「ああ。お前の母は魔力量が多い。だから蘇るのは確実なのだ」

 お父さまは、コクコクと頷きながら言いました。

「そんな大切なことを今まで教えてくださらなかったのですか⁉」

「だって、お前は何も聞かなかったし。お前は母さまのことを聞かなかったではないか」

 それはお父さまが悲しむと思ったからです。

 親に興味のない子などありませんよ、お父さま。

「私を産んだせいで亡くなったと思ったから、あえて聞かなかったのです」

「そうなのか? 蘇るのが分かっているから聞かないのかと思っていたよ」

 とんだすれ違いです。

「私がお母さま恋しさに隠れて泣いている、とか思わなかったのですか?」

「泣いていたのか?」

 お父さまが怪訝そうな表情を浮かべて聞きいてきました。

 私はちょっと考えてから答えます。

「……いえ、そういえば泣いていませんね……」

 ドラゴンの本能で分かっていたからでしょうか。

 お母さまがいないからといって、悲しいとか、寂しいとか、感じた覚えがありません。

 お兄さまやお父さまがいるからだと思っていましたが、違っていたのでしょうか。

「お前は勉強熱心でなかったからなぁ。本宅を離れたときには、まだ18歳と幼さなかったし」

「今は118歳の大人ですっ、お父さま」

「ん、時の流れは早いな?」

 ドラゴンの時間の流れは他の生き物とは違うので、ちょっとが数年ということはざらです。

「お父さまのちょっとは百年単位なのですから、ちょっと長すぎるという自覚を持ってください」

 私はちょっとした怒りを表明するために、頬を膨らめてみせました。

「ははは。ごめん、ごめん。拗ねるな」

 そう言いながらホッペを突こうとするのは止めてください、お父さま。

「どういうことなのか、きちんと説明してください」

 亡くなったと思っていたお母さまが蘇るかもしれないとか、かなり重要な話ですよ、お父さま。

「えっと……どこから説明したらいいかな……ドラゴンが長寿であることは、セラフィーナも知っているね?」

「はい」

 聖獣のなかでも飛びぬけて長寿だと知っています。

 千年万年ざらですからね。

 だから私はてっきり、お母さまはお体が弱いものだと思っていました。

「ドラゴンが長寿であることは、生まれ変わることも関係しているのだ」

「そうなのですか」

 私は驚きました。

「ですが、お父さま? 生まれ変わったら別のドラゴンなのではありませんか?」

「ん、魔力量の少ないドラゴンだとそうなるな」

「魔力量が関係するのですか?」

 私は驚いてお父さまに聞きました。

 お父さまはコクリと頷きました。

 どこかで聞いた話と同じです。

 魔族と聖獣は妙な所が似ているようです。

「魔力量の多さは全てに関係する。今の体の命が尽きても、魔力量が多ければ記憶を引き継いだまま、新しい体を得て蘇ることができるのだ」

「体……生まれ変わると別の体になるのですか?」

 私は自分の太もも辺りに視線を落とします。

 死んでも蘇るというのは良いシステムのようですが、顔や体が変わってしまうのは嫌です。

 私は私のままがいい。

「その辺も魔力量が関係している。お前は魔力量が多いから、そのままの姿で生まれ変わることができるだろう」

「よかった~」

 いえ、死ぬ予定はないのですけどね。

 私は生まれ変わっても、この顔、この姿がいいです。


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