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第四十四話 調停会議とかどうでもいいっ!

 私が考え込む側で、キュオスティがモジモジしながら何か言ってます。

「新魔王になったからには、妃を迎えねばならん。だからセラフィーナ……」

「ねぇ、キュオスティ。前魔王さまは、部下を連れて何処へ行ったの?」

 キュオスティは少し考えてから口を開いた。

「……そういえば、人間の国に娘が捉えられているとかなんとか、言ってたような……」

「なぜっ、そんな重要なことをとっとと言わないのですかっ!」

「は?」

 私の怒りを理解できないキュオスティがキョトンとしてますが。

 こんな馬鹿が新魔王でいいんですか、魔族の方々。

「そんな……我が国で魔族の姫を捕らえた、などという話は聞いてはおりません」

 アーロさまは、きっぱり言いました。

「お前は国の重要人物ではなかろう? お前の知らない情報があっても不思議ないのではないか?」

「……くっ」

 キュオスティに嘲るように言われてアーロさまは、言葉に詰まっています。

 でも今はそんなこと、どうでもいいです。

「人間にとっては前魔王も、現魔王も、関係ないわ。前魔王とその部下が人間の国と戦争を起こせば、魔族の国もただでは済まないでしょう。もちろん、聖獣の国だって……」

 ああ、大変です。

 姫君が捕らえられたのなら、人間の国へ魔族が戦いを仕掛けても、大義名分ができるのです。

 そうなると、実際に戦争にでもなれば、聖獣がどちら側につくのかは不透明な状態になります。

 聖獣と魔族が手を結び、人間の国を攻撃などすれば、ひとたまりもないでしょう。

 これは大事へとなる前に、止める必要があります。

「ちなみに、姫君の容姿が分かるものはありますか?」

 モゼルの言葉に、キュオスティが映像球を出しました。

「ルーロ姫の姿は、こんな感じだ」

 映像球が発光して映像が現れました。

 立体的な青白いが、可愛らしい少女の姿を空に描いています。

 大きな黒い瞳に小ぶりな鼻。

 丸い顔はアゴがキュッとしていています。

 髪の色は淡い茶色。

 緩くウェーブを描く長い髪を垂らしていますが、髪型は簡単に変えられますからね。

 特徴は大きな目でしょうか。

 体が細く小柄なので、顔は大きく見えますが、全体に小さな方のようです。

「王国で、このような姿をしている方を見たことはありますか?」

「いえ。可愛らしいですし、特徴がある姿をしていますから、一度でも見たことがあれば覚えていると思うのですが……」

 アーロさまは首を傾げて映像を眺めています。

「でも、なにか娘にかけていた魔法の術式が一瞬だけ動いて……それが人間の王国だったらしい」

「なんですって⁉ それを早く言いなさいよっ!」

 だから馬鹿は嫌いです。

「調停会議なんてしている場合じゃないわねっ。さっさと人間の王国へ行かないと……」

「そうですね、お嬢さま。偵察へ行った者によると、魔族はかなり人間の王国へ近付いている模様です」

 モゼルが、届いたばかりの文を読んで報告してきました。

 これは人間の王国へ行かなければ、大問題に発展しかねません。

「キュオスティ、前魔王とお供に連れて行った兵士たちの戦力って、どのくらいかしら?」

「んー……パグリア魔王について行ったのは、古参の兵士ばかりだから……この者たちと同じくらいかな?」

 キュオスティは自分が率いていた軍を両手で示しました。

「ちょっと! それでは、人間の王国は大変なことになってしまうわっ!」

 私が思わず叫ぶと、アーロさまの表情が青ざめました。

「んー……それを言われても……」

 なんだかキュオスティがモゴモゴしていますが、それどころではありません。

「こうしてはいられないわ。甚大な被害が出る前に、パグリア魔王を止めないと!」

 私は音を立てて椅子から立ち上がりました。

「んー、セラフィーナ? 今の魔王はわれだが?」

「そんなことはどうでもいいの、キュオスティ! 貴方はさっさと領地に帰ってちょうだい」

「えーそんなぁ……」

 キュオスティが不満げでしたが、アガマがサッと連れて行ってくれました。

 魔族軍からもブーイングが上がっています。

 どうやら私の一喝にほれ込んで、ぜひ新魔王のお妃に、と望まれているようです。

「魔王の妃になんてなるわけないでしょ!」

 思わず火を吹きそうになりましたが、耐えました。

 危ない、危ない。

 私はあくまで美しい担当の銀色ドラゴンです。

 もしくは可愛い担当です。

 そこは譲りません。

 魔力爆発のお嬢さん火傷するぜ担当のドラゴンではないのです。

 前魔王が暴走するのを止めても、私が人間の王国を吹き飛ばしたら結果として同じになってしまいます。

 冷静に対処しなければいけません。

 キュオスティや魔族軍の反応から察するに、私は魔族受けが良いようです。

 もしかしたら、私が説得すれば、最悪の事態は避けられるかもしれません。

「私ならひとっ飛びで人間の王国まで行けるから……行きましょう、アーロさま」

「……えっ?」

 アーロさまは何だかポカンとしていますが、いちいち説明しているのも面倒です。

 私は人化を解いて、ドラゴンの姿になりました。

 アーロさまが必死で探していた、銀色ドラゴンさまの姿です。

 アーロさまの視線が気になりますから、さりげなく後ろを向いて視線を逸らします。

 彼は、どんな表情で私を見てますか?

 憧れの銀色ドラゴンさまに会えて、嬉しそうなキラキラの笑顔を浮かべていますか?

 それとも、自分とは違う恐ろしい姿のドラゴンに震えていますか?

 嘘をつかれて怒っていますか?

 それとも、悲しんでいますか?

 どのような感情が読み取れるのか、私は知りたくありません。

 だから背中を向けて、彼の顔は見ません。

 でも、私の中にある彼への思いが、アーロさまに協力せよと命じるのです。

 だから、アーロさまが案じている魔族と人間との争いは止めます。

「私の背中に乗ってください」

「えっ……セラフィーナさまの背中へ?」

 アーロさまは、モジモジしているようで、なかなか私の背中に乗ってくれません。

 使用人たちはトカゲ系の聖獣が多く、羽を持っているのは私だけです。

 もうやけです。

 内緒にしていたことにも、騙していたことにも触れず、ただ目的だけを告げます。

「移動用の魔道具などありません。この山脈を超えて王国へいくなら、私に乗って空を飛ぶか、アガマたちの背に乗って地を這って行くか、どちらかです。飛んでいった方が早いですよ」

「あ……では、乗せてください」

 アーロさまが、ようやく私の背中に手をかけて準備を始めました。

 アガマが睨んでいるようですが、知りません。

 とにかく戦争にならないように、私、頑張ります。

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