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第四十三話 調停会議 2

 私は、ちっとも怖くない方の問題から片付けることにしました。

「ちゃんと話をしてちょうだい、キュオスティ」

 私は、2メートルを超える体を簡易な椅子に収めて座っているキュオスティを、キッと睨みました。

 長い黒髪も、黒い二本の角も、私にとっては鬱陶しいと思えるだけで、ちっとも怖くはありません。

「何のことだ?」

 赤くて薄い唇からこぼれる声も、ちょっと間抜けに聞こえます。

「貴方は私を迎えに来たというけれど、本当は人間に戦争を仕掛けようとしているのではなくて?」

「は? 人間?」

 私の言葉に、キュオスティはキョトンとしています。

 デカい体をちんまり縮めてこちらを見ているキュオスティは、間抜けに見えすぎて腹が立ちます。

「人間の国へ、魔族軍を送ったのでしょう?」

「そうだっ。我が国へ、魔族軍が向かっていると聞いているっ」

 アーロさまも厳しい口調で言いました。

「は? なんのことだ?」

 ですがキュオスティは、私とアーロさまに問い詰められてもキョトンとしたままです。

われは新しい魔王になったから、セラフィーナを迎えに来ただけだが?」

 発言がイチイチ気持ち悪いです。

 私はブルッと体を震わせた後、キツイ口調で問いかけます。

「魔族軍の別動隊が、人間の国へ向かっているでしょう?」

 私が指摘しても、キュオスティは訳か分からないといった様子です。

「別動隊とは何のことだ? 魔族軍は、ここにいるが?」

 キュオスティは魔族たちに向かって両手を広げた。

「えっ? どういうこと?」

 私は首を傾げました。

「嘘だっ! 魔族は我が国へ向かって進軍しているっ!」

 興奮したアーロさまが、テーブルをドンッと叩いて立ち上がりました。

 しかし、体がフラリと揺れて倒れそうになりました。

「おっと危ない。アーロさま、まだ回復していないのですから、無理はしないでください」

 アガマがアーロさまの体を受け止めました。

 ついでに、治癒の魔法を追加でかけています。

 先ほど治療を受けたアーロさまですが、魔力の消耗が激しくて体調が戻っていないのです。

 聖剣の力で大きな怪我はしなかったようですが、魔力が尽きたら命も尽きるので危なかったです。

 アーロさまに何かあったら、と思うと、自然に目が吊り上がってしまいます。

 その目のままキュオスティを睨んでやります。

 するとキュオスティはブルッと震えあがりました。

「本当のことをおっしゃいっ! 貴方が、人間の国へ魔族を派遣したのでしょう?」

「言いがかりだ。だいたい、魔族軍が人間の国へ戦争仕掛けて、どんなメリットがあると言うんだ」

 キュオスティが嫌そうな顔をして言いました。

 嘘をついている様子はありません。

 どうもおかしいですね。

「お茶をどうぞ」

 モゼルが、お茶を出してくれました。

 ペパーミントの爽やかな香りがします。

「お嬢さまには、アイスティーを用意しました」

「ありがとう」

 さっき火を吹いたから喉が渇いていたのよね。

 私は冷たい紅茶を一口、いただきました。

 爽やかな香りが口の中に広がります。

 喉もスゥーと冷えて気持ちがいいです。

 頭も冷えた所で、冷静に考えてみましょう。

「嘘を吐くな。魔族は、我が王国へと向かってきている。偵察の者は信頼が出来る人物だ。嘘をついているとは思えないし、見間違いということも考えられない。地を這う魔物や空を飛ぶ魔物の話も、ここにいる魔族を見れば正しいと分かる。それでも魔族軍が、王国を狙っていないと言えるのかっ⁉」

「んー。われは、全く身に覚えがないが?」

 まだ興奮気味のアーロさまに対して、キュオスティはカップを両手で持って、ミントティーをチビチビとすすっています。

 お行儀のほうはともかく、嘘をついている様子もありません。

 これは一体、どういうことでしょうか。

「数は、ここにいるほどでないにしても。人間にとっては、魔族1人でも相手にするのは大変なことだ。お前が我が王国に攻め入る気がないというのなら、アレの目的はなんなんだ?」

 アーロさまはアガマの手で椅子に戻されながら、キュオスティに言いました。

「確かに、おかしいわね」

 私は首を傾げました。

 色々と腑に落ちないことがあります。

 まずは、これです。

「ねぇ、キュオスティ。どうして貴方が新しい魔王になったの?」

 キュオスティは、私とそう変わらない年齢のはずです。

 魔族としては若いですし、特に強いとか、頭が良いようには見えません。

 どんな理由があれば、キュオスティ如きが魔王になれるのでしょうか。

「あぁ、それは前魔王であるパグリア魔王が、行方不明になった娘のルーロ姫を探しに行ってしまい、魔王の座が空いたからだよ」

「……は⁉」

 意味が分かりません。

 それと魔王の交代と、どう繋がっているのでしょうか。

「ルーロ姫が行方不明になったので、偵察隊を使ってアチコチ探したのだが……見つからなくてな。今回のパグリア魔王は自分で娘を探しにいくと言ってきかなくて。それで退位することになった、というわけなのだ」

「なぜ? 娘さんが行方不明なら心配なのは当然だもの。探しに行かせてあげたらいいじゃない」

「いや、そうはいかない。魔王というものは、基本的には領地に居ないといけないのだ。期間未定で不在にするわけにはいかん。まぁ、われのように嫁を迎えに行くとか、例外的なことを除いて、だが」

 キュオスティの戯言を丸っと無視して、セラフィーナは聞いた。

「でも、魔王候補なら、他にもいたでしょう?」

「それはもちろんいたけれど、有力候補たちはパグリア魔王と一緒に、ルーロ姫を探しにいってしまったのだ。ゆえに若輩者ではあるが、われが新魔王になったのだよ」

 おや?

 ルーロ姫は、どこへ行っちゃったのでしょうね?

 そして前魔王は、いまどこにいるのでしょうね?



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