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第四十二話 調停会議 1

 何と何に対する調停なのか分かりにくいですが、調停会議が行われることになりました。

 少し前にアーロさまと昼食を摂った庭で、キュオスティとアーロさまを迎えての会議です。

 テーブルに白いテーブルクロスはありません。

 木目がそのままの天板を使った長いテーブルを2つ並べ、周囲に椅子が置いてあります。

 椅子には既にキュオスティとアーロさまが座っていました。

 ほかにも名前を知らない魔族が座っています。

 私は椅子に腰を下ろしながら、キュオスティに問いかけます。

「これはどういうことですか、新魔王さま」

 全てバレてしまった私は、完全に開き直りました。

 嘘です。

 バツが悪いのと、嫌われてしまったのではないかという思いで、アーロさまが見られません。

 せっかく内緒にしていたのにいきなりバレてしまって、騙していてゴメンナサイという気持ちと、変な争いに巻き込んでしまった戸惑いと、色々な気持ちが私のなかで混ざり合っています。

 とはいえ、まずはキュオスティのことを解決しなければいけません。

「だから、われの花嫁となるセラフィーナを迎えに……」

「貴方の花嫁などにはなりませんっ!」

 私の声と共に、空気が重くドンッと下に落ちるような気配がしました。

 ドラゴンは感情が暴走すると周りの環境に影響を与えてしまうのです。

 キュオスティとアーロさまがビクッと身をすくめています。

 他の魔族や聖獣も、身をすくめていますので、かなり威圧的な空気になってしまったようです。

 私は深呼吸をして精神を整えます。

 庭では、傷付いた聖獣たちに混じって、魔族も手当てを受けています。

 ケガ人の手当てをしているような場所に雷が落ちてきても困りますので、様々な感情が入り混じった怒りは抑えたほうがよいでしょう。

「私は貴方との婚約のことなどお父さまから聞いてもいませんし」

「いや、エドアルドさまの許可など貰っていないよ? だって怖いもん」

「でしょうね」

 私はキュオスティをギロリと睨みます。

 ドラゴンと魔族の相性はよくありませんから、権力者であるお父さまと、愚か者のキュオスティが、友好的な話ができるとも思えません。

 だからおかしな話だと思っていたのですが。

 では、どのようなつもりだったのでしょうか。

「だからわれわれの花嫁をわれの手で攫いに……」

「「なんですって!!!」」

 アーロさまと怒りの叫びがハモってしまいました。

 そうでした。

 魔族には、花嫁を攫って娶るという風習があるのでした。

 私、狙われていたのですね。

 怒りのあまり体がブルブルと震えます。

 そんな私を見て、キュオスティもブルブル震えているようですが、一発殴っていいですか?

「お嬢さま、落ち着いてください」

 アガマに宥められて、私は再び深呼吸をします。

 ここはあまりに屋敷と近いですからね。

 こんなところで怒りを爆発させたら、お気に入りの建物ごと吹き飛んでしまうかもしれません。

 今夜野宿するのは嫌ですから、私は真剣に深呼吸しました。

われの花嫁はセラフィーナしか考えられない……」

 小さくなって神妙な面持ちで言うキュオスティに向かって、私は怒鳴ります。

「貴方っ、よくそんなことを言えますねっ! 私をおやつ代わりに食べようとしたくせにっ!」

 私の言葉にアーロさまがギョッとしていますが、この話は嘘ではありません。

 聖獣と魔族の会議についてきた時、お茶の支度をしてあった場所と間違えて、私が遊んでいたところへ、幼い男の子だったキュオスティがやってきたのです。

「人化して遊んでいた私を食べようとしたこと、忘れてないわよっ!」

「いや、だって美味しそうだったし……そもそも聖獣の国に人間がいたら、おやつと間違えてもしかたないだろう?」

「間違えないわよっ!」

 これがキュオスティを存在ごと忘れていた理由の1つです。

 私は小さな頃から人化して遊ぶことを好んでいました。

 あれは屋敷の庭で1人遊んでいた時の事です。

 もちろん乳母や護衛も近くにはいましたが、魔族とはいえ子どもなのですっかり油断していました。

 子ども同士、仲良く遊べば魔族と聖獣の友好に繋がる、とでも考えたのでしょう。

 実際、私が遊んでいた側にお茶の用意がしてあったのです。

 なのに私が気付いたときには、すぐ後ろにキュオスティがいました。

 そして大きく口を開け、私を食べようとしたのです。

「あっちに軽食が用意してあるって言われたから……」

 キュオスティは、言い訳がましくボソボソ言っていますが、知りません。

「お菓子の甘い匂いも、紅茶の香りもしていたでしょう⁉ サンドイッチやキッシュも用意してあったのに、なぜ私を食べようとするのよっ⁉」

「魔族にとって人間は……」

「物騒なこと言わないでっ。魔族も人間は食べないし、ちゃんと調理したものを食べるって聞いてるわよっ」

 言い訳がましく言っていたキュオスティは、私の言葉にシュンとなっています。

「だから、私は貴方の嫁になどなりませんっ!」

「セラフィーナぁぁぁ」

 キュオスティは、情けなくも涙目になっていますが知りません。

 色恋沙汰の話で甘い顔をしてはいけない、とモゼルが教えてくれました。

 徹底的に潰しておきましょう。

 ……本当に潰してやりましょうか……物理で。

 などと考えている私の斜め前の席で、アーロさまがなにやら呟いでいます。

「ということは……セラフィーナさまは、フリー……」

 アーロさまの声が小さいのと、あえて聞かないようにしているので、私には聞き取れませんでした。

 今の私はには、怖いのです。

 アーロさまが、どう思っているのか、何を感じているのか。

 それを知るのが、とても怖いです。


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