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第四十一話 バレた

 空はにわかに掻き曇り。

 激しい雷鳴と共に鋭い光が、暗い空を背景にピカピカと光っては散っていきます。

 それを背景にして、空中で停止飛行する銀色のドラゴン。

 この光景は、神々しくも美しく、迫力に満ちたものでしょう。

 ですが……恋する乙女としては、恋する相手にその表情を向けられるのは辛いですわ、アーロさま。

 アーロさまは、呆然とした表情で私を見上げています。

 彼の顔は小さいですが、ドラゴンの視力は良いのでハッキリと見えます。

 目と口を大きく開き、私を凝視しているアーロさま。

 驚きに見開かれた目からは、恐怖は感じられません。

 ですが、明らかに『セラフィーナさま』を見る目とは違う表情が浮かんでいます。

 その目に映っているのは『伝説の銀色ドラゴンさま』ですね。

 辛いです、アーロさま。

 ですが、私はこの争いを止めなくてはなりません。

 私情はかなぐり捨てて、目の前の問題に立ち向かいましょう。

 乙女の恋心を傷付けた罪は許しませんよ、キュオスティ!

「私の領地なわばりで、殺し合うのは止めなさいっ! 今すぐにっ!」

 ポカンとした魔族が、手からポロンと武器を落としました。

「セラフィーナ!」

 キュオスティが、嬉しそうに叫んでいます。

 ムカつきますね。

「セラフィーナさま?」

 アーロさまが、小さな声で呆然と呟いています。

 驚きに見開かれた目に、恐怖の色はないでしょうか?

 小さな声に、嫌悪の色はないでしょうか?

 もしそれらがあったのなら、隠して欲しいですアーロさま。

 戸惑っているのでしょうけれど、恋する乙女には、ちょっとその反応はキツイです。

 キュオスティとアーロさまの反応が逆だったら良かったのに。

 私はちょっとだけ、そう思いましたが、今さらです。

 事実を隠していたのですから、事実がバレてしまったときの反応なんて、こんなものでしょう。

 私は唇を噛みます。

 仕方ないのです。

 後悔していても始まりません。

「争いを止めて、ケガ人の手当てをしてちょうだい。それからキュオスティ、話をしましょう」

「わかった」

 キュオスティが承知したことを確認して、私は自室のベランダへと取って返しました。

 シュルッルッとドラゴンの姿から人の姿へと変わります。

「お嬢さま……」

 気遣わし気なモゼルの声がしました。

 私はどのような表情を浮かべているのでしょうか。

 自分のことですが、知りたくありません。

「大丈夫よ」

 銀色の髪の儚げな乙女に見える人化した自分の姿は、お気に入りの姿です。

 前髪のある長い銀髪に大きな目、ぷっしくりした小さ目の口、すっと鼻筋は通っているけれど高すぎない鼻。

 鱗と同じ銀色の、体を締め付けない薄絹のドレスに、軽やかなサンダルの足元。

 ドラゴンの姿の時に比べると、軽やかで可愛らしいこの姿でいることが、今は気が重いです。

 アーロさまは、本来の私の姿を見て、どう思われたのでしょうか?

 嘘をついていたことを、どう思われたのでしょうか?

 それを知るのは気が進みませんが、庭に出れば、それを知ることになるでしょう。

「お嬢さま、お庭に席を作りました」

 アガマが声をかけてきました。

「分かったわ。ケガ人の手当ては?」

「重傷者の手当ては済みました。軽症者の手当ても進めております」

「そう。引き続きお願いね」

 私はアガマにそう言うと、長い階段を自分の足で降り始めました。


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