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第三十六話 アーロさまには秘密が?

 アーロさまがゴンドラと共に、悲鳴とも雄叫びともつかない声を上げながら落ちていきます。

「アーロさまぁぁぁ!」

 ああ、どうしましょう。

 このままではアーロさまが死んでしまいます。

 早くっ。早く魔法をっ。

 そう思っても焦ってしまって上手く魔法を操れません。

 私は魔力調整が苦手ですから、下手をしたら助けるつもりが止めを刺すことになりかねないので、パッとスマートに魔法を使うことは無理なのです。

 ところが、です。

 私が魔法を使う必要などなかったのです。

「「お嬢さま」」

 後からアガマとモゼルが屋上に飛び込んできました。

 その時、私は呆然と庭を見下ろしていました。

 魔族軍は、動きません。

 魔王とアーロさまの様子を、見守っているようです。

 キュオスティは魔王になったばかりのようですから、お手並み拝見といったところでしょうか。

 実力が全ての魔族の国では、魔王の座についても隙を見せたらすぐに追い落とされてしまいます。

 キュオスティの戦いぶりを見て、自分たちの王としておくべきかどうかを、判断しようというのでしょう。

 そのキュオスティの前に、アーロさまが立っています。

 アーロさまが勝てば、魔王の座を巡り魔族たちの間で争いが起きることでしょう。

 アーロさまが負ければ、キュオスティの魔王としての地位固めに繋がります。

 だから魔族たちが固唾を呑んで見守っているのも分かりますが……。

 これは一体、どういうことでしょう。

 ゴンドラと共に落ちていったアーロさまは、無事に魔王軍の前に飛び出してしまいました。

「……どういうこと?」

 私は屋上のフェンスから身を乗り出して、アーロさまを凝視しました。

 人間が100階から魔法の助けなしに落ちたのですよ?

 なぜ無傷なのですか?

 アーロさまがゴンドラを垂直落下させていく勢いで魔族に突っ込んでいった時には、どうなることかと思いましたけれど、どうにかなりすぎていてビックリです。

 なぜ無傷なのですか?

 それに――――

「なぜアーロさまが、魔王と互角に戦っているの?」

 アーロさまは人間です。

 それに特別強いということも、なかったはずです。

 実際、ケルベロスに殺されかけましたしね。

 でも今は、剣を片手に魔王と互角の戦いをしています。

 魔王であるキュオスティは体も大きく、武器も使えば魔法も使うという、ハイブリッドタイプの戦い方ができるのですよ?

 それなのにアーロさまのような、ごくごく普通の人間が、なぜ互角に戦えているのでしょうか?

 さっぱり意味が分かりません。

「あー……お嬢さま?」

「なに?」

 アガマが、おどおどしながら私に声をかけてきました。

「あのですねぇ……お嬢さま?」

「だから、なに⁉」

 今の私は考えるのに忙しいので、用事があるのなら簡潔に済ませて欲しいです。

「治療していた時に感じたのですが、アーロさまは普通の人間ではないのかもしれません」

「え?」

 それは聞いておかねばならない情報です。

「封印のようなものが施されていて……わたくし、治療の際に、それをちょっと、ちょっとだけですが、壊してしまったかもしれません」

 ちょっと待って⁉

 ではアーロさまは、ただの人間ではなかったということ⁉

 封印って、何の封印⁉

 私は呆然とアガマを眺めていましたが、ひときわ大きな声が庭から上がってきて、そちらに視線をやりました。

「なんですか、アレは⁉」

 アガマが叫びました。

 アーロさまが持っている剣から天に向かって、青白い光の筋が伸びています。

 一体、何なのでしょうか、あれは。

「まさか……聖剣?」

 モゼルが呆然と呟いています。

 聖剣? 魔法収納庫から出してきた剣が、聖剣?

 私たちはあっけにとられて、聖剣から放たれた青白い光を眺めることしかできませんでした。

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