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第三十五話 意外と強いアーロさま

 アーロさまは、壁に飾ってある一振りの剣を、ジッと見つめています。

 魔法収納庫魔道具などを探したときに見つけた、青い石のはまった銀色の剣です。

 特別に細工が美しいというわけではありません。

 青い石が、アーロさまの青い瞳と似ているといえば、似ているのですが。

 全体が銀色ですしね。

 そこまでアーロさまと似ているわけでもありません。

 ですがなぜか気になって、部屋へと持ち込み飾ったのですが、アーロさまも気になっているようです。

 庭からは魔王の「可愛い人よ、一緒に我が国へ行こう。きっと気に入るよ」などという戯言が聞こえてきます。

 外は魔族で真っ黒ですし、風はビュービュー吹いて細長い塔型の屋敷はグラグラゆれています。

 一体どうしてこうなったのかわかりません。

 いったい何だというのでしょうか。

 魔族軍は人間の国を襲いに来たのでは? と思う一方で、最初から私を迎えに来ただけとも思えます。

 最初から私を狙っての行軍なら、王国が襲われると思ったアーロさまは、とんだ勘違いをしたことになります。

 そのせいでケルベロスに殺されかけたり、魔王に襲われたりしたのだとすれば、アーロさまは、とんだ貧乏くじを引いたということですよね。

 何ですか、これ。

 妙な後ろめたさと恐怖、迷いと混乱。

 頭の中も心の中もグチャグチャです。

「アガマ。お父さまとは、まだ連絡がつかないの?」

「まだです、お嬢さま」

「お嬢さま、封印が破られそうですっ! どうしましょう⁉」

 モゼルが叫んでいます。

 こうなったら、私が人化を解いて、外に飛び出るしかないでしょう。

 アーロさまにどう思われるか、なんて気にしている場合ではないのかもしれません。

 そんなときです。

「このままでは埒が明かない」

 突然、アーロさまが言い出しました。

「セラフィーナさま、コレ、お借りします」

 そして彼は、壁に飾っていた一振りの剣を手に取ります。

「どうなさるおつもり⁉」

 私が叫ぶよりも早く、アーロさまは駈け出していきました。

「私があの者たちを退けますっ!」

 アーロさまは叫びながら、屋上を目指しています。

 私は後を追いました。

「やめてくださいっ、危ないですっ」

 モゼルの封印は外側からの侵入に備えるもので、内側からは簡単に開いてしまいます。

 アーロさまは屋上に出てゴンドラに飛び乗ると、1人で地上へ向かってしまわれました。

「あぁ、アーロさまっ」

 魔法を操ることができないアーロさまには、魔法で作ったレールも見えていません。

 強引に押し上げたゴンドラはレールを外れています。

 このままでは塔の壁を滑降していくことになるでしょう。

「アーロさまッ!」

 私の叫びも空しく、ゴンドラはアーロさまを乗せて落ちるようにして塔の壁を滑っていってしまいました。

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