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第三十四話 セラフィーナを巡る戦い

 地上にいるキュオスティが叫んでいる意味の分からないことを聞きながら、アーロさまが眉間に深いシワを寄せています。

 私からしたら、好きな人の隣で別の人から求婚されるとか、迷惑極まりないのですが。

 バカ魔王に黙る様子はありません。

 アーロさまに勘違いされたら嫌ですし、困ります。

 戸惑う私を隠すようにして、アーロは一歩前に出ました。

 私の想い人は、静かだけれど迫力のある怒りを全身から発しながら、キュオスティを見下ろして叫び返します。

「魔王などに、私の愛しいセラフィーナを渡すものかっ!」

 私は思わずアーロさまを見ました。

 ここはあれです。鐘とか鳴っちゃう場面です。

 私の心は高鳴って、幸せの階段を駆け上っていくようです。

 嬉しいっ!

「たかが人間風情のくせに生意気なっ! 人間ごときが魔王に敵うわけがないだろうっ! さっさと去れ、愚かで脆弱な人間よ!」

 キュオスティは不快感を露にして、身振り手振りも加えながらアーロさまを煽っています。

 あぁ、もう、本当に。これだから魔族って嫌いです。

「私の命が散ろうとも、愛しい人を守らずに去る無様な真似はできぬっ!」

 毅然として言い放つアーロさま。

 文句なくカッコいいです。

 たまらないです。キャー、って叫びたい。場にそぐわないけど、叫びたい。

 そんな私の気分に水を差すような、冷たいキュオスティの声が響きました。

「ならば散ってもらおうか」

 キュオスティが屋敷に向かって右手を上げました。

 そしてアーロさまを指さします。

 キュオスティの周りに渦巻く黒い殺気のなかに、パチパチと稲妻が走っています。

 これはよくありません。

 次の瞬間、キュオスティの指先から真っ黒な何かが稲妻のように放たれました。

「危ないっ!」

 私は叫ぶのと一緒にアーロさまを押しのけて前に飛び出しました。

「ああっ!」

 思わず叫びが口からこぼれました。

 鋭い痛みが体を貫き、黒いもやが私の体に絡みつきます。

「セラフィーナさま⁉」

 アーロさまの叫び声が聞こえます。

 彼を助けることができてよかったです。

 キュオスティの放った魔法は強すぎて、人間にあたっていたら即死していたことでしょう。

 鋭い痛みが通り抜けていった後は、黒いもやが私の体をジワジワと重く締め付けてきます。

 こんな痛みを感じるのが、アーロさまでなくてよかったです。

「おのれ化け物めっ! あぁ、セラフィーナさまっ。こんなもの、どうすれば……」

 アーロさまが私の体に絡まった黒いもやに手を伸ばしていますが、それは無理です。

「はっはっはっ。愚かな人間よ。それは手に取ることは出来ない。お前に放ったものだが……ん。間違って、セラフィーナを掴んでしまったな。いや、これでいいのかも? せっかくだ。このままお前を連れ去ることにしようか」

 キュオスティは、黒いもやを上へと持ちあげることで、私の体を宙へ浮かべました。

「あぁっ」

 キュッと体に絡みつく黒いもやは、重く私の体を締め付けてきます。

 足先が床から離れて、少しだけ宙に浮いてしまいました。

「セラフィーナさまっ!」

 モゼルが室内から飛び出してきて、私に向かって魔力を放ちました。

 黒いもやにビリッとした電撃が走り、私を締め付ける力が弱くなります。

「セラフィーナさま、こちらへ」

 すかさずアーロさまが、私の体を両腕で抱くようにして引きました。

 黒いもやが、ゆらゆらと薄くたなびきながら未練がましく私の体を追いかけてきますが、アーロさまが素早く室内へと引き入れてくれました。

 室内で待っていたアガマが、アーロさまを手伝って私の体を室内に引き入れ終えると、モゼルが素早く扉を封印します。

「ほら、やっぱり攫われそうになったではありませんかっ」

 そうモゼルが騒げば。

「そうですよ、お嬢さま。無茶をしないでくださいっ」

 アガマも私を叱るように怒鳴ります。

 二人の目から見ても、私は危なかったようです。

「大丈夫よ、私は大丈夫」

 私が本気になれば、簡単に攫われはしません。

 ですが、思っていたよりも事情は複雑なようです。

 私はアーロさまに視線を向けました。

 問題解決のために動くなら、アーロさまにバレないよう動くのは難しいかもしれません。

 ドラゴンに戻った私は、彼の目にどう映るのでしょう。

 キュオスティと同じように、化け物と言われてしまうのでしょうか。

 少し不安です。

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