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第二十六話 私の屋敷は百階建て

 私の屋敷は、百階建てです。

 特に深い意味があるわけではありません。

 単純に長細い建物がいいなぁ、と思って作ったら、こうなっちゃいました。

 円筒形の塔型の建物って、長い方が可愛いと思うのです。

 バランスも、ズドンと太い塔型の建物よりも、細長いほうがお洒落で素敵ですよね。

 私がそう言っているのを聞いた使用人たちが、頑張って細長く建ててくれました。

 我が家の使用人たちはトカゲ系の聖獣が多いので、壁を這うのが得意です。

 使用人たちはノリノリでしたし、材料である石は、その辺にゴロゴロ転がっているので伸ばし放題。

 それはサクサクと縦に長く長くしてくれました。

 どんどん縦に伸びていく建物を見ているのは、とても楽しかったです。

 敷地の方は私がちょっと山頂部分を崩して、いい感じに平らにしました。

 懐かしいですねぇ。

 もちろんアーロさまには、こんなこと話せません。

「たっ……高いっ、ですねっ」

「ええ、百階建てなので」

 フェンスの上から滑り出したゴンドラから下を見たアーロさまが、青い顔をして悲鳴に近い声を上げています。

 可愛いですね。

 思わず私は笑ってしまいました。

「ふふふ。ゴンドラは、魔法のレールでしっかり支えてます。だから落っこちたりしませんよ。安心してください」

「でも私にはっ、何も見えませんっ」

「あら」

 私の目には、はっきりと二本のレールが見えているのですが。

 人間の目には、そうではないようです。

 何も見えないとなると、ゴンドラがどこへ向かっているのかも分かりませんし、ちょっと怖いかもしれませんね。

「ゴンドラが動くと、下からキラキラした光が散っているのは見えますが。レールは見えませんっ」

 ゴンドラとレールが擦れて、光りが散っているのでしょうか。

 でもレールが見えないということは、何の支えもなく宙に浮いているゴンドラに乗っていることになるわけですから、怯えるのも仕方ないです。

 人間って不便ですね。

「魔法で動かしているから、大丈夫ですよ」

 私が言うと、モゼルが大きく頷きました。

「はい、アーロさま。安全対策も万全ですし。私は魔法での操縦は慣れておりますので、ご安心ください」

 アーロさまは無言のまま、モゼルに向かってコクコクと頷いています。

 納得していただけたならよかったですが、そうとも言い切れない様子です。どっちなのでしょうか。

 アーロさまの微妙な反応をよそに、モゼルは言葉通りに正確で丁寧な運転でゴンドラを滑らせていきます。

「怖かったら、屋敷側をご覧になっていたらよろしいかと」

 アガマの言葉には、ちょっとトゲがありますね。

 でもアーロさまは、素直に従って建物の方へと視線を動かしました。

 忠告を受け入れる度量もあるアーロさまは素敵です。

「100階は、社交のための広間となっております」

 アガマが説明役のようです。

 アーロさまが感心したように言います。

「塔の上部だというのに広いですね。大広間が、こんな上の階にあるというのも珍しい」

「場所が場所ですので、屋上から出入りされる方が多いのです」

「屋上から?」

 アーロさまは怪訝な表情を浮かべて、屋上を見上げました。

 なぜでしょうか?

「あぁ、人間は……いえ、魔法を使わない国の方にとっては、ピンとこないのですね。険しい山の上ですから、地上を歩いてくるよりも、魔法を使って空から来る方が楽なのです」

 そうでした。

 人間は空を飛んだりしないですよね。

 アガマ、ナイスフォローです。

「魔法で?」

 アーロさまは、更に訳が分からないといった、納得がいかない表情になっていきました。

 人間は、魔法で空を飛んだりもしないのですかね。

 自分でも飛べず、魔法でも飛べないとなると、かなり不便だと思います。

「はい、魔法です。魔法で服従させた鳥の背に乗ったり、魔道具を使って飛んだり、とか。そんな感じで皆さんいらっしゃいます」

 モゼルが助け舟を出しました。

 ナイスです。

 実際には自力で飛べる者が、飛べない者を乗っけてきたりするわけですが。

 さすがに、そのまま話せませんからね。

「そう……なのですか」

 まだアーロさまは納得いっていないようですが、そこはスルーします。

 百階には、大きなベランダもついています。

 もちろん、そこからも出入りできるようにしてあるのです。

「ここから見る景色は、綺麗でしょうね」

「ええ」

 アーロさまの言葉、私はそう返事をしましたが、そこから景色を見る者はあまりいませんね。

 このあたりの景色程度であれば、見慣れているので興味を持つ者もさしていません。

 でもまぁ、そこは細かく説明していくと、色々と面倒なことになりそうなのでスルーです。

 アガマのほうを窺うと、彼は満足そうに頷きました。

 これで正解のようです。

 ゴンドラが緩く滑って、1つ下の階へと動きました。

「そして、99階はお嬢さまの部屋です」

「セラフィーナさまの……」

 アガマの説明に、私の名を呟いて頬を赤く染めるアーロさま。

 人間の反応は、時々謎めいていますね。

 私の部屋に、顔を赤くするような要素があるのでしょうか。

 不思議です。

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