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第二十話 お父さまへお手紙、書いた

 私は早速、お父さまへ手紙を書きました。魔族の動きについての情報は、お父さまの方が手に入れやすいのです。私の知る限りでは、聖獣と魔族との関係は良好なはずです。そうであるならば、事情も知らずに私が人間に肩入れなどしたら、聖獣と魔族の戦争を招くことになりかねません。そのような事態は避けなければいけませんから、事前の情報収集は大切です。

 いくら私がアーロさまのことを好きだとしても、感情だけで突っ走ったらとんでもないことになります。その危険性にくらい、気付いていますから。

「アガマ、私を睨むのは止めてくれない?」

「いえ、お嬢さま。わたくしは、お嬢さまを睨むなんてことはしていませんよ」

 私は自室で執務机の前に座り、ペンを握っています。窓から入ってくる太陽光は、少し傾いた午後の日差しです。広い部屋に、普段は執務机などありません。必要に応じて使用人が運び入れてくれるのです。上品なデザインの真っ白な便せんに、少し青みを帯びた黒に近いインクで文字を綴っていきます。

 横に控えていたアガマが手元を覗き込みます。

「相変わらず、美しい字ですね」

「ふふ。ありがとう」

 美しいと可愛い担当ドラゴンとして、文字は頑張って習得しました。綺麗な文字が書けると印象もよいですしね。

「でも内容は……」

「アガマッ!」

 私の執事は一言余計なのです。ぷん。

「もう少し、お嬢さまご自身のことも書かれたらいかがてす? これではあまりに事務的ですよ」

「そうかしら?」

 アガマに指摘されて自分の書いたものを読み直してみます。……ん、これでいいですね。アガマは普段、どのような手紙を書いているのでしょうか。不思議です。

「これで大丈夫よ」

 私は手紙を広げて、インクが乾くのを待ちます。横でアガマが、これではあまりにそっけない、とかブツブツ言っていますが知りません。お父さまには、このくらいで通じます。親子の絆ですよ、エッヘン。胸を張る私を、アガマが横目で呆れたように見ています。アガマには子どもがいないから分からないだけです。きっと……。ちょっと自信がなくなった私は、自分の手紙を読み返してみました。

 魔王軍が人間の国へ攻め入ろうとしていることと、アーロさまを拾ったこと。空を飛んだりして毎日ご機嫌で過ごしていることなど、必要なことは書いたと思いますが。何か、足りませんか? ちょっと分かりません。

 私は窓の外に視線をやりました。そういえば、今日は飛んでいませんね。どうしましょうか。飛びにいっちゃいましょうか。

「アーロさまのことを気にされているのなら、大丈夫ですよ。先ほどから眠られているようですから」

 何かを察したアガマが言いました。さすが私の執事、有能です。

 私はインクの乾いた便せんを薔薇柄のエンボスが聞いた白い封筒の中に入れ、赤蝋で封をしました。それを持ってベランダへと出ます。手紙は、鳥を使って運ばせるのです。ビューイと口笛を吹けば、屋敷の周囲で遊んでいた鳥がこちらへとやってきてベランダの手すりに留まります。

「この手紙をお父さまのところへ。お願いね」

 私は頭が2つある鷲の口元へと手紙を差し出しました。2つの嘴が手紙の両端を咥えます。双頭の鷲は手紙運搬鳥として優秀です。以前は体力もあって飛ぶのも早いロック鳥を使っていたのですが、屋敷が壊れそうになって禁止されてしまったのです。大き過ぎるというのも問題がありますよね。

 私は双頭の鷲が飛んでいくのを見送りながら、次にどうするかを考えました。今日は時間も遅いですし、アーロさまのことも気になります。

 ですが、毎日の習慣は大事ですよね。

 だから私は、次の瞬間には悲鳴を上げる執事を背中に乗せて、手紙運搬鳥の後を追うようにして大空ほと飛び立ったのでした。

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