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第十九話 聖獣たちは対策を練る

 私は決断しました。

「とりあえずは、全力で誤魔化すわよ!」

 拳を振り上げながら宣言します。アガマの呆れたような視線が刺さりますが知りません。アーロさまは、満身創痍の状態なのです。すぐに動くことは出来ません。その間にどうするかを考えたらいいだけです。こうなったら、当座は誤魔化すことにしましょう。それがいいです。

「なぜですか、お嬢さま。正直に言ってしまわれたら、いいじゃないですか」

 アガマは顎を上げ、グルリと目を回して呆れたように言いました。これだから、オジサンは。ちっとも乙女心が分かっていないですね。オジサンだから仕方ありませんけど。

「お嬢さまが誤魔化したいのであれば、私どもは全力でお手伝いしますっ」

 モゼルが力強く言いました。彼女とはパワータイプの女性同士、分かり合えるところがあるのです。私とモゼルは顔を見合わせて、互いに頷きます。こんな時に頼れる相手がいるというのはよいですね。アガマが嫌そうな表情を浮かべてこちらを見ていますが、知りません。

「まだお互いのことを、よく分かっていない状態なのだもの。私がドラゴンであることは、アーロさまには言わないでいたほうが安全よね?」

「ええ、そうですとも。簡単に人間を信用するものではありませんからね」

 モゼルは、私の意見に同意してくれました。私はアーロさまを疑っているわけではありませんが、そういうことにしておけば協力してくれるのであれば、それでいいです。

「そうですね。人間は嘘つきですからね。銀色のドラゴンさまを探しにきました、とか言って近づいてきて。名乗り出たら生き血やら、心臓やらを狙われるという危険が、ないわけでもありませんからね」

 アガマが意地悪なことを言いますが、嫌味だと決めつけられない自分もいます。私はドラゴンです。あらゆる危険を教えられて育ってきました。いくらアーロさまが立派な騎士さまであったとしても、恋心を利用して私を傷つけないとは言い切れません。ちょっとショボンとしてしまいますが、具体的な危険のひとつとして警戒しなければいけないのは分かっています。

「まぁまぁ、お嬢さま。そんなにしょんぼりしないで……アガマさま、そんな言い方をするのは意地悪ですよ?」

 モゼルがアガマを叱ってくれました。こんな時にはシスターフッドに頼るのが一番です。うーん、モゼル大好き~。

「それにアーロさまが裏切ったところで、お嬢さまは丈夫ですから傷1つ付けられないことでしょう」

 それねー。本当に、そうなのよ。私って丈夫だし、鱗の防御力は半端ないから、人間の鍛えた刃物如きが貫けるわけないのよねー。……って、そこじゃないっ。そこじゃないから、モゼルっ。

「そうですか、そうですか。このアガマが悪うございました」

 あぁ、納得されてしまったわ。そこじゃないんだけどな……。でも、協力してもらえるなら、それはそれでいいかぁ……いや、違う……。

 私はモゾモゾした気分になりましたが、話は次のゾーンに進んでいったようです。アガマが私に問いかけます。

「それで、お嬢さま。具体的にはどうなさるおつもりで?」

「ん、ん~ん? そうねぇ……」

 私たちの暮らしのどこに人間は、引っかかりを感じるものなのでしょうか。人間の生態には詳しくありませんので、よく分かりません。そこはアガマやモゼルも同じなので、一緒に首を傾げています。

「とりあえずは……身体能力が大違いですからね。我々が身体能力を使ってやっていることは、人間からは奇異に映ることでしょう。その辺を誤魔化す方法を考える必要がありそうです」

「ああ、そうね。モゼル、いい所に気付いたわ」

 私の褒め言葉にモゼルはニッコリ笑います。モゼルはツンとした美人さんですが、笑うと愛嬌が出て可愛いです。

「そりゃ人間は、空を飛んだり、壁を這い上ったりはできないでしょうね」

 アガマが嫌味っぽく言いました。ちっとも可愛くありません。

「そうねぇ。どんなところが人間から見たら不思議なのか、チェックしておいたほうがよさそうね」

 私の言葉に、二人は頷きました。

「では、私は屋敷の者と協力して、チェックしておいたほうがよさそうなところを洗い出します」

「そうね。よろしくお願いするわ、モゼル」

 モゼルは頼りになりますね。

「ではわたしくは、旦那さまのところへ問い合わせをしてみましょうか」

「それなら私が一筆書くわよ、アガマ」

 優秀な執事は実務には強いです。魔族軍の進軍についても気になりますし、お父さまに連絡を取るのは賢い選択だと思います。

「是非そうなさってください、お嬢さま。しばらくお手紙を書いていらっしゃいませんから、旦那さまもお喜びになりますよ」

「そうかしら?」

 その点については疑問です。しばらく手紙を書いていないのは事実ですが、ドラゴンは長寿なだけに時間の感覚がズレているのよね。私も大概おかしいと思うけど、お父さまに至っては一年が一ヶ月や一週間の感覚ですからね。しばらく手紙を書いていないことにも気付いてないのではないかしら?

 色々と気になることはありますが、事態を把握するのは大切です。魔族に起きている変化についても気にしつつ、アーロさまへの対応を決めていきましょう。この際、人間の世界のことについて勉強してみるのも良さそうです。

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