「戦力……戦力ね……」
私は力なく呟きました。私でお役に立てることがあるのなら、協力したいのですが。恋する乙女と戦力は、食い合わせが悪いです。強いことは良いことですが、女性が強すぎると男性は引くらしいですからね。恋は不慣れですから、アーロさまに引かれてしまったら私はどうしてよいか分かりません。不慣れと言うか……初恋ですね、これ。あら、私、初恋ですわ。どうしましょう? あらあらまぁまぁ、私はどうしたらいいのかしら? しかも相手が脆弱な人間とあっては、ちょっと悩みます。
「アーロさまの言い方から察するに、雄々しく立派なドラゴンをお探しのようですよね」
モゼルが期待に満ちた目をして私に言いました。あぁモゼル、そうだわ。彼女が何を言いたいのか、私には分かってしまいました。
「それならば、アガマ。お父さまを呼んで対応してもらえばいいのではないかしら?」
アガマに提案した私の言葉に、モゼルの表情がパッと輝きました。お父さまであれば、アーロさまの言う伝説のドラゴンにピッタリです。お父さまは、銀ではなく黒いドラゴンですけどね。
「却下です」
アガマは即座に否定しました。あぁ、モゼルがあからさまにガッカリしています。娘の私が言うのもなんですが、お父さまは凛々しくてカッコいいので、使用人にもファンは多いのです。屋敷に来てくれたら使用人たちは喜ぶと思うのですが、アガマは冷たく言い放ちます。
「お父上であるエドアルドさまはお忙しい方ですからね。こんな些末なことでお呼びたてするわけにはいきませんよ」
「うっ」
こんな些末なこと……些末なことかしら? 父親だって娘の恋愛事情は気になるもの、なのではないでしょうか。
「でも、でも……アーロさまは、強いドラゴンを探しているわけですし……」
「お嬢さまも、充分強いではありませんか」
「まぁ、確かに?」
頷く私を、アガマが呆れた顔をして見ています。確かに私も強いですけれど。でもドラゴンとしては、美しい担当ですよ? あと可愛いとかの担当です。断じて、雄々しく逞しいの担当ではありません。本当です。信じてください。
「お嬢さまは魔法も使えますしね。山の1つも吹き飛ばせば、魔族軍も逃げていくのではありませんか?」
「もう、アガマってば! そんなこと……」
「そうですよ、アガマさま。好きな男性の前で、恋する乙女が山を吹き飛ばすとか、ありませんから」
アガマに向かって抗議の声を上げる私に、モゼルが助け舟を出してくれました。いつもは忠実な執事が、なぜか今回は嫌味っぽく突っかかってきます。
「ですがアーロさまがお探しなのは、銀色のドラゴンですからね。わたくしが知る限り、銀色のドラゴンはお嬢さましかおりませんよ」
「そうよね……」
アガマの言う通り、銀色のドラゴン枠は現在、私だけです。伝説のドラゴンではなく、伝説の銀色ドラゴン、と言われてしまうと、当てはまるのは私しかいません。
更にアガマは、畳みかけるように言います。
「それに銀色のドラゴンが見つからなければ、アーロさまは、再びドラゴン探しの旅に行かれてしまいますよ」
「あぁ、いけない。それは危ないわ」
アーロさまが、意味もなく危険な目に遭うのは嫌です。私の執事は、本当に嫌な所を突いてきますね。性格が悪いです。知ってましたけど。
「もう探し当てているというのに、人間というのは勘が悪いですな」
アガマは溜息を吐きました。
まぁ実際、ココにドラゴンはいるわけですし……危険を冒して探しに行く必要はありませんよね……。でも雄々しく逞しい担当の戦力として求められるというのも、ちょっと抵抗があります。
これは、どうすればよいでしょうか?