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第十八話 恋するドラゴンは悩む

「戦力……戦力ね……」

 私は力なく呟きました。私でお役に立てることがあるのなら、協力したいのですが。恋する乙女と戦力は、食い合わせが悪いです。強いことは良いことですが、女性が強すぎると男性は引くらしいですからね。恋は不慣れですから、アーロさまに引かれてしまったら私はどうしてよいか分かりません。不慣れと言うか……初恋ですね、これ。あら、私、初恋ですわ。どうしましょう? あらあらまぁまぁ、私はどうしたらいいのかしら? しかも相手が脆弱な人間とあっては、ちょっと悩みます。

「アーロさまの言い方から察するに、雄々しく立派なドラゴンをお探しのようですよね」

 モゼルが期待に満ちた目をして私に言いました。あぁモゼル、そうだわ。彼女が何を言いたいのか、私には分かってしまいました。

「それならば、アガマ。お父さまを呼んで対応してもらえばいいのではないかしら?」

 アガマに提案した私の言葉に、モゼルの表情がパッと輝きました。お父さまであれば、アーロさまの言う伝説のドラゴンにピッタリです。お父さまは、銀ではなく黒いドラゴンですけどね。

「却下です」

 アガマは即座に否定しました。あぁ、モゼルがあからさまにガッカリしています。娘の私が言うのもなんですが、お父さまは凛々しくてカッコいいので、使用人にもファンは多いのです。屋敷に来てくれたら使用人たちは喜ぶと思うのですが、アガマは冷たく言い放ちます。

「お父上であるエドアルドさまはお忙しい方ですからね。こんな些末なことでお呼びたてするわけにはいきませんよ」

「うっ」

 こんな些末なこと……些末なことかしら? 父親だって娘の恋愛事情は気になるもの、なのではないでしょうか。

「でも、でも……アーロさまは、強いドラゴンを探しているわけですし……」

「お嬢さまも、充分強いではありませんか」

「まぁ、確かに?」

 頷く私を、アガマが呆れた顔をして見ています。確かに私も強いですけれど。でもドラゴンとしては、美しい担当ですよ? あと可愛いとかの担当です。断じて、雄々しく逞しいの担当ではありません。本当です。信じてください。

「お嬢さまは魔法も使えますしね。山の1つも吹き飛ばせば、魔族軍も逃げていくのではありませんか?」

「もう、アガマってば! そんなこと……」

「そうですよ、アガマさま。好きな男性の前で、恋する乙女が山を吹き飛ばすとか、ありませんから」

 アガマに向かって抗議の声を上げる私に、モゼルが助け舟を出してくれました。いつもは忠実な執事が、なぜか今回は嫌味っぽく突っかかってきます。

「ですがアーロさまがお探しなのは、銀色のドラゴンですからね。わたくしが知る限り、銀色のドラゴンはお嬢さましかおりませんよ」

「そうよね……」

 アガマの言う通り、銀色のドラゴン枠は現在、私だけです。伝説のドラゴンではなく、伝説の銀色ドラゴン、と言われてしまうと、当てはまるのは私しかいません。

 更にアガマは、畳みかけるように言います。

「それに銀色のドラゴンが見つからなければ、アーロさまは、再びドラゴン探しの旅に行かれてしまいますよ」

「あぁ、いけない。それは危ないわ」

 アーロさまが、意味もなく危険な目に遭うのは嫌です。私の執事は、本当に嫌な所を突いてきますね。性格が悪いです。知ってましたけど。

「もう探し当てているというのに、人間というのは勘が悪いですな」

 アガマは溜息を吐きました。

 まぁ実際、ココにドラゴンはいるわけですし……危険を冒して探しに行く必要はありませんよね……。でも雄々しく逞しい担当の戦力として求められるというのも、ちょっと抵抗があります。

 これは、どうすればよいでしょうか?

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