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第十六話 見解の相違

 アーロさまは私たちが若干引き気味なのに気付く様子もなく、話を続けました。

「いくら我が王国の兵が強くとも、魔族軍相手では勝ち目がありません。そこで、伝説の銀色ドラゴンさまのお力を借りようということになったのです。鱗1つで王国を救うことができたドラゴンさまなら、必ずや魔族軍から我々の王国を救ってくださることでしょう」

 アーロさまは澄んだ青い瞳をキラキラさせていますが、私としては複雑な気持ちです。私も失敗しがちなドジっ子ドラゴンですから、偉そうなことは言えませんが。ちょっと人間、身勝手すぎますね。

 魔族軍が攻めてきたから助けてください、と言われて、はいそうですか、と迂闊に引き受けちゃったら……。後悔することになりそうな気がします。どうでしょうか。アガマの方に視線をやって問いかけてみました。忠実な執事は、苦虫を嚙み潰したような複雑な表情を浮かべて頷いています。これは要相談、ということなのでしょうか。分からないので、そこも含めて後で聞いてみましょう。

「そこで私が皆を代表し、ドラゴンさまを探す旅に出たのです。しかし伝説だけてあって、なかなか見つけることが叶わず……貴方たちにお手間をかけることになってしまって、申し訳ないです」

「いえいえ、そんな……」

 私は恐縮するアーロさまに向かって、なだめるように両掌を振ってみせました。アーロさまはシュンとなっていますが、そこは遠慮なく頼ってよいところだと思います。

 ドラゴン探しをしていただけなら、私たちに害はありません。それに傷付いた者を救護するのは、我々にとっては当たり前のことです。

 ほっといてもいいのですが、人間の血をそのままにしておくと周囲が臭くなりますから。死体になって転がっていると腐臭が酷いことになるので、助かってくれたほうが我々にとってもよいことです。……あら? 私たちも、まぁまぁ身勝手かしら?

「ところで、アーロさま。伝説のドラゴンさまというのは、どのような見た目をしているのでしょうか?」

 アガマが聞くと、アーロさまはうっとりとした夢見るような表情を浮かべて話し出しました。

 あっ、それは私も興味があるので聞きたいです。美しい私の姿は、どのように伝えられているのでしょうか。

 期待に満ちた眼差しを向けた私に向かい、アーロさまは嬉々として語り始めました。

「銀色のドラゴンさまは、鱗に太陽の日差しを浴びてキラキラと美しく輝き」

 うんうん。そうよね。私の鱗の美しさときたら……そうでしょう、そうでしょう。もっと褒めて、アーロさま。

「その姿は、そびえたつ山のように立派で勇ましい」

 ……ん? ちょっと話が逸れてきましたよ。確かに私の体は人間に比べたら大きいですが、山に例えられるとか、勇ましいとか。乙女にはちょっと……。

「たなびくたてがみ、長い髭。その雄々しさは神々しいばかりなり」

 いや、乙女なので。たてがみも、髭も自慢の美しさですけど『雄々しき』とかは要らない感じなんのですけど? ん~ん?

「二本の鋭く立派な角を頭に生やし、鋭利な鉤爪は悪を斬り刻む」

 角も、鉤爪も、ツヤツヤピカピカで自信を持っていますが、なんだかちょっと褒められる方向性が物騒ですね。

「勇ましく雄々しく素晴らしい銀色ドラゴンさまは、伝説のドラゴンにして我らの守護者」

 んー。人間の王国を守護している自覚は皆無ですね。

「空を覆わんばかりに、背中の羽を広げて飛ぶ姿は力強く」

 確かに私の羽は大きくて立派ですけれど、羽は銀色ですし、日差しを弾くと七色に光ってとても綺麗なのですが。そっちについてはコメントなしですか?

「太陽の日差しを受けて、七色の虹を作りながら飛ぶ銀色のドラゴンさまは」

 ん、ちょっと自己イメージに近付いてきました。綺麗な雰囲気でましたね。

「悪を許さぬ赤紫の眼光鋭い目で世界を見張っている、と王国では言われているのです」

 正義の味方っぽいですね。それきっと私じゃないです。違います。ドラゴン違いです。私は美しく可愛く、無邪気でお茶目なドジっ子ドラゴンですからね。ええ、きっと私ではないです。

 戸惑いながらアガマに視線を向ければ、明らかに目が笑っています。揶揄うような、クククッという笑い声がくっついていそうな表情をしています。モゼルはといえば、顔を背けていますけど肩が明らかに揺れています。笑ってますね、コレは。もうっ、こっちの気持ちにもなってよ。私の使用人たちときたら、まったくもうっ!

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