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第十四話 魔族と聖獣

 魔族と聖獣の関係性は深いです。聖獣は大らかなので、魔族とも普通にお付き合いがあります。

 聖獣感覚でいけば、数が揃わなければ戦いを仕掛けてくることもない魔族なんて、どうってことはないので怖くはありません。それに付き合ってみれば、魔族といっても悪さをする者ばかりでもないのです。悪気なく生き物として天然で悪いことをしなければ生きていけない種族もいますけれど、今は社会を築いているので補い合ったり、平和的に必要なものを手に入れたりしているので、聖獣にとっては敵ではありません。

 しかし人間にとっては違います。圧倒的な力の差があると、知性を持った生き物というのは無茶をしがちです。魔族は人間よりも圧倒的に強いですし、もともと性格が悪い生き物なので平気で嫌われるようなことをします。だから魔族が人間から嫌われているのは分かります。

 魔族は人間相手だと「お前たちを滅ぼしてやる!」だの「人間如きが我らに敵うつもりだと⁉」だのと、怒号を浴びせかけちゃいますからね。パワハラです。嫌なことを言われたら嫌いになるのは当然のことです。仕方ありません。

 昔は魔族による人間虐めが酷かったのは事実です。しかし聖獣が働きかけて、人間に手出ししないよう条約を結んだはずですけれど。私の勘違いでしょうか。もしかしたら情勢に変化があったのかもしれません。

 私はアガマに、お父さまから何か連絡があったのか、視線で問いかけてみました。アガマは顔を横に振ってます。何も連絡はなかったようです。おかしいですね。条約が破棄されたのであれば、それなりに連絡や指示がくるはずです。聖獣には関係のないところで話が進んでいるのでしょうか。

 ですが、魔族と人間が争いを始めるのなら、聖獣だって巻き込まれると思います。条約を無視して魔族軍が人間の国へ進軍しているなんて、一体何があったのでしょうか。

「魔族は我が祖国に刻々と近付いてきています。偵察の者の話では、地を這う魔物はもちろん、空を飛ぶ魔物も従えているようで。数はたいしたことがないようですが、我らは武器を持ったとしても所詮は人間です。とても太刀打ちできる相手ではありません」

「えっ?」

 アーロさまの説明に引っかかるものを感じて、私は小さく声を上げました。

 数がたいしたことない? それは変ですね。魔族が進軍するときには、地も、天も、真っ黒に染めながら進んでいくと聞いていますが。

 私の顔を見たアーロさまが、バツの悪そうな表情を浮かべました。

「あぁ、申し訳ありません。お嬢さまには縁のない、物騒な話でしたね。怖がらせるつもりはなかったのですが……」

「いえ、そんな。お気になさらず」

 魔族軍が進軍してきても、私はちっとも怖くありません。そんなことはどうでもいいのです。でもなんとなく、話が変だな、とは思っています。数がたいしたことないのであれば、魔族軍が攻めてきたと考えるのは早計かもしれません。数が少ないなら正規の魔族軍ではない可能性があります。

 もっとも数が少なくても、手練れの魔族だったり、狡猾な悪者の指揮下にあったりすれば、それはそれで厄介です。魔族だって、真面目な忠誠心のあるタイプばかりではありません。チンピラみたいなのもいますから、そんなのがまとまって人間の国に攻め入れば、ちょっと問題が大きくなります。

 私は魔族のやり口についてもキチンとお勉強しましたから、それなりに詳しいのです。しかしそれをアーロさまに説明するのは……ちょっと難しいような気がします。アガマも余計なことを言わないように、と視線で制してきますし。いまのところは黙っていることにします。

 そんな私の態度が、アーロさまからは、魔族に怯えているように見えたようです。

「こちらの方向には来ないでしょうから、安心してください。お嬢さま」

 アーロさまが笑みを浮かべて、私に向かって話しかけてきます。あぁなんでしょう、この安心感。

「万が一のことがあれば、私がお嬢さまをお守りします」

 胸がドキンと高鳴ります。

 魔族如き、私の敵ではありませんが。守ってもらいたくなる誘惑を感じます。自分で出来ることは自分でやるように、というのがお父さまの教育方針ではありますが。守ってくれるというのなら、守ってもらってよいのではないでしょうか。いいですよね?

 アガマとモゼルが冷たい視線を投げてきますが、知りません。

 私はアーロさまに守ってもらいたいですっ。

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