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第十三話 アーロさまの目的はドラゴン探し

「記憶がはっきりしませんが、どうやら私は怪我をしてしまったようですね。お手間をかけてしまって……」

 アーロさまはベッドに寝そべったまま、アガマの方を向いて申し訳なさそうに言いました。窓から入ってくる太陽光で、アーロさまの金髪が透けながら光っています。整った顔立ちがより際立って、絵画のように美しいです。私はうっとりと眺めてしまいます。

 アガマが咎めるようにわざとらしく、ゴホンと咳をしましたが知りません。私は見たいものを見ます。

「あー……ゴホン。いえいえ、手間なんて。そんなことはありませんよ。困ったときは、お互いさまです。それよりも……どのような事情で、あのような険しい山にいらしたのですか?」

 アガマが問いかけると、アーロさまはクシャッとした笑みをはにかむように浮かべると寝たまま答えます。

「私は、伝説のドラゴンを探していたのです」

「「「ドラゴン⁉」」」

 私はアガマとモゼルに声を合わせて叫んでいました。

 驚きです。

 アーロさまは私を探しにきたのです。

 これは運命ですよね?

 運命だと思ってよいですよね?

 ウキウキする私を、アガマが表情で制してきました。アレは何も言うなという意思表示です。意地悪ですね。嫉妬でしょうか。

 私とアガマが表情のみで戦っているのをよそに、アーロさまは、ゆっくりと説明を続けます。

「伝説のドラゴンを探している、なんて子どものようで恥ずかしいのですが……そうも言っていられない事情がありまして。私は、先ほども名乗りましたように、王国の騎士です」

 はい。忘れてはいません。

 おそらく伸ばしっぱなしであろう長髪が、手入れされている様子もないのにツヤツヤキラッキラの金髪でも、顔が美しく整っていていて女性のようであろうとも、アーロさまはマッチョな大男です。マッチョすぎて、顔と体の縮尺がおかしく見えるほどですが。筋肉たっぷりのガッシリした体からは強者のオーラがダダ洩れですから、さぞやお強いのでしょう。そんなツヨツヨの王国騎士さまが、人間にとっては入ってくるのすら難しい危険な場所に分け入ってきたのですから、それなりの理由があるだろうことは想像していました。むしろ理由はあって当然です。ですが。まさか私を探しに来たとは思っていませんでしたが、これは運命ですね。ええ、運命です。

「いま王国は危機を迎えています。だから、伝説のドラゴンの力を借りたいのです」

「まぁ!」

 王国の危機とは、どのような種類のものなのでしょうか。私に出来ることなどさしてありませんが、アーロさまのお力になれるのであれば、協力は惜しみませんよ。ぜひとも協力させてください。

 そんなウッキウキ気分の私を見て、アガマが渋い表情を浮かべています。モゼルも表情が厳しめです。私の反応、そんなにおかしいでしょうか? クスン。

「王国に迫っている危機は、人間だけで立ち向かうには難しいものがあります。我らの戦力で太刀打ちできるかどうか、という危機です。だから伝説のドラゴンを探しているのですが……険しい山をあちらこちら歩き回っても、それらしき影すら見つけることはできませんでした」

 アーロさまが溜息混じりに言いました。

 ドラゴンなら目の前にいますよ、と言いたいですが、アガマとモゼルが表情で黙らせてくるので大人しく黙る私です。

「よろしければ、どのような危機なのか。わたくしどもにも、お教えていただけますか?」

 アガマの言葉に、アーロさまがハッとした表情を浮かべました。

「ああ、そうですね。ここも王国からそう離れていないから、貴方たちにも関係があります。驚かないでくださいね」

 アーロさまはそこで言葉を切ると、真面目な顔で私とアガマを見ました。どんな怒涛の展開が待っているのでしょうか。私は唾をゴクリと呑んでアーロさまの言葉を待ちます。

「魔族軍が、すぐそこまで来ているのです」

 まぁ! それは大変ですっ!

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