タンタロス星域にて
「タニア・ベリー。惑星鑑定士養成課程の卒業資格をここに授与する。本課程修了の資格に恥じぬ誇りとたゆまぬ努力をもってこれからますます精進されることを期待する…」
卒業証書を手渡される時、タニアはうかない気分だった。唇をきゅっとひきしめ、眉根を寄せ、目を細めていた。
いろいろな苦労の末、幼い頃からあこがれていた職業の資格がとれたという喜びがそこにはなかった。なぜなら今、苦楽を共にした級友の一人が学習中の事故で命を絶たれここにはいない。
他の級友たちが嬉しそうにおめでとうという言葉を受け入れているのが信じがたかった。
皮肉な感情で一杯の卒業式。
「こんなはずじゃなかった…。」
普段の黙って微笑んでいる時の彼女は、やさしくて柔らかな印象の可愛らしい女性だ。ウェーブのかかった長い髪が色白の細面を縁取り、あどけない夢見るようなまなざしが周囲の人間を時には虜にしたものだ。
それがこの時ばかりは近寄りがたい殺気にも似た雰囲気に取って代わっていた。
「私だけが優秀だったわけじゃない。ただ…運が良かっただけ。」
タニアには何か釈然としないものだけが残っていた。
「タニア。一体どうしたの?」
卒業式の後、直帰したタニアのただならぬ様子に母親が尋ねた。しかしタニアはしばらく押し黙ったまま口をきかなかった。
「…私、タンタロスの惑星開拓団に志願したの」
「ええっ?第一級危険地帯じゃないの。しかも太陽系からとても遠いわ」
母親はタニアのいきなりの発言に度肝を抜かれ、おたおたするしかなかった。
「もう決めたのよ」
そこにはゆるがない決意があった。
両親の必死の説得にも耳を貸さず、もどかしい思いで、タニアは生まれて初めて親元を飛び出した。
☆
辺境の星へ向かう宇宙貨物輸送船は、娯楽とはほど遠い設備のシンプルな造りだった。
タニアは長く退屈な旅を送った。
やがて彼女は、過酷で誰も志願したがらない場所へたどりついた。
「地球ではいろいろな出来事が立て続けに起こって、身も心もぼろぼろだ。なにもかも捨ててここにやってきた。だから、これで、良いんだ」
タンタロス星域の中心に位置するコロニーの殺風景な宇宙港に降り立つと、今の自分の気持ちにぴったりだと思い、彼女は自嘲気味にそっと笑った。
「おっと、悪い!」
物思いにふけってぼんやり突っ立っていた彼女に、通りすがりの一人の若い男がぶつかった。
「…いいえ」
おざなりに返事したタニアをその男はもの珍しそうに、それこそ頭のてっぺんからつま先までじろじろ眺めた。
「あんた、旅行?…じゃないな。こんな何もない所へ好き好んで来るやつなんかいないし、誰か家族でも…。ああそうか、だんなについてやってきたのか。まだ若いのに大変だな」
「失礼ね。私は独身よ」
タニアはむっとして男をにらみつけた。
「おっとっと、こりゃ怖い。そりゃ悪かったな。悪気はないんだ。ちょっと不思議だったもんだから…。そんなにふくれっ面だと、せっかくの可愛い顔が台無しだぜ」
男はにかっと笑うと、片手をひらひら振って立ち去った。
後で、その男とは新しい仕事の赴任手続きの時にまた顔をあわせることになった。
あきらかに嫌な顔をしているタニアを気にするでもなく、男は笑顔で自己紹介した。
「コンラッド・レッドだ。俺もあんたと同じで今日からここに赴任するけど、一応俺の方が上司なんでそこんとこよろしく」
「えっ?」
「あんた、現場で経験したことのないド素人なんだろ?とりあえず、慣れるまでの世話係みたいなもんだと思ってくれりゃいい」
「………。タニア・ベリーよ。『あんた』呼ばわりはやめて」
「おう。じゃ、これからよろしく、タニア。多分すぐに配置換えがあるから、それまでの辛抱だよ」
コンラッドはのほほんと笑って言った。
☆
実際の現場の仕事はタニアが学んできた知識だけではとうてい対応できるものではなかった。
ただでさえ辺境の地の最前線にいるため、設備の普及自体が追いついていなかった。それを人間の力や工夫で補わなければならなかった。
思いもよらない関連作業にも、人手不足で容赦なくかりだされるのだった。
「もう嫌。こんなことやってられないわ」
コロニー外のデブリ回収作業の途中、どうしてもついていけなくてタニアは泣き言を言った。
無重力の中で、コロニーの回転する速度と加わる力に気をつけながら、宇宙に漂うデブリ(宇宙ゴミ。壊れた衛星の残骸とか、隕石の破片とか)をうまく回収しなければならなくて、下手をすると自分が危ない現場だった。
「ふざけんな!まだまだ序の口なんだぞ。中途半端な所で音を上げるよりも、とにかく目の前のやっかい事をなんとかしろ。手を動かせ。それがここの仕事だ」
タニアはとにかくくやしくて、やれるだけのことを懸命にこなしていった。
「なんだ。やりゃあ出来るじゃないか」
コンラッドはにっ、と笑った。
☆
たいていの休憩時間、他の仲間たちはタニアを囲んでカードをやったりおしゃべりに花を咲かせていた。恐らく、若くて可愛い女性がめずらしいことも手伝ってか、タニアはちやほやされた。
しかしそんな時、コンラッドはきまって一人離れて雑用にかまけていた。タニアたちの輪に入ることはなかった。
「こういう時はつきあいが悪いのね…」
タニアは肩をすくめた。
地球では大昔にアメリカの西部開拓時代があったように、この場所でも、新天地を切り拓いていく仕事が行われていた。生物が適応できる環境を造るテラフォーミング化や、さらには、人類が生活して文明を発展させていく上で必要な物資や食糧を調達できる世界の形成。
コロニーを中心としたタンタロスの星域に広がるさまざまな場所で、街を拠点にした人々が集まる世界が出来ていく。その過程を、タニアはその目で目撃した。
科学技術がいくら発展しても、やはり肝心な「かなめ」になるのは、いつだって人間の持つ生命力だと思えた。
☆
あるとき、
「おい、それちょっと待て」
急にコンラッドが作業用のコンテナ運搬用の重機を止めた。
「なんだよコンラッド。こっちはこの作業早く終わらせたいんだ」
「だが、今使っている重機の数が多いだろう?どっからひっぱってきたんだ?」
「廃物処理場に放ってあったんだが、まだまだ使えるからもってきた」
「どこかに異常があったから廃物にまわされたんだろう?使うのはやめたほうが良い」
「余計な世話だ。それより作業の邪魔しないでくれ」
こんなやりとりがあった。
タニアは近くで傍観していただけだったが、それを機にコンラッドが仲間から外れがちになったので、ちょっと気がかりだった。
数時間後、コンラッドが指摘した重機がコンテナを破損させ、怪我人がでた。
作業のノルマを達成することに気をとられて機械を酷使しすぎたのだ。
みんなは黙り込んで遠巻きにコンラッドの顔色をうかがった。
「コンラッド、あの…」
タニアが声をかけると、コンラッドは彼女の顔を正面から見据えて言った。
「俺たちは自分や仲間が生活していくために働いている。ここのはどれも危険で責任のある仕事だ。でもその責任感から仕事を重視しすぎて自分たちの生命を削るのは本末転倒なんだよ。確かにふんばるときには全力を尽くす。それは大事だ。けれど、自分の安全を第一に考えてなんぼ、だ。いつでも冷静に、なにが一番大事なのか見極めろ!」
それだけ言い捨てると、彼は一人でどこかに姿を消した。
その日の就寝時間、タニアはなかなか寝つけずに、いつも見ていたコンラッドの行動を思い出していた。
普段は無口で大勢いる人の輪の中には決して入ろうとしないくせに、陰では一人一人に故郷や生い立ちなどを尋ね、なにかの折にはそれとなく世話を焼いていた。
始めのころ心を閉ざしてあまり誰とも口をきかなかったタニアにもいつも笑顔でおどけて話しかけてきたものだ。
「あの人は他人のことを知ろうといつも努力してるのに、私はあの人のことをなんにも知らない」
ぼんやりとそう思った。
「コンラッド、今の時間、何か予定ある?」
翌日の休憩時間にタニアはコンラッドの所に行って声をかけた。
「あー?どした?なんかあったか?」
ねぼけまなこのコンラッドが返事した。
無精ひげが生えているのをタニアはじっと見た。嫌悪感よりも好感を覚えた。
「買い物につきあって欲しかったんだけど…、疲れてるのなら無理しなくて良いわ」
「あー、ちょっと待て。すぐ行くから待ってろ」
コンラッドはあわてて支度するととびだしてきた。
二人はコロニー内の町のささやかな出店の通りを歩いた。
「きれいな水晶!」
タニアが鉱物等を扱っている出店の前で足をとめて見入っていると、コンラッドはすぱこん、とタニアの頭を軽くはたいた。
「なによ。見てるのに」
「あんたな、仮にも惑星鑑定士の資格もってるんだろ?本物の水晶の結晶体かどうかくらいみきわめろ」
「え?これ偽物?」
「雑にカットしたガラスだっつうの。安物にだまされちゃってまぁ」
「ひどい。お店の人に文句言わなくちゃ」
「あのなぁ、水晶もガラスも出来てる成分は同じなの。天然か人工物か、っていうだけで…」
コンラッドはそこで口をつぐんで、なにやらタニアをまじまじ見た。
「何よ?」
「いや…。ここにも天然が…、と思って」
「は?」
「うんにゃ、……ごにょごにょ」
タニアはふくれっ面でコンラッドの背中をばしばし叩いた。
買い物から帰るころには、二人はすっかりうちとけて笑いが絶えなかった。
「今日はありがとう。おかげで楽しかったわ。明日からも一緒に仕事をがんばりましょうね」
タニアが微笑んで言うと、コンラッドはなぜか彼女に気づかれないようにわずかに表情を曇らせた後、笑って手を振った。
「さよなら」
☆
睡眠。それはやすらかな休息だ。一日、力一杯働いて、床に入る時ほどすばらしい眠りが訪れる。
ぐっすり夢もみずに熟睡した翌日は、元気に働ける。もちろん、楽しい夢だって沢山みれば、元気につながる。
食事も、専門の料理人がいるにはいるが、ある程度自分の感覚を使って料理の工夫をする喜びがあった。調味料や香辛料の使い分け、素材の選び方。追求すればするほど奥深く、きりがなかった。
タニアは少しづつこの場所での生活サイクルに慣れ始めていた。
趣味の合う仲間と交流を深めたり、お互いの家を行き来したりした。
きついけれど充実した生活を送っているうちに、毎日が、飛ぶように過ぎていった。
☆
「ちょっとコンラッド!どういうこと?」
数週間後、タニアは血相を変えてコンラッドにつめよった。
「あなた明日から第二惑星の開拓基地へ移動、って!前から決まっていたんですって?なんで言わなかったの?私、さっき他の人からいきなり聞いてびっくりしたのよ」
「ああ。あれね」
コンラッドは無表情だった。
「基地内部にわずかな空気が確保してあるだけの真空の星じゃないの。そんなところに行くなんて……」
「仕事だから、しかたない」
「なにそれ。…でもちゃんと休みにはここに帰ってくるんでしょう?」
「いや」
「え……?」
「銀河標準時間で二年くらいむこうに行ったまま戻らないよ。その後もずっとむこうかもしれない」
タニアはコンラッドの予想外の答えに、思わず言葉につまった。
「…だめよ。あなた自分で言ってたじゃない。『仕事を重視しすぎて自分の生命を削るのは本末転倒』って。だったらわざわざ危ない星に行くのは変よ」
「命は大事だ。けど例外も時にはあって、それが一番ってわけじゃない場合もあるんだ。俺は自分の選んだ仕事に誇りと生きがいを感じている。だから行くんだ。大丈夫、死ぬ気は全くない」
コンラッドはそこで言葉を切ると、目を細めてタニアをみつめた。
「…それから、俺は前々から思ってたんだけどな、あんたは太陽系付近のもっと条件の良い場所で仕事したほうがいいよ。お嬢さん育ちにはここの環境は合わない。とっとと帰って親を安心させて手ごろな伴侶みつけて幸せになれ」
そうしてコンラッドはタニアを残して歩いて行ってしまった。
☆
それから銀河標準時間の一年が経過した。
タニアは太陽系には戻らず、タンタロス星域の仕事を続けていた。
それがプライドなのかどうかは彼女自身よくわからなかった。
この一年で人の出入りは激しかったが、以前に比べればかなりにぎやかになってきていた。
タンタロスの過酷な世界へやってくる人間は一癖も二癖もある者ばかりで、様々な事情を抱えていた。
そんな中でも逃げ出さずに踏みとどまる者ほど仲間内で信頼に値する存在になっていった。
☆
ある時、新入りの若い男がタニアにこう言った。
「僕はこの仕事を選んでここに来たけれど、心のどこかで、もとの世界に戻ってやり直したらどうだろう?って空想しちまう癖があって…」
「ふうん」
「人生の転機の節目ごとに、あそこでこうしてれば、って考えたらきりがなくて。もとの世界で好きだった女の子に告白していたら…。今、もし戻って告白したら、まだやり直しがきくのじゃないか、とかね」
「そう。でも、私はあまりそういうことは考えないなぁ。今やっていることが一番最良の方策だとわりきっているから、やり直したいとは思わないけれど…」
タニアは間違っても、あの時、あの事故の時に自分が死んでいればよかったとは思いたくなかった。
今、自分は生きていて、きつかったりつらかったりもするけれど、誰かと話したり、好きなことをしているときに本当に幸せなのだと感じていた。
「タニアは幸せなんだね」
「ええそうよ。私は自分のことを好きでいたいから、ほかのいろんな人や物のことを好きでいたい、と思うのよ」
「ああ、だから、タニアのまわりに人が絶えないんだな…」
その若い男は、そう言って笑った。
またある時。別の若い男が、自分の勘違いから、周囲を振り回す発言をしたことがあった。
「なんてやつだ」
みんなは非難轟々だったけれど、昔のままのかたくなな自分だったら、きっと到底許せなかっただろうその出来事を、タニアは思わず許してしまった。
なぜなら以前、自分も似たようなことをやってしまって、青ざめた経験が思い出とともによみがえり、妙な感じがした。失敗もお互い様だった。
周りの人間はタニアの態度を見て、不思議がったり、納得したりさまざまだった。
お互いに自分の姿と重ね合わせてみたりして、それぞれが成長していった。
ある者は言った。
「惑星開拓の仕事は、今自分が快適に暮らすことよりも、後から新しい場所に希望を抱いてやってくる他の誰かのために世界の端を切り拓いていく仕事だ。それはすごく夢があって、実にやりがいがある仕事なんだ」
タニアが地球にいた頃には見たこともない、きらきらしたまなざしが確かにそこにあった。
「ここへはどんな人が来て、どんなことが起こるんだろう?」
タニアはいろんな人たちの人生の一部を垣間見るような気がした。
「コンラッドは私にとっとと帰れ、と言ったけれど、私はここでやっていこう」
試行錯誤の末、タニアはそう決めた。
☆
いつものように作業にとりかかろうとしていた時、タニアがふと気づくと、なにやら不穏な雰囲気の騒ぎがもちあがっていた。
「どうかしたの?」
「タニア。第二惑星の基地が危ない。事故があったらしくて…。コロニー政府管理局から、基地の復旧作業と救助活動に必要な人員を募る緊急要請が来ている」
「!?基地にいる人たちは無事なの?」
「今のところ。でも状況は悲観的で、基地から生存用の空気が少しもれだして、このままいくと基地自体閉鎖されて撤退する場合もありうるらしい」
「私もすぐ志願してくるわ」
「無理だ」
「なぜ?」
「第二惑星には女性は行けない」
「なんでそんなのに性差別なんて時代錯誤なことやってるの?」
「差別じゃない。区別だ。その…、生理現象とか、ホルモンのバランスとか、女性特有の身体的理由で、現場の作業に支障をきたす場合が考慮されるので」
「………」
タニアはその足でコロニー政府管理局に直談判しに行った。
「第二惑星に私を行かせてください!必要ならばホルモンの分泌をコントロールする薬剤を投与してでもかまいません。今すぐにでも行きたいんです」
「…理屈上、男女の能力に差はないと言いますが、現実的には明らかに違いがあるんですよ。それはもう、薬剤でどうこうというレベルじゃない。それに薬剤の思わぬ副作用で将来、子どもが産めなくなったりしたらどうするんです?体を壊してからじゃとりかえしがつかない。第一、現場が危険なのを承知で言ってるんですか?」
応対した局員は奇妙なものを見る目つきでタニアを見た。
「私、わかってます。それでもどうしても行きたいんです」
局員は首を横にふりふり、さげすむように彼女を見た。
「だいたい、その長くのばした髪もねぇ。最前線で命がけで働いている人間なら、見た目なんかより機能性を重視するものでしょう?あなたは無意識のうちに自分が女性であることを自覚しているんだ」
タニアは黙りこんだ後、いきなりその局員の机上からハサミをひっつかんで自分の髪をばっさり切り落としてしまった。
「私はたしかに女です。でも、それ以前に一人の人間なんです」
彼女の剣幕にさすがの局員も声が出なかった。
「学生の頃、級友たちの多くを事故で亡くしました。あの時私は何も出来なかった。…今第二惑星に行かなければきっと後悔する。あの星には、私の大事な仲間がいるんです。窮地にはなにがあっても駆けつけて、自分の手で救いたい。安全なところでただ指をくわえて心配しているだけなんてまっぴら!他のいろんな物を無くしたとしても、……あの人たちがいなくなるのに比べたら、なんてことはない」
いつのまにかタニアはぼろぼろ涙を流していた。
「正気じゃない…」
局員はそうつぶやいたが、逡巡の末、正式書類を手早く作成すると、タニアに第二惑星行きの指示を与えた。
「メンタル面で多少不安なんですよ、あなた。でも、一応、あなたは現場の作業に必要な知識と経験がある。時間も人手も足りない。…なによりもその真剣さと熱意を汲みました。これで死んだりしたら本当に許しませんからね」
「……ありがとう」
タニアはその局員に微笑んでお礼を言った。
タニアはそしてまっすぐに歩いて行った。
☆
「あんた、ここで何やってる?」
口をぽかん、と開けてしばらく眺めた後、コンラッドはやっとのことでそう聞いた。
「復旧作業」
「あのな…。あんたさぁ…」
「今、手が離せないの。言いたいことは後でいくらでも聞くから、あなたは体力回復に専念して」
コンラッドは不眠不休で働いていたらしく、憔悴しきった様子でひきあげていくところだった。
「それから、前にも言ったけれど、私は『あんた』じゃなくて『タニア』よ」
「はは…。俺が今まで会った中で一番すげえ女だ」
それは今の彼女にとって最高の賛辞の言葉だった。
タニアは気密服姿で問題の箇所の状態を詳しく調べながら思った。
「…私一人だけじゃ限界があるけど、幸いなことにここでは命がけで信頼できる人たちと一緒だから不安じゃない。こんな状況なのに、心が躍る。私は生きていることを心で感じる。本当になんて遠くまで来てしまったんだろう!でもまだまだ未来は可能性に満ちている。こんな風になれたことをみんなに感謝しなくちゃね」
くすっと彼女は笑った。
そうして顔をあげつぶやいた。
「さあ、とりあえずここをなんとかするわよ。話はそれから」
☆終わり☆