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クラウンとカレン


 合流してのおはなしもひと段落したので、そろそろカグヤたちは本格的にモモの救出のため、また進まなければなりません。ですが。

「え、ドロシーはご一緒してくれないのですか?」

 ほんとうにそんなこと思いもしていなかったので、カグヤはすっとんきょうな驚きかたをしてしまいました。女王さまとしてそれは恥ずかしいことでしたので、咳払いをして落ち着きますが、でも困ってしまったのもたしかです。

「ドロシーはアリスの護衛だものね。そもそもアリスがひとりぼっちってのも問題じゃない。ひとりは助けに行かないと」

 ドロシーの背中でカレンが言いました。そのように言われてしまえば、それはまあそのとおりで、とっても正論です。

 ですけど、カグヤはそれでは困るのです。

「ではカレンはワタクシが背負いましょう」

 クラウンが申し出ました。ダメです。このままではそんなふうにおはなしが進んでしまいます。

「アァラ。王さまであるクラウンに背負っていただくなんておそれ多いわ。だいじょうぶ。あたしに足はないけれど、この両腕でガサガサ、ひとりで動けるから」

 ドロシーの背中から飛びおりたカレンは、自分で言ったとおりガサガサと動き回りました。思っていたより機敏な動きですが、そんな動きをしていたらまるでもう妖怪みたいです。

「いやはや、遠慮しなくてよいですぞ、カレン。ワタクシ、戦闘ではいっさい役に立ちませんからな。すこしはお役に立たねば」

 そぉれ、捕まえますぞ。などとおどけてクラウンは、ガサガサしているカレンを追いかけます。クラウンはいつも道化みたいに奇妙な動きかたをするので、カレンのガサガサといっしょに見るととっても気持ち悪いごようすでした。

「アッハハハハ!」

「そぉれ、そぉれ」

 カレンもわざと捕まらないように逃げ回ります。クラウンのほうだってあえて捕まえられそうで捕まえられないくらいの動きで戯れています。とっても気持ち悪いです。

「カグヤさま、お顔がまっ青ですよ?」

 ドロシーが心配してカグヤに声をかけました。

「ドロシー、助けてください」

 カレンとクラウンから目を離さないままに、カグヤは言いました。

カレンとクラウンあんなのといっしょなんて、わたくし耐えられません」

 ドロシーの手をぎゅっと握って、カグヤは言います。うーんとドロシーも困ってしまいましたが、でもまあ、アリスならとうぶんひとりでもだいじょうぶでしょう。


 ――――――――


 そのころアリスは、栄会里さかえざとの入り口に到着していました。

「わあ……」

 さすがは妖怪たちの総本山。まだ中に入っていないのに妖怪たちがうじゃうじゃいます。だいたい誰も彼も驚くような見た目をしていておそろしい感じなのですが、アリスは見た目で良いとか悪いとか決めつけませんし、それにみんな楽しそうですからあんまり『怖い』って感じじゃありませんでした。

 ひとつしか目がない妖怪。腕がいっぱいある妖怪。身体がまっ黒な妖怪。全身毛むくじゃらな妖怪。おっきな頭の妖怪。牙も角も鋭い妖怪。はんぶん透明な妖怪。羽の生えたお鼻の長い妖怪。みんなみんな楽しそうです。ただ歩いているだけですのに、それはなんだか踊っているってくらいに楽しそうです。

「うーん」

 そんな中でアリスは高いところを見上げて小難しいお顔をします。腕組みをしてほっぺたを膨らませて、どうしようか考えているのです。

「…………」

 そんなアリスとお目めをあわせて、お相手はだんまりです。そもそもお口があるのかもわかりませんし、もしあったとして、そしてしゃべったりなんかしたら、それだけであたりのみんなが吹き飛ばされそうなくらい大きいので、だからしゃべれないのかもしれません。

「うーん。うーん」

 きれいなブロンドの髪と、頭の真っ赤なリボンを揺らして、右のほうを見ます。ずぅっと高い塀が続いていて、とてもじゃないけどアリスじゃ乗り越えられそうもありません。

 それからスカイブルーのワンピースをはためかせて左を見ます。やっぱり塀が続いていて、どこからも入れる感じはしませんでした。

「うん?」

 だからもういっかい正面を向いて、高いところのお目めと目をあわせます。わからないわ、わからないわ。そんなお気持ちだけお顔に張りつけて、こてんと首をかしげました。

「…………」

 高いところのお目めはひとつまばたきをして、あきれたみたいなようすになります。それからゴゴゴゴ、と身体を動かして、自分のお腹のあたりを指さしました。『閉鎖中』って書かれた看板が下がっています。

「そんなの知ってるわ!」

 アリスはおっきなお相手に聞こえるようにおっきなお声で言いました。すこしだけまわりの妖怪たちがアリスを見ましたけど、大声を出すなんてこのあたりではふつうみたいですから、ぜんぜん騒ぎにはなりません。

「おーい、開けてー! おじいさんにおはなしがあるのー!」

 妖怪たちをかきわけてずんずん進みながら、アリスはひとつしかない入り口を閉じているおっきな妖怪、ぬりかべに大声で呼びかけました。

 走って進むとちゅう、いろんな妖怪たちにぶつかってごめんなさいをします。妖怪たちは不思議な姿をしている者も多いですから、かきわけるのもたいへんなのです。腕だけとっても大きいからぶつかりますし、頭が大きいからぶつかりますし、逆に小さすぎて蹴っ飛ばしてしまいそうにもなりましたし(ぎりぎりでストップしました)、背中に生えた羽とか長いお鼻にぶつかりそうにもなりました。

「…………あれ?」

 アリスはなんだか変な感じがして立ち止まります。知っている誰かがいた気がしたのですけど、ふりかえって探しても見つかりません。

 見つからないんだけど、でも、そのごちゃごちゃしたみんなの中に誰かがいる気がしました。知っているようで、きっと知らない誰かが。

「まあいいわ。とりあえずぬりかべさんに開けてもらえないか聞かないと」

 まずはやらなきゃいけないことをやりにいきます。戦争を止めるために、妖怪の王さまに会わなきゃいけません。そしてそのために、まずは栄会里に入らなきゃいけないのです。





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