ベートの物語は後悔と内省の物語でした。
かつてのベートはとっても冷酷でとっても傲慢な王子さまでした。お城の使用人たちにはいつも強く当たりますし、お国の民たちが困っていても知らないふりをしてほったらかしにしてしまう王子さまです。だから誰からもきらわれていました。だけどベートはそれでいいと思っていたのです。
王族が誰かに媚びるなんてことがあってはなりません。王には王たるべき立ち振る舞いがあるのです。それを間違っては王族としての威厳がたもてませんし、たくさんの使用人や国民にも言うことを聞かせることができないと思っていたのです。
だけどそんなベートのことを間違っていると思った者がいました。それはとある妖精さんでした。
『あなたの心はけがれています、王子さま』
「私は王子としてただしい私であるだけだ。いったいどこがけがれている」
『それはご自分で気づかねばならないことです、王子さま』
そう言って妖精さんは魔法をかけます。けがれた心が、そのまま見た目にあらわれてしまう魔法です。
『たしかめてごらんなさい。あなたのそのけがれた姿が誰にも愛されない姿であることを。もし期限までにあなたのその姿を心より愛してくれる者があらわれなければ、あなたはその姿で一生を過ごすことになるでしょう』
そう言って妖精さんは一輪のバラを差し出しました。
『このバラの花びらがすべて散ったときが期限です。ゆめゆめお忘れにならないように』
そうして妖精さんは消えてしまいます。ベートはひとり残され、全身毛むくじゃらの獣のような姿で、おそろしい声を上げて泣きわめきました。
やがてベートは、ひとりの娘をお城に迎え入れました。その娘はとても美しく、またとても気立てのよいしっかりとした娘でした。獣の呪いにかかってからもう何度もいろいろな娘を迎えては失敗したのちのことですから、もうベートも半分あきらめかけていました。というのも、約束の期限をあらわすバラの花びらも、あと一枚をのこすだけとなってしまっていたからです。
自暴自棄になってその娘にも冷たく当たるベートでしたが、どうしてだかその娘はベートのことをこわがるでもなく世話を焼いてくれます。きっと孤独に生きるベートのことをかわいそうに思ったのでしょう。かいがいしく世話をしてくれる娘のことをベートもすこしずつ好きになっていきました。
それからベートは心を入れ替えて態度をあらためました。娘を大切にあつかい優しくして彼女に気に入られようとがんばったのです。優しくすることを知らなかった王子さまですから、そのやりかたは最初、間違ってばかりでした。だけどやがてその気持ちを不器用ながらも娘に伝えることができるほどにまでなれたのです。
こうして娘と獣の心が通じ合ったとき、ベートの呪いは解けました。それは最後のバラの花びらが落ちる、ぎりぎりのときでした。
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こうしてベートの物語は終わったはずでした。ベートは美しい王子さまに戻り娘と結婚して、やがて王さまになったのです。こんどは誰にでも優しく国中のどんなちいさな困りごとにも手助けをするような、みんなから愛される王さまになったのです。
だけど、ふとしたときに思い出してしまいます。使用人やお国のみんなから笑顔を向けられていると、かつてその笑顔が怯えの表情だったことを思い出し、美しい姿に戻った自分の姿を見ると、かつて冷酷で傲慢だった自分を思い出すのです。
それはおそろしいことでした。かつて誰からもきらわれていた自分はいなくなってなんかいなかったのです。ただベートが心の奥深くに追いやってしまっただけで、そこには変わらずあのときのベートものこっているのです。
いまのベートはとっても優しく、誰からも愛されています。だけどそのベートは娘に気に入られるために、呪いを解くために、ベートががんばって作り上げたにせもののベートでもあるのです。
「あのころの私が見ている。いまの私を。おろかだと、王たるにふさわしくないとあざけるのだ」
だからベートは獣の姿に戻ったのです。かつて美しくも冷酷で傲慢だった自分を消すために。
自分は優しくて愛情深い王さまだと、自分自身に信じさせるために。
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お空に見えたのは少女の姿でした。ゴブリンたちに連れ去られているようです。お空を飛んでいるのは『怪談の世界』の一反もめんにしがみついているからみたいです。ですが、こまかなことはどうでもよかったのでした。
問題はその少女がベートのお国に住んでいるはずの者だったということです。
どうしてひとりで? ベア王の目もかいくぐって? ゴブリンたちがいつのまに? たくさんの疑問がわいてきますが、それよりなにより、まずやらなきゃならないことはひとつでした。
早く助けてあげなきゃいけません。そのための方法を選んでいる暇もありません。
だからベートはとっさに呪いを解いたのです。
「『
自分のきらいな自分になってでも、自分の大切なみんなを守るために。