いざ決勝レース。コーナー中盤までは府大会と同じかそれ以上に良い感じで駆けれた。しかしコーナーを抜ける辺りで内側レーンの柳生が猛然と加速し、俺を追い抜いていった。ピッチを速めて走りのリズムを上げて、柳生の後を追うが、追い返せる気がしない。ジリジリと差が広まっていく。前周回よりかは近い位置で彼の背中が見えるが、彼と並んで走るのはまだ先になりそうだ……。
見事に負けた。それでも初の近畿大会で2位と悪くない結果(タイムは22秒30台、セカンドベスト)ではあった。優勝タイム21秒90を出した異次元と思えるくらい速い柳生は、知り合いの選手と何か話している。
中身が色々開き直った大人の俺だが、一度も話したことが無い相手に自分から話しかけられないのは相変わらずということで、柳生とは何も話すことなくトラックを去った。あ、魚住とは少し喋ったな、うん。
それから1、2週間は全国大会に向けての練習に専念した。仕上がりとしてはこれまでにないくらいの出来、良い走りが出来る気しかなかった。
全国大会前の最後の学校練習の日、短距離のみんなから応援の言葉やスポドリと補給食をもらった。こうして応援してもらえるくらいの人望が俺にもあったことを嬉しく思った。
8月17日、全国大会1日目に俺は大会の舞台である鳥取県布施に到着した。レースは翌日ということで、人が少ない時間帯にサブトラックに入って前日練習をこなし、その後は競技観戦して過ごした。何度見ても中学生が400m49秒台で走るのやべーよな。去年なんかは48秒前半で走ったバケモンがいたんだって。
2日目、1本目のレースに合わせていつもより早く起きて、飯も早い時間で済ませて、シャワーも浴びて身体を完全に起こしてやる。予選レースの2時間前にサブトラックに到着し、ウォームアップをこなす。
そして午前最初の競技として200m予選が始まり、俺はその5組で走った。今周回は柳生とは違う組、初めて見る顔しかいなかった。
その中で俺の予選レースがスタート。前周回とは違う、俺はあの時よりもずっと速い。なので組1着でゴールして、しかも余力を残しての予選突破を決めた。
約1時間半後、準決勝レースの時間。予選時よりも気温は高くなっていて、何もしてなくても汗が出てくる。令和の酷暑を経験している俺だが、平成の真夏もやっぱり暑い。前周回はこの暑さにやられてしまい、散々な結果に終わった。
今回はあんな無様を晒したりはしない。調子も問題無い。いける……!
アナウンスの選手紹介に俺はしっかり応えて手を軽く振ってやる。「位置について」がかかっても余裕を崩すことなくスタブロに足をかけて、クラウチング体勢となる。
「用意」――号砲、良い感じの飛び出しが出来た!大きな動きで強く押して、スムーズに加速する――これも出来てる!ここでつくった加速を殺すことなく、コーナーを駆けていく。
カーブ抜けて直線に入る区間―――いいぞ、スゥ―――っと直線に入れた!ここでさらにリズムを上げた後、そのまま何もしないをするだけだ。外を走る柳生との差がほとんどない。でも内側から静岡修善寺の日和にすーっと抜かれた。別に構わない、追うだけ無駄だ、余計な力を入れるな、このままいけ―――――
速報掲示板には3着に俺の名前が表示されていた。準決勝は着順で決勝へ行けるのが2着まで。3着以下の選手は全体でタイム上位2名が拾われて決勝へ進める。俺が今走った組が準決勝最後の組。2組終了時の決勝進出のボーダーは22秒50。これより速いタイムじゃないと決勝へは行けない。
しばらく経って出てきたされた俺の正式タイムはというと、22秒―――55。
残念ながら数歩及ばず、準決勝敗退だ。前周回よりは速いタイムで、全体で9位という今までいちばん良い位置に上れたが、準決勝で散ったという事実は同じだ。
はぁ~~~あ。中身が高校2年生以上だというのに、4回も人生やり直してるのに、まーだ全国決勝に走れないのか、俺。やっぱ弱いなー。こんだけやっても舞台にすら上がれないなんて。あー弱い弱い。
だけど、前周回と違ってスッキリしてもいる。やれるだけのことはやれた。猛暑炎天下の中でいちばんのパフォーマンスを発揮出来たと言える。それでダメなんだったら、仕方ないとしか言えない。
それにまだ中学の大会だ。ここから高校、大学、その先がまだある。ここで勝てなかったからといって腐ることはない。高校や大学で勝てれば良い。今ここで必要以上に目立つ必要も無い。200mを21秒で走ったり100mを10秒で走ったりするのは、高校に上がってからでいい。
「ま、中学陸上はこんくらいで十分やろ」
ようやく、このやり直し人生に一つ区切りを入れられそうだ。